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転生大樹の楽園づくり  作者: 笛音狗
大樹の開園準備
10/63

10葉 カーバンクルの入園

 今、ユメちゃんの目の前にキツネのような小動物が倒れている。蟻のように小さい。虫の息だ。

 

「タイジュちゃん、どうする? 奇跡の力に干渉してる。さっさと止め刺す?」

「ダメ。待って。俺の前まで運んで」


 この子を助けたい。そう思った。既に起きてしまった弓虫やあっと言う間に事の起こったマクラたちの時とは違う。救える命だ。


「タイジュちゃん、これは貴方にとって

「いいから。早く運んで。きのみで治療する」


 夢婦屯がキツネを運んでくる。

 俺は枝股に集中し、きのみを生み出そうと試みる。

 頼む。成功してくれ。

 再生の奇跡を込めたきのみ生み。

 マヤがいない状態で初めて使う奇跡だ。

 本来ならマヤが知らない奇跡は使えないのがルールだ。

 しかしこれは<葉再生の奇跡>と<きのみ生みの奇跡>の応用。

 きっと大丈夫。きのみよ。お願い。


 枝股からきのみが落ちる。

 きのみがキツネの前に転がる。

 きのみの方がキツネより大きい。

 キツネはきのみの匂いを嗅く。

 あいかわらず、ぐったりしている。

 頭を上げ一口、噛る。

 体が半分起き上がる。

 二口、三口、食べる。平らげる勢いでかぶり付く。


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 キツネは安らかに寝ている。身体が上下動き、息をしている。きのみの奇跡が効いたみたいだ。どっと疲れた。やはり、マヤがいないと奇跡を使うのが難しいみたいだ。でも、前のように気を失ったりはしない。俺の奇跡力は転生時より上がっているのだ。


「タイジュちゃんは死ぬの見るのが嫌い?」

「嫌い……というより怖いんだと思う。いままでの世界じゃ(えん)がなかったし」

「私のこと、薄情に思ってる?」

「正直に言って、あまりわからないかな。でも、この世界じゃ、俺の方が非常識なんだと思うよ」

「命は平等じゃないと私は思う。私はタイジュちゃんとマヤちゃんが大事」

「優先順位ってこと?」

楽園(ここ)では貴方は王様。外敵は手強い。これから先、タイジュちゃんのためにいっぱい仲間が傷つく。この前の事故とは比べ物にならないくらいこともきっと起こる。でも、それは精一杯この世界を生きた証。責任を感じたりしちゃダメ」


 ユメちゃんが巻き付いてきた。あたたかい。もふもふの感触がで張っていた気持ちを落ち着かせてくれる。

 もしかして、綿幕楽をいっぱい増やしてたのは俺を守るための夢婦屯なりの作戦だったのだろうか。しかしユメちゃんよ。羊頭のアヒルがいっぱいいても戦力にならないのではないか? 草食獣の武器の足はなく、鳥の武器の嘴もない。せいぜいできて囮だ。どうせなら立派な牙や爪のある動物を増やして欲しかった……ん。


 あるアイディアが浮かぶ。咄嗟に助けたこのキツネだが、仲間にできないだろうか? 外からきた魔法生物でも奇跡の力で治療できた。さらに能力を与えて、ここに住ませるのはどうだろう。とてもいい考えだ。


 ただ、マヤからは反対されそうだな。だったら今やっちゃうか。きのみで与えたい能力は初めて試すものだ。しかし、さっきの奇跡はうまくいった。今回も大丈夫だ。そうだ、ユメちゃんが内容を知っていればマヤが知らなくても問題ないんじゃないか?


 大事なのは俺がその奇跡を起こせると周りが信じていること。それに今回与えたい力の内容とユメちゃんの思考の相性はばっちりだ。絶対、うまくいく。今の俺ならきっとうまくやる。


「ユメちゃん、ありがとう。おかげでいいこと思い付いた。協力してほしい。新しいきのみを作りたいんだ。」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 昼下がり、マヤが帰ってきた。水分多めのきのみをあげると、いつかのように上半身ごとを突っ込み、きのみに袴を生やすスタイルで貪る。お疲れ様。行儀はどうにかした方がいいけど。


「ぷっはぁ、タイジュさま、敵の正体が掴めました。アメミットと呼ばれる獰猛な獣であります」

「どんな動物? って言っても知らない動物を言葉だけじゃイメージしきれないけど」

「ふっふっふ。こんなこともあろうかとユメちゃん転生時に実家の便利グッズを持ってきてもらったであります!」


 魂だけでどうやって持ってきてもらったんだろう? などと思っているとマヤが上衣の袖から巻物を取り出す。


「タイジュさまのいた世界とこの世界の動植物がまとめてある図鑑であります!」


 おお、間違いなく便利グッズ! でも巻物薄くない? ちゃんと載っている?

 マヤが巻物を紐解いて、和紙部分をスワイプする。あっ、これでありますといいながら、親指と人差し指でスマホ画面を拡大するような操作をし巻物をこっちに向ける。和紙にのっている絵が飛び出し、ホログラムが形成される。古風な外観だけど、タブレット端末? いやいや、オーバーテクノロジーだよ、これ。


 アメミット。第一印象はサバンナのキメラだ。ワニ、ライオン、カバなどサバンナに住む強そうな生き物を端からくっつけましたと言う具合だ。異世界にはこんなヤバイのがいるのか。そんな風にと思っているとマヤから、こいつタイジュさまの世界の伝承にもいたでありますよ。と言われてしまった。俺は元の世界の知識も怪しいのかもしれない。


「マヤちゃん、作戦は?」

「アメミットは強靭な肉体を持つので、弓だけだと討伐は無理であります。撃退だと仲間を引き連れて戻ってくる可能性が高いです」

「討伐は確定ね。私が出る?」

「足止めは可能でしょう。しかし、アメミットの攻撃力はユメちゃんでも舐めない方がいいであります。なるべく戦闘時間を短くするために、決定打が欲しいところでありますね」

「タイジュちゃん、あの子はどう?」

「む。あの子とはなんでありますか?」


 落ち着いて考えるとかなり身勝手な行動だったな。マヤさん、ごめんね。俺はマヤに助けたキツネの話をした。今は俺の根本に巣穴を掘って休んでいる。マヤの図鑑によるとカーバンクルという動物の一種らしい。森にいるのが一般的だが、この子のように砂漠に適合した種もいるようだ。


「なんときのみを食べさせて、魔法の力を奇跡の力で上書きしたとでも言うのでありますか。流石はタイジュさま。敵を取り込むとは意趣返しってやつでありますね」

「敵に取り込まれた記憶はないんだけど」

「それに奇跡の力の発現に大切な、信じる心の在り方。その神髄が少しずつ分かってきたでありますね」

「ごめん。それあんまりよくわかってないんだけど」

「その子の力を借りれば行けそうでありますね。アメミットの狩りの習慣を考えるとあと2日後に襲撃が予想できるであります」

「2日後だね。カーバンクルのお世話は任せて」 

「私もみんなを守る」

「マヤもこの弓でバンバン敵を射るでありますよー」


 さあみんな、準備開始だ。


 

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