女装が似合いそうと思ったら、似合うどころじゃなかった。
久々の新作です。
何とか書きました。
俺は佐久間武。高校１年生だ。
身長は１７２センチ。
中肉中背。あまり特徴のない平均的な容姿をもつ男子である。
今は５月の平日の午後。
近所に住んでいて、同じ高校に通っている親友の
豊田琴音が遊びに来ている。
女性的な名前で紛らわしいが、男子だ。ちなみに、クラスも一緒。
いっしょにゲームをしたり、マンガを読んだり、学校のどうでもいいうわさ話とかをして
グダグダしている。
二人とも運動部とかはいってないので、学校からは早く帰ってきて、週に２，３回はこんな
感じだ。
俺たちは、琴音の部屋には行かず俺の部屋ですごす。
俺の部屋の方が、マンガがいっぱいあるからだ。
父親が結構マンガ好きで、もらったものが山のようにある。
それにしても、琴音は気心知れているし、性格も趣味もわかっているので、一緒にいるだけで楽しい。
二人とも、オタク趣味で、マンガやゲーム、アニメが大好きだしね。
休みの日は、一緒に映画を見に行ったり、街に遊びに行くこともあるが、
平日はインドアの俺たちである。
で、
琴音が部屋にいるとき、ちょっと不思議な気分になる時がある。
けっこう、ドキドキしてしまうのだ。
琴音は個性的な容姿をしている。
小柄で華奢。
たぶん身長は１５８センチくらい。
しかも整った顔だちで、輪郭は女の子のように丸みを帯びている。
髪も長く伸ばし、女子のセミロングくらいある髪の毛を常に後ろで束ねている。
縁の太い黒いメガネをかけていて、ちょっと見るとメガネ女子？って雰囲気。
可愛いっ。
特にこの半年くらいで可愛くなってきてる気がする。なぜだろう。
どんどん男っぽくなる時期なのに。
第二次性徴はどうなったんだ？
そんな琴音の今日の服装は、長袖のTシャツとジーンズだった。
学校から帰ったあと私服に着替えている。
最近まで、パーカーなどのダボっとした服を着てたんだけど、
気温が上昇して、薄着にしてきたようだ。
たぶん、女物だ。何となく男物と違う。
体格的に女性ものがぴったりだって言ってたし、そうに違いない。
３才年上のお姉さんから要らなくなったカジュアルウエアを
よくもらうらしい。
なんか、女の子に見える。
・・・うーん、待てよ。
前言撤回だ。
微妙に女に見えない。
そうか！胸がないんだ！
それが違和感の正体だ。
パーカーとかのだぶっとした服を着てると女の子っぽく感じるけど、
体の線が出るTシャツを着てると、胸が平らだから、男だってわかってしまうんだ。
どんな胸がない女の子でも、少しは膨らんでいる！
女の子のTシャツ姿って、そういうもんだ。
（ところで、学校に通っているときの琴音だが・・・
制服が男子だから女の子に間違われることはない。
さらに、整髪料を付けて前髪あたりをちょっとワイルドにして、
可愛く見えないように工夫している。
今とイメージがちょっと違う。
今は私服だし、家に帰ってシャワーを浴びた琴音は
整髪料を落とし、前髪を前に垂らしている。
琴音は学校で長い髪の毛について訊かれると
趣味のコスプレのためって説明しているんだ。
あ、俺も、琴音も彼女はいない。
俺は女の子にモテるタイプじゃない。
容姿は悪くないと思うが、うまく女子と話せない。
琴音の方も女子からはマスコット的扱いをされていて、
可愛いと言われるがモテない。
恋愛の対象相手にはされてない感じだ。）
うーん、残念だ。
胸がないから女に見えないけど、本格的に女の子のカッコさせたら
どうなんだろう？
まじ、可愛い女の子に見えちゃうかも。
今でもちょっと可愛いんだから。
そしたら、デートでもしちゃったりして。
なんか楽しそうだ。
俺って女の子とデートしたことないから、いい練習になりそう。
俺は想像しただけで、ドキドキしてしまう。
でもな、
俺はホモじゃない。
女装した琴音に惚れるようなことはあってはならない。
うん・・・惚れたりはしない。
うちの家族、父も母も、中学３年の妹の舞香も、
「女の子っぽい琴音君」って言う認識をしているけど・・・。
３人とも、可愛いなあ～なんて言ってるけど・・・。
琴音はなぜか、学校にいる時と違って、俺の家に来たときや
俺と二人っきりになっているときはなぜか可愛い声を出すけど・・・。
さて、俺は雑談しているうちに、
琴音の服装の違和感について、スルー出来ない気分になってしまった。
女ものの服を着ているはずだが、女装のようであって、女装でない。
胸の膨らみがないから、結局は女の子に見えないのがちょっと残念だ。
俺は余計な突っ込みをしてしまう。
「あのさ、琴音。」
「何？」
「その長袖のTシャツとジーンズ、女物か？
何か、女っぽいな。
後ろからみると女の子かなって思っちゃうかも。
でも、胸がないから、やっぱり男だってわかっちゃうな。
うーん、何となく残念だ。
琴音って、本格的に女装したら、似合うんじゃないか？」
「ええーっ！
そんなこと考えてたの？
確かに姉貴からもらったシャツとジーンズ着てるけど・・・
女の子っぽく見えるかな？
そうだね、胸を観察されれば、女の子じゃないってわかるよね？
本格的な女装が似合う？
俺を女装させたいの？」
琴音は可愛らしい声で俺の意見に答えた。
やっぱり、学校にいるときと声が違う。
女の子が無理して「オレ」って言ってる感じだ。
「いや、何となくそう思ったんだ。
悪い。別に女装なんかしたくないよな？
変な事言ってごめん。
何となく、そう思ったんだ。」
そう、琴音は髪型も女っぽいし、服装もレディースを着るが、
あくまで、ユニセックスな服を身に着けるだけだ。
下着は男物を履いているはずだし、スカート等のひらひらした女の子っぽい服を
着るわけがない。
お姉さんも、可愛い服はあげたり、貸したりしないだろう。
そうだ、琴音は、完全に女を示す服は持っていないはずだ。
「あのさ、ちょっとトイレ借りるね。あと、洗面所も。」
唐突に琴音は俺に用を足す申告をした。
「おお、どうぞ。」
会話が中断してしまったが、生理現象だから仕方がない。
洗面所？顔でも洗うのか？歯磨きか？
何だろう？
今の会話の続きは戻ってきたらすればいい。
まさか、怒ってないよな？
ちょっと、不自然だと思ったのは、琴音が家からもってきたトートバッグを肩にかけて、
トイレに向かったことだ。
何で荷物を持っていくんだ？とちょっと不思議に思った。
男子はトイレに行くときに荷物なんていらない。
でも、質問はしなかった。
なぜか、琴音はすぐ戻ってこなかった。
あれっ、何してるんだ？
３０分後・・・
「ただいま。」と声を出して戻ってきた琴音の姿を見て、俺は驚く。
女の子になってた！
「琴音、髪の毛、おろしたのか？
あれっ、メガネは？・・・コンタクトか？
あっ！胸が出てる！
どうしたんだ？」
そう、琴音の胸は膨らんでいた。
その胸のせいで、琴音は完全に少女に見えた。
しかも髪の毛は降ろされていた。完全に女子のセミロングの髪型だった。
束ねないで、降ろした姿は初めて見た。
わ、化粧してる！まつ毛がくるんとしてるし、唇はプルンとしている。
メガネしてないと大きな目が目立つ。うるうるしてる。
完全に女の子だ。アイドルみたいに可愛いっ！
「どう？
女の子に見える？
実は、私、家では家族公認で、完全に女の子に変身してるんだ。
つまり女装してる。
下着も女性用着けてる。
武には気持ち悪いと思われたくなくて黙ってたんだ。
男が好きで、女装してるんじゃないよ。
可愛いかっこがしたいから女装してる。
理解しづらいかもしれないけど。
うんとね、武にはいつまでも黙っているわけにはいかないと思ってた。
いつかはカミングアウトしなきゃっいけないって、ブラジャーや
メイク用品、コンタクトをカバンに入れて、準備してた。
下の下着は見えないから、いつも女の子用のショーツを履いてたよ。
知らなかったでしょ？
さっき、武から胸がないと女の子に見えないって言われたから、
完全女装することにした。
もう、割り切ることにしたんだ。
武にも、武のお父さん、お母さん、舞香ちゃん、みんなにばらしちゃう。
もう、本当の私を知ってほしい。
えーっと、・・・こんな私でも、友達でいてくれる？」
「えっ！！・・・・・・
そうだったの？
知らなかった！
女装好きをカミングアウト？
ううっ・・・そうだな・・・
何ていったらいいんだろう？
うーん・・・
あ、ああ。
いいんじゃないか？
まあ、今はコスプレする時代だし。」
俺は、頭の中で、何かが弾けたような気がした。
トンでもないものを許してしまったような気がした。
可愛い琴音が、女の子の姿で会いに来てくれる。
ワクワクするぞ！と心の中で、拍手が起こるのと同時に、
おいおい、琴音は男性だぞ。可愛くても女装した友達と仲良くするってどうなんだ。
まるで、彼女みたいになっちゃうぞ。
それでもいいのか？そんな声も心の中で、出てきた。
その時だった、女の子っぽい甘い香りが俺の鼻を刺激した。
「ん？」
「あ、私、今、コロンを付けてきたんだ。
女の子っぽく見られたくて。」
琴音は上目遣いで甘えた声で説明する。
俺は、激しく動揺した。
恋愛対象は男じゃないっていっても、ちょっと変な気分になる！どうしよう？
