表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
12/63

12葉 はじめての防衛戦・下

 巨大な綿毛が飛び散り、宙を舞った。 

 アメミットが夢婦屯に到達する前に、だ。

 5つに分かれに広がる綿毛。

 そして、アメミットを包囲する。

 あれは綿毛じゃない。綿幕楽だ。

 俺の根本(あしもと)のマクラたちはちゃんといる。まさか、言い付けを守らずに体毛の中で増やしてたのか? どうやら彼女の子づくりへの欲望は俺たちの忠告を破るほどに膨らんでいたらしい。


 ぐめぇ。

 1匹が鳴く。

 ユメちゃんに突撃していたアメミットは突然、進路を変えて鳴いたマクラを追い始める。

 ぐめぇ、ぐめぇ。

 別の2匹が鳴く。

 アメミットは足を止めて、鳴いたマクラの方を交互に見比べる。

 

 ひょっとしてこれがマクラたちの奇跡の力?

 ぐめぇ。

 いつの間にか後方に回りこんだ1匹が鳴く。

 アメミットは体をねじり後方を確認する。

 

 おお。そうだ。

 マクラたちの力は<注目の奇跡>とでも言えばいいだろうか。

 完全にアメミットを翻弄している。

 最後の一匹がよそを向いているアメミットに目掛けて疾駆する。

 重い頭をあえて前に下げ、重心を進行方向に傾ける。

 いつもとは信じられないスピードで5匹目がアメミットに迫る。

 まさか、ここでマクラが大金星を飾るか?


 ぐめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


 雄叫びとともに5匹目は芝生の大地を力強く蹴り飛びつく。

 捨て身の突進だ。

 しかしその弾丸めいた体は、雄叫びによって振り向いたアメミットの大きなワニ口の中に吸い込まれる。

 喉にマクラが詰まったことでアメミットが暴れだす。


 マクラたちが命を賭して作った隙だ。無駄にはしない。


「マヤ、再生のきのみだ。ユメちゃんに渡して」


 まず、負傷者のフォローだ。

 俺はきのみを生み落とす。

 着地する前にマヤが捕まえ、ユメちゃんへ運ぶ。

 次だ。

 土の下の根っこに意識を集中する。

 いけるか?カーバンクル。

 バシバシと根を力強く叩く感触。

 よし。ファイトだっ、一気に決めるぞ。


 巣穴から出てきた1匹の小動物。アミメットめがけて一直線に駆け出す。

 銀色混じりの黒い毛並み。逆L字型の長い耳。身体程に大きく膨らんだしっぽ。その付け根の両サイドから下向きに生える細めの2本の小しっぽ。

 姿が変わり、もうキツネとは呼べなくなったカーバンクルは撤退を始めたユメちゃんと鳴き続けているマクラたちの間を縫って、アメミットの前に躍り出る。

 キュイーン、と遠吠えを上げる。

 黒かった額の宝石が赤く輝き出す。

 体制を立て直したアメミットがカーバンクルに向き直る。

 先程の凪ぎ払いの構えだ。 

 にらみ合う2匹。

 4本の足と2本の小しっぽでまわりを回るカーバンクル。

 耳をまるで触覚かのように突き出し上目遣いのカーバンクル。

 互いに隙を伺う。静寂が辺りを包む。


 突然、アメミットの下半身が大地にめり込む。

 大地が沈んでいる。砂地ならともかくここは楽園、芝生の上。自然に起こるはずがない。いつの間に移動したのか。アメミットの前足にカーバンクルが噛み付いている。いや、カーバンクルは元の位置から動いていない。

 カーバンクルが噛み付いている。

 さっきとは反対の足に噛み付いている。

 その足の関節に噛み付いている。

 アメミットの脇腹に噛み付いている。

 足元の芝生から次々に現れるカーバンクルが全身に噛み付いている。

 きっと沈んだ下半身にもカーバンクルが噛み付いているだろう。


 俺がカーバンクルに与えた奇跡、それは蟻の力。強大な繁殖力と社会力だ。

 リーダーのカーバンクルが地上で囮になりつつ獲物の位置を指示する。その指示で巣穴から獲物の下まで穴を掘った仲間が地下から奇襲を仕掛けたのだ。

 現在アメミットはカーバンクルたちに覆われて見えない。下半身に体重が乗せられないせいでパワフルな攻撃が出せずにもがく。蟻は自分の何十倍も大きい生き物を数の力で狩る。アメミットとカーバンクルの体格差は4~5倍程度。全く話にならない。

 カーバンクルたちは徐々に沈んでいき芝生の下に姿を消した。いままでのやりとりが嘘のようにあっけなく戦いは終わりを迎える。


「おめでとうございますっ、タイジュさま。アメミット討伐完了であります」

「マヤ。ユメちゃんは大丈夫? 無事? 喉に矢が刺さるなんて俺の奇跡でも間に合うかど

「大丈夫でありますよ。もこもこに阻まれて致命傷は受けてないのでありますよ」

「よかった。……ホントによかった。・・・ねぇ、マヤ」

「なんでありますか?」

「俺、生きてるよね」

「当然でありますよ。マヤたちの勝利ですから」

「怖かった。怖かったよぉ」


 堰を切ったように感情があふれ出す。

 人生で初めて体験した命の危機と戦闘。

 逃げることのできない恐怖と戦えない不甲斐なさ。

 花と散った仲間と打ち取った外敵。

 もう自分が何を考えているかさえわからない。

 きっと人間の体なら俺は泣いているのだろう。

 

 マヤが俺の幹をそっと触れ、そして抱きつく。

 一瞬だけ母性を感じたような気もしたが、彼女も泣き顔だった。


「マヤも怖かったでありますよぉ。ぐすっ。私の矢のせいで、やつに利用されたせいで、ぐすっ、ユメちゃんが、タイジュさまが。ううううう」


 こうしてはじめての防衛戦は幕を閉じた。



初戦闘終了。次回で1章ラストです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ