表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界“日本”へ  作者: 恵夢マチカネ
9/13

第8章 別荘戦

 今回もバトル回。

 結界の消滅のよって外部との連絡が可能になり、早速、警察が呼ばれた。

 と言っても教師や生徒から事情聴取したところで、学校から出られなくなったとか、勝手にテレポートさせられるとか、警察からしてみればちんぷんかんぷんな話ばかり。

 正し、多くの教師や生徒が消えたことは行方不明事件として扱われ、正式に捜査がされることとなった。

 でもまぁ警察の手に負えるような事件ではないが……。


 事情を知っている分、下手に勘ぐられたくなかったエリカと聖子は、結界が解けたどさくさに紛れ、学校から脱出。



「くそっ!」

 腹の底から沸きあがってくる怒りを乗せた聖子(せいこ)のパンチを食らったサンドバッグが大きく揺れる。

「聖子、あいつの言った別荘とはどこだ?」

 まるで何かの物語のヒロインのごとく、逢花(おうか)に攫われてしまった(まもる)

 逢花は言った“護さんを取り戻したければ、私の別荘へ来てくださいませ。去年、誕生日パーティーを開いた、あの別荘ですわ”と。

 行く気満々のエリカ、されど場所が解らず。

「場所なら、私が知っている――けど」

 去年、逢花のパーティーに招待され、聖子は行きたくなかったが護が行きたがったので、一緒に着いて行った。逢花の所へ、護1人で行かせることなんかとても出来やしない。

「多分、罠だよ」

 それぐらいは聖子にも解る。

「だろうな、さっさと邪魔なオレを始末したいんだろうさ」

 それはエリカも重々承知。

「だからってな、護を見捨てることは出来ないぜオレはよ。第一、オレは女神皇帝を始末するために、こっちの世界へ来たんだからな」

 たった一日の付き合いでも、護はエリカの心に大きなものを与えてくれた。

 戦いに明け暮れていた彼女、こんな温かな気持ちは初めて。

「別荘へは案内してあげる、でも条件が一つある。私も連れて行って」

 聖子の中で滾っていた憤怒が姿を変えた、それは決意。

「危険だぞ」

「知ってるよ、それぐらいのこと、罠なんだから。だからって、じっとして待っているいることなんて出来ないの! 護は幼馴染なんだよ、いつも一緒にいたんだ。なのに目の前で攫われた」

 真剣そのものの顔、特に目、浅はかな考えを持つものには、決して放てない眼光、熱い、とても熱い思いか生み出す眼光。

「解った案内してくれ、聖子」

 どんな危険な場所だろうと、今の聖子はどんなことをしても着いて来るだろう、それほどの覚悟を持っている。

「確かに別荘は罠だがな、同時にチャンスでもある」

「チャンス?」

 邪魔者を抹殺するため、罠を張っている場所へ行くことがチャンスとは、これ如何に?

「あの女神皇帝は生まれたばかりだ、異世界で私が戦ったほどの力は、まだ持ってはいない」

 逢花の放つオーラは女神皇帝と酷似してはいたが、異世界で戦った女神皇帝の力と恐ろしさは薄かった。

 今なら、あれほどのチートなまでは成長してはいないはず、罠にしてこれはチャンスでもある。

 獅子の微笑みを浮かべたエリカ。



      ☆



 緑に囲まれた自然豊かな場所にある水上(みかみ)家の別荘、西洋風でありつつ、どこかノスタルジックを感じさせるデザイン。

 有名な建築家に建ててもらった邸宅。


 客間のふかふかソファーに座っている護。アンティークのテーブルの上にはビュシュ・ド・ノエルとコーヒーが置かれていた。

 向かいには逢花が腰を下ろし、優雅な仕草で紅茶を飲んでいる。

 拘束もされておらず、出て行こうと思えば簡単に出て行けそうに見える、一見は。

 実際は拉致され、軟禁中なのだ。おそらく、脱出は不可能、周囲の空気がそれを物語っていた。

「どうぞ、召し上がってくださいませ。腕利きのパティシエに作らせた品で毒など入っておりませんわ」

 ビュシュ・ド・ノエルを一口食べる、腕利きのパティシエが手掛けただけあり、かなり美味しい、もしお店で食べたら、きっと今の財布の中身に大打撃を与えてしまうだろう。

 実のところ、最初から毒の心配はしていなかった。逢花は悪人でも、毒を盛る真似などはしないタイプの悪人、決して外道ではない。

 色恋沙汰は鈍くても、こんなことは鋭い護。

「本来の計画では、登校中の護さんをDQNに招待させるつもりでしたのよ。でも休んでしまうなんて、予想外でしたわ」

 招待とは言っていても、つまるところ登校中に拉致する計画。

 ところが護と聖子がずる休み、エリカに町案内したので計画が狂ってしまった。

「言っておきますが、DQN共には“護さん”には手を出さないように命じておきましたわ」

 中庭でDQN怪物が護を襲わなかった理由はそれ。

「だから先に兵士確保を済ませました」

 さらりと言ってのけるが兵士とはDQN怪物と同じ。ジラの言った“手駒確保”とはとはこのこと、護の想像通り。

 護の知らないことだが、行方不明になった教師と生徒たち全員、逢花とは友好な関係ではない者たち。

「まぁ、こうして護さんを招待できたことですし、宿敵であるエリカを見つけることが出来て、結果オーライですわ」

 【ゲファレナー・エンゲル】こと、最強の魔人戦士エリカを含め、異世界のことは、一通りジラに聞いている。

 話し終える頃、ビュシュ・ド・ノエルを食べ終える。

「逢花さんは、本当に女神皇帝何ですか?」

 紅茶を飲む逢花の髪の色は銀、雰囲気も以前とは違う。

 エリカの来た世界の支配者にして圧制者、そして日本から転移したチート能力者、女神皇帝。

 多くのものが自由を奪われ、苦しめられている。

 異世界を救うため、転移前の女神皇帝を倒すことを目的にエリカは日本に来た。

「ええ、ジラの持っていたG(ゲッティン)細胞で女神皇帝になりましたのよ」



 逢花とジラの出会いは、エリカと聖子との出会いとよく似たもの。

 その日の天候は良好だったので、日当たりのいい庭のテラスで逢花は本を読んでいたら、突然、目の前へジラが落ちてきた。

 外傷は無かったものの、衰弱が激しく、着ている物はまるでファンタジー小説から抜け出してきたような服装。

 この時、逢花の直感が働いた、この人は助けて介抱した方が得になると。

 そこで執事の江本(えもと)を呼び、自宅へ運ぶ。

 介抱の甲斐あり、回復したジラは助けてくれた逢花を、この方こそ、女神皇帝に違いないと言い出す。

 実のところ、ナイチンゲール症候群の一種なのだが、逢花はその思いを受け入れ、G細胞を手に入れた。

 本来、G細胞を移植すれば女神皇帝に対する絶対的な忠誠心を持ってしまう。

 しかし日本(ここ)には女神皇帝はいない。その上、G細胞と逢花の相性は最高に高く、黒髪が銀髪に変化、女神皇帝に酷似する力を発現。

 あまつさえ、ジラに女神皇帝に対する忠誠心と同じ、忠誠心を逢花に対して抱かせた。



 エリカに聞いたG細胞の話が逢花の口からも出てきた。それは異世界との関わりを意味してる。

「逢花さんは、これからどうするつもりなの?」

 以前と同じようで同じではない逢花。強力な力を手に入れ、何をするつもりなのだろうか……。

 今の逢花の力ならば国の1つや2つ、簡単に征服してしまえるだろう。

「突如、巨大な力を手にしまった人が力に溺れ世界征服を目指したり、力を持て余したり。その挙句、破滅してしまう――創作物では、よくある展開ですわ。ですが、わたくしは自分のことをそんな真似をする愚か者ではないと、自信をもって言えます」

 どうやら、いきなり世界征服はやらないご様子。

「とりあえずは邪魔者を抹殺することに致しますわ」

 逢花が口にした邪魔者、護には心当たりがある。

「エリカさんには、手を出してほしくない」

 出会って間もないとはいえ、親しい人を失うのは嫌。

「護さん、あなたは自分の命を狙う者を放置しておけますでしょうか?」

「……」

 自分の命を狙う相手を野放しなんて出来ない。

 女神皇帝を倒すため、態々世界の壁を越えてまで日本にやってきたエリカ、どう説得しても逢花の命を狙うことは止めないだろう。

 エリカとも親しい間柄、そして逢花とも親しい間柄。

 話し合いで解決、エリカと逢花が手を取り合って仲直りで大団円。そんなお花畑な展開が不可能なのは、現在の状況を鑑みれば明らか。

 黙って悩むことしか、今は出来なかった。

 チリリリン、逢花が机の上のベルを振ると、部屋の中にメイドが1人入ってきた。

「用事があれば、彼女に何でも申しつけてくださいませ。後、あまり出歩かないでくださいね、お外は危険ですから」

 このメイドは護の世話役兼見張り。

 すれ違いざま逢花はメイドに、

(護さんは、わたくしの伴侶となるべき御方、その事を頭に入れておいてくださいませ)

 護に聞こえないよう、耳打ちして客間を出て行く。

 逢花が出て行った後、

「あの、このビュシュ・ド・ノエルのお代わり貰えるかな、後コーヒーも」

 少々、恥ずかしそうに注文。

「畏まりました」

 メイドはメイドお辞儀をした。


 護は気が付いていなかった、逢花は邪魔者が1人だとは言っていないことに……。



      ☆



 緑に囲まれた水上家の別荘。

 生い茂る緑に隠れ、別荘を見張るエリカと逢花。

「いる……かなりの数の怪物が、おまけに神化人までいやがる」

 エリカは別荘の気配を探る。

 怪物は学校で見た、神化人のことはエリカから聞いている。共に強敵、聖子は生唾を呑み込む。

「エリカ、どうする」

 手にしているのは通販で買った素振り用の木刀、櫂の形で水に沈んでしまう重さ。

「どうするもこうするもないさ、オレが来ることは織り込み済みだろう、敵をぶっ倒して護を助け出す、やるべきことはそれだけだ」

 単純明快。【ゲファレナー・エンゲル】で戦略を担当していたエーアスト博士は、ここにはいない。ならば自分自身のやり方でやるのみ。

「やれやれ」

 と口で言いながらも、聖子もノリノリ。

(逢花め、護に手を出したことを身に沁み込むほど、後悔させてあげるるからね)

 エリカの微笑みが獅子なら、聖子の微笑みは虎。



 庭を徘徊する脈打つ血管が肥大した体全体に広がっている怪物たち、学校にいたDQN怪物と同じタイプ。全員、行方不明になっていた教師と生徒の慣れの果て。

 こんな光景、他人に見られたらどう思われてしまうだろう? ハロウィンシーズンならコスプレだと思ってくれただろうか?

 幸い、今はレジャーの季節ではないので、この別荘地には人気無し、だからこそ、逢花はここに誘い込んだ。

 今なら、多少騒ぎを起こしたところで、第三者には気づかれにくい。

 怪物は自己の意識など消滅、命令のみ従い行動する、言わばロボットの様なもの。

 下されている命令は、侵入者を見つけ抹殺すること。命令に従い侵入者を求め、別荘の庭をうろつく。

 突然、大きな爆発音が起こる。

 一斉に怪物たちは爆発音が聞こえてきた場所を目指す。

 そこは駐車場、一台の高級車が燃えていた。

 資産家だけあり、停められている高級車は一台だけではなく、全部で五台。

 高級車を包む火は他の高級車にも引火、連鎖的に爆発、集まってきた怪物を巻き込みながら炎上。

 警備システムが作動して別荘中に警報が鳴り響く。消火器を持ったメイドたちが駆けつけてきて消火活動を始めた。



 この隙に別荘の裏口のカギを壊し、エリカと聖子は侵入。

 高級車爆破は、勿論、この2人の仕業。前に来た時、聖子は駐車場の位置を覚えていた。

 エリカは外からでも別荘を見れば、およその構造が解る。【ゲファレナー・エンゲル】の仕事で似たような構造の屋敷に何度も侵入した経験があるので。

 容易くエリカは裏口を見つけ出す。

 裏口にも警備システムが着いてはいるが、駐車場の警報に紛れ込んでしまった。


 赤い絨毯の敷かれた廊下をエリカと聖子が進む。

 足の裏に伝わる絨毯の感触、間違いなく高級品。

「ケッ」

 ますます聖子の気に食わない度がアップ。

 別荘内に配置されている怪物たちが現れ、唸り声で威嚇してきた。

 怪物に下された命令の中には襲ってはいけない人物もあって、エリカと聖子はその中に含まれてはおらず。

 襲い掛かってくるのは怪物になっているとはいえ、元々は聖子の通っている学校の教師と先生たち、中には授業を教わった教師やクラスメイトまでもいる。

「迷うな聖子、ああなっては二度と人間には戻れない、引導を渡してやるのが慈悲だ」

 その言葉を示すかごとく黒く温かい光を撃ち、一体の怪物を仕留める。

「くそったれ!」

 叫びながら、襲い掛かて来た怪物の脳天を櫂型の木刀で打つ。


 怪物は即席で量産品、エリカの敵とはならないレベルの相手、最愛の相手を浚われ怒りモードの聖子も同じ。

 数も少なかったこともあり、短時間で片付けることが出来た。

「……」

 高級絨毯の上に転がる見知った者たちの変わり果てた姿を、黙ったまま聖子は見る。

 悲しい気持ちもある辛い気持ちもある、されど最も気持ちの大半を締めているのは護のこと。

 この別荘のどこかに閉じ込められている護、まるで童話のお姫様のように。

 『護ー!』と呼んで聞こえれば、返事してくれるだろう。でも、その行為は同時に敵を呼び寄せる行動に繋がる。

 神化人や怪物ならともかく、普通の人間の護の気配を探ることはエリカにも無理。

 両目を閉じ、聖子は神経を集中させる。

 別荘全域に広げる聖子の護センサー、愛している人探知能力。

「!」

 センサーに反応あり。

 反応のあった場所目指し、聖子は走る。

「護を見つけたのか」

 異論も突っ込みもなく、エリカも後を追う。


(護護護護護護護)

 護センサーの導くまま、聖子は廊下を疾走。

 角を曲がり、廊下を走り続ける。

(感じる、この先に護がいる!)

 もう少しで護の監禁されている部屋に辿り着く、そこで足が止まった。

 ずらり廊下に立ち並ぶメイド7人と体格のいい護を浚った、あのボディーガード。

 漂わせる異様な雰囲気が教えてくれる、このメイドたちとボディーガードは普通の人間じゃない、また怪物でもないと。

 では一体、何なのだろうか、聖子の背中に冷汗が流れた。

「神化人か」

 答えをエリカが口にした。

 神化人とは言っても、顔つき体つき佇まいでエリカと同じ世界で生まれ育ったのではないことは知れる、これが意味することは1つ。

「招待はしましたが、随分と乱暴な訪問をするのですね」

 メイドたちの背後から逢花が現れた。

「逢花かぁっ」

 ギリッ聖子の奥歯が軋む。

「そこの神化人どもは、お前が作ったのか?」

 闘志あふれる視線、臨戦態勢をとるエリカ。

「ええ、わたくしの血を飲ませましたの。即席量産品の怪物どもとは比べ物にならない性能を持っておりますわ」

 G細胞を得た逢花、その血もG細胞になっている。

 メイドたちは白い寒々とした光でレイピアを作成。

「どうやら、お前が女神皇帝なのは間違いないようだな」

 エリカは黒く温かい光で日本刀を作り出す。

 櫂型の木刀を構える聖子。先ほど戦った怪物とは比べ物にならない強さ。神化人が人間には分が悪すぎる相手なのは、十分に承知している。しかし逃げる選択肢など最初から存在しない、ボディーガードを見てから護を浚われたことを思い出し、ふつふつと怒りが沸き上がってきている。

 愛する護を取り戻すまで、聖子に引き下がる気など皆無。

 櫂型の木刀をエリカは日本刀を片手で掴み、黒く温かい光を纏わせ強化する。

 聖子の強い思いに下がれなど、無粋な言葉は言えやしない。


 白い寒々とした光で作られたレイピアで突きかかってくるメイドたち、息もぴったりと合ったチームワーク攻撃。

 ボディーガードはボクシングの構えをとる。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

 気合一閃、櫂型の木刀を聖子で殴りつける。力任せの攻撃とは違う、鍛錬を積んだ膂力から放たれる一撃。

 常人ならば避けれない必殺攻撃、残念なことにボディーガードは常人に非ず。

 常人離れした動きに、櫂型の木刀は躱されてしまう。

 そこに生じた隙を狙ってのメイドのレイピアカウンター。

「させるかよ」

 メイドたちの中に飛び込み、エリカは黒く温かい光の日本刀でメイドを1人斬り捨てる。

 ボディーガードはストレートパンチを聖子に放つ。

 優れた反射神経を生かし、瞬時に距離を取る。間合いを開き、リーチのある櫂型の木刀の一撃をボディーガードの横っ腹に叩き込む。

 聖子のパワーと怒りと黒く温かい光での強化された櫂型の木刀、そして護への愛を込めた打撃は神化人にも致死性のダメージを与えた。

 一時、仲間がやられ、怯みを見せたを見せはしたものの、すぐに気を取り直したメイドたちは体制を立て直す。

 その合間にエリカと聖子も連携を整えた。

 向こうがチームワークで来るなら、こちらもチームワークで対応。数の上では不利なれど、気合いと根性はエリカと聖子が勝っている。おまけに護への愛が、最高にパワーアップさせてくれた。

 腰と踏み込みを入れての突き、メイドの体重は軽くとも、そこは白い寒々とした光を上乗せして補う。

 刺し貫こうとするレイピアを黒く温かい光の日本刀で捌く。

 死角を狙ってメイドが2人、斬りかかってくる。

 左手をメイド2人に向けた。そこに黒く温かい光で作り出した盾を生じさせ、2本のレイピアを受け止めた。

 返し技でメイドの喉を貫き仕留め、左手の盾を放す。

 手放された盾は独りでに動き、メイド2人を壁に押し付けて抑え込んで動けなくする。

 動きを封じられた2人のメイドの首を、情け容赦せずエリカは跳ねる。

 聖子は櫂型の木刀をメイドに投げ付けた。

 簡単に躱されてしまったと思わせたのも僅か、櫂型の木刀に意識を集中していたメイドの不意を突いて顔面にヘッドバッドを食らわせる。

 悶絶したメイドの両足首を掴み、ジャイアントスイング。

 遠心力を付け、襲い掛かってこようとしたメイドに投げ付ける。

 衝突するメイドとメイド。

 生きているのか死んでいるのかは確認は出来ないが、ぐったりとして動かなくなったメイド2人。

 残りの神化人メイドは1人。

「やはり、まだ成り立てで無敵には届いていないな」

 明らかに異世界で戦った神化人に比べて力が落ちている。一般人を越える怪力を持っているとはいえ、聖子にも倒せているのが何よりの証拠。

 仲間を全員倒され、残されたメイドはたじろぐ。

「あなたは下がりなさい、後はわたくしがやりますわ」

 メイドを撤退させ、一歩前に出る逢花。

「確かに成りてでありますが、されど、あなたたち如きに負けは致しませんですわよ」

 全身から発せられるオーラ、包み込む白い寒々とした光、神化人メイドたちなど足元にも及ばない覇気。

 それは確かに異世界でエリカが直に戦った女神皇帝に近いもの。まだ完全ではなくとも、油断すれば命取りになる相手。

「ここで終わらてやるさ」

 世界の壁を飛び越えてまでやってきた念願を果たす瞬間を目の前にしたエリカは、より一層獅子の微笑みを強め、黒く温かい光の日本刀を両手持ちにする。

「聖子、サポートを頼む」

 頷く聖子、私も戦うは言えなかった。解る、そんなレベルの決闘ではないことを。

 もう聖子の知っている逢花ではない、人間の領域を凌駕した存在、下手をすれば足手まといになってしまう。

 エリカも強烈なオーラを放ち、黒く温かい光と闘気漂わせる。

 睨み合うエリカと逢花、双方とも間合いを図り、攻撃のタイミングを見極めていた。

 闘気と覇気がぶつかり合い、空間に渦まく。

 エリカと逢花が一歩を踏み出し合い、今にも決戦が始まろうとした時。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 突如、悲鳴が上がった、アレは護の声。

「護!」

「護さん」

 決戦や対立などどこへやら、聖子と逢花は声の聞こえてきた方向、護の監禁されている部屋へ急ぐ。

「……」

 身構えたまま、取り残されたエリカ。肩透かしを食らった闘気は霧散、引っ込む。

「……護」

 エリカにとっても護は大切な相手、聖子と逢花の後を追う。


 聖子、逢花、エリカの順番で部屋にたどり着く。

「護さん、一体、何があったのです」

 慌てて逢花はドアを開けた。

 そこで一同が見たものは、自らの血、すなわちG細胞を護に飲ませている世話役メイドの姿であった……。




 櫂型の木刀はAmazonで調べました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ