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異世界“日本”へ  作者: 恵夢マチカネ
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第7章 結界学校

 そう言えば前回、戦闘はありませんでしたね。

 “学校に入れなくなってしまいましたわ”とは、一体、どうゆうことなのか?

 メールだけでは、何がどうなっているのか状況がさっぱり掴めない。

 (まもる)聖子(せいこ)とエリカは予定を切り上げ学校へ行くことにした、荷物は聖子の家に置いて。



 学校前に到着した時刻は、こともあろうか逢魔が時。

 校門前でダークスーツを着た寛至(かんじ)ほどにないにしろ体格のいいボディーガードと待っている逢花を見た聖子は意識せず、ケッと言ってしまう。

「そちらの方はどなたです」

 エリカとは初対面の逢花。

「寛至の門下生の獅谷エリカ(したに えりか)だ」

 昨夜のうちに考えていたはったりをかます。エリカの鍛えた体には、ピッタリの肩書、獅谷の姓は本当の姓のレーヴェ、ドイツ語でライオンを元に付けたもの。

「そうですの、新しい門下生なのですね。わたくしは護さんの知人の水上逢花(みかみ おうか)ですわ」

 敢えて“護の知人”と紹介、聖子の機嫌の悪さの度合いが増す。

「学校に入れないって、どうゆうことなの」

 聖子の機嫌など、露程も意図せず状況の把握に護は乗り出す。

「わたくしとしたことが、つい寝坊してしまい遅刻をしてしまいました」

 “一応”優等生である逢花が遅刻、それも寝坊が原因なんて珍しすぎる、間違いなく珍事。

「ところが学校に来て見ても、校内に入れませんの」

 これじゃメールの内容と同じ、状況が掴めないまま。

「全然、解んないじゃない」

 聖子の口調が荒くなって、目付きが険悪。

「あらあら、怖いですわね。まぁ、あなたでも学校に入れば状況が理解できますわよ」

 ムカッと来たが護の前では挑発には乗りたくはないので我慢、ここは堪えて言われた通り校門に入ってみる。

「あれ?」

 驚きは聖子だけではなく、護も驚いていた。

 校門に“入った”はずなのに、そのまま校門から“出てき”てしまったのだ。

 もう一度、試してみても校門に入る度、そのまま校門から出てきてしまう、まるでメビウスの輪のように。

「なんなの、これ……」

 理解不能の出来事、何が何がどうなっているのか。

「学校に連絡しても県外で繋がりませんの、クラスメイトとも連絡を取ってみても結果は同じ、メールさえも届きません。こんな事態、警察に相談するわけにもいかず困り果てていましたわ」

 確かに、こんな事態は警察の仕事の埒外。

「護さんに連絡を入れたらマナーモードになっていましたので、メールを入れておいた次第です」

 “学校に入れなくなってしまいましたわ”とは、この異常事態を表現していた、ど真ん中の直球で。

 黙って見ていたエリカ、道端に落ちていた小石を拾い上げ、校門に投げ入れてみた。

 案の定戻ってきた小石をキャッチ。

「これは結界じゃないか。何者かが、ここに結界を張ってやがる」

 この事態の正体にエリカは察しが付いた。これは魔法を使って引き起こされた現象、すなわちエリカの世界に関わりのある出来事。

 エリカは小石を道端に捨てる。



 ぐるりエリカは学校の周りを一回り、周囲を調べて戻ってきた。

「間違いない、結界が張られている」

 学校を取り囲むように結界が張られている。

 結界を張れる魔法使いなんて日本だけでなく、この世界のどこにもいないだろう、これが意味することは……。

 “エリカ以外に、異世界から来ている者がいる”。

 エリカと護は同時に、この考えに至った。

「結界ってフィクションで出てくる、あの結界ですの?」

 逢花も結界の意味は解る。

 結界なんてフィクションのお話。しかし、今、目の前で起こっている出来事は常識では説明が出来ない現象。

 思い返してみるエリカ、世界転移装置で転移した時、まだ装置は発動したままだった。ならば世界転移装置を使って誰かがこっちの世界に来ていても不思議はない。

「……野放しには出来ないな」

 もし来たのが帝国側なら野放しには出来ない問題、エリカの宿願の阻害になる。

「突破口を開く」

 校門前に行き拳を構え、正拳突きの要領で気合いと力を込めた拳を打ち出す。

 ここにいる全員に解った、目には見えなくとも何かが砕け散ったことが。

 結界に人の通れる穴を校門に開け、エリカが入って行った。

 来いとは一言も行っていなかったのに、逢花が入って行ってしまう、後ろを無言でボディーガードがお供。

 残された護と聖子、ポカンとここにいるのも変なので、2人一緒に校内に入ることにした。



 校門を潜れば本来、そこにあるのは校庭のはず。

「ここ、渡り廊下だよね」

 護が辺りを見て確認した場所は、南校舎と北校舎を繋ぐ2階の渡り廊下。隣にいる聖子以外、エリカも逢花もボディーガードの姿が見えず。

 辺りには全く人気は無く、渡り廊下から見える中庭には、人っ子一人いない。時間的に部活動中の生徒ぐらいはいていいはずなのに……。

 空の模様も普段の模様とどこか違う、はっきり言って不気味。

「エリカたちは、ど、どこへ行った……」

 聖子らしからぬ怯えよう。

(そうか聖子ちゃん、この手のことが苦手だった)

 昔から聖子は怪談や心霊が苦手、人前で強がってこの手のテレビを見た夜、1人でトイレに行けなくなることも。

「多分、校門を潜った時、バラバラの場所に飛ばされたんだと思う」

 こんな時こそ、慌てず冷静に行動するのが肝心。

「聖子ちゃん、まずはエリカさんたちを捜そう」

 さりげなく護は手を差し出す。

 護の手を握るだけでいつもは男の娘な護も、やたら男らしく頼りがいに感じられた。


 校舎の中を怯え、何も言えなくなっている聖子の手を引きながら進む。

 静まり返った廊下を歩く足音が響き渡り、薄気味悪い雰囲気を醸し出す。

 教室を覗けば無人、規則正しく机が並んでいるだけ。

(もしかしたら、夜中の学校に忍び込んだら、こんな感じなのかな)

 聖子とは対照的に、ワクワクしている護。

 本当にこの手のことが大好き、よくゆっくり怪談も聞いているし、一度でいいから、深夜の学校に忍び込んでみたいなとも思っていた。

 南校舎の2階には職員室がある、とりあえずは其処を目指すことにする。

 職員室の前まで来た途端、いきなり戸が開く。

「ひぃっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐぇっ」

 恐怖のあまり聖子は抱き締め上げ、護は落とされかける。

「おや君たちは、2年の生徒だね」

「あっ、用務員のおじさん」

 聖子の締め上げから解放された護が見てみれば、そこにいたのは用務員の中原(なかはら)だった。


 一番年配でベテランの用務員中原に連れられ、用務員室まで来た護と聖子。2年間の学校生活の中で初めて入る場所、普通の学校生活を送っていれば、あまり入る機会のない部屋。

「あら、護さんではありませんか」

 用務員室の中では逢花が座ってお茶を飲んでいた、正座で湯呑の持ち方も上品。

「何で、お前がここにいるんだ!」

 逢花の姿を確認するなり、恐怖感などどこへやら、速攻で聖子は突っ込む。

「校門を通ったら理科室まで飛ばされまして、ボディーガードともはぐれ、困り果てて校舎内をさまよっていたところを用務員さんに助けられましたのですわ」

 要するに護と聖子と似たような経過で用務員室に来たということ。

「とても美味しいお茶をありがとうございます、紅茶と違った味わいがありました」

 部屋に入ってきた中原にお礼を述べる。

「君たちも座りなさい」

 座布団を用意してくれた。

 おじゃますますと、用務員室に入って座る護と聖子。

 腰を下ろした護と聖子にも中原はお茶を淹れてくれた。

 暖かいお茶を飲めば、何だか落ち着いた気分になれる。

「先生や生徒たちは、どこへ行ったんですか?」

 最初に護は、とっても気になることを聞く。

「ワシも探していたんだよ」


 中原が話してくれた。体育館倉庫の整頓をしていたら、地震でもないのに世界が揺れたような感覚がして体育館倉庫を飛び出して見たら、もう学校が“こう”なっていたと。

 学校の外にも出られない、電話も県外で繋がらない、教師や学生を捜して校舎を探索、廊下を曲がったり、教室に入った途端、別の場所にテレポートさせられることも。

 南校舎の2階に飛ばされた中原も職員室へ行ってみたものの、誰もいなかったので出て来たところで護と聖子と鉢合わせ。



「まるで質の悪い迷路だ」

 年季があるだけ、こんな状況の中、落ちを見せている。

「だとすれば先生や生徒たちも、用務員のおじさんと同じ目に合っているんだろうね」

 そう護は分析。

「みんな無事だと、いいんだが」

 長年勤めている中原にとって、教師も学生も自分の子供のような思いがある。

「ワシは他に誰かいないか、もう一度、そこらを回ってくるよ、君たちはここにいなさい」

 確かに、ここに籠っていれば安全だろう、それで逢花も用務員室にいた。

「僕も行きます、じっとなんかしてられません」

 自分の出来ることがあるなら、出来るだけやりたい、黙って傍観者なんか出来ない護。

「私も行く」

 怖いけど護が行くというなら着いて行く、それが聖子のモットー。

「護さんが行くなら、わたくしも行きますわ」

 湯呑を置き、立ち上がる。

 お前は着いて来るんじゃねぇと聖子は視線で脅してみても、逢花には通じず。

「解った一緒に来なさい、くれぐれも気をつけてな」

 3人の意思を感じ取った中原は、止めることはしなかった。



 薄暗い廊下を中原の持つ懐中電灯一つを頼りに、一同は歩いて行く。

 歩けど歩けど、何人との遭遇なし、エリカ、ボディーガードとも出会わない。

 逢花の前で、つい意地を張り護とは手を繋がなかった。

 薄暗さと静けさのミックス、どんどん湧き上がってくる恐怖感。

 一度落ち着いたのに、再び湧き上がってくる恐怖感を吹っ飛ばそうと、聖子は『おばけなんてないさ』を歌い出す。

「ちょっと聖子さん、恥ずかしいではありませんか」

 注意されても、怖いものは怖いのだ、歌い続ける。

 聖子の気持ちを悟った護は、一緒に歌う。

 そんな子供たちを見た中原、若いって良いなとの思いを抱き、表情が緩む。

 1階へ降りるため、階段に足を掛けた瞬間、護と聖子と逢花と中原は、また別の場所へ飛ばされた、これではブービートラップ。



 飛ばされた先が中庭なのは、すぐに解った。みんな毎日、過ごしている場所なので。

 鯉の泳ぐ池、大きな鳥籠、いろんな木々と花壇。平日の昼休みともなれば、多くの生徒たちが弁当を広げ、雑談を楽しむ。

 でも今は庭には護たち以外の姿は見当たない。

 それでも注意深く誰かいいないか探していると、植え込みの方で、ガサッと音がした。

 誰かいるのか、全員の視線が植え込みの方を向く。

 植え込みから飛び出したきたのは、最早人間ではなかった。

 醜く肥大した体、全身に広がった葉脈を思わせる血管が脈打ち、申し訳程度に残っている衣服。気味悪いのは体の随所に“人間らしさ”が残っているところ。

「どおっりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 聖子の怪物に対する闘争本能が恐怖感に打ち勝つ。

 ソバットで先制攻撃、続いてヘッドバット。

 攻撃が通じるということは肉体があるということ。肉体がある相手ならば怖くなんてない、叩きのめせば解決する!

 空手チョップラッシュを浴びせかけ、これで止めとばかり、怪物を持ち上げ横に回転させること180度、力任せに脳天を石畳に叩きつけた。

「うっしゃあぁぁぁぁぁぁっ」

 倒れる怪物、両手を上げ、聖子は勝利の雄たけびとポーズ。

「……」

「……」

 逢花も中原も何と言葉を発していいのやら、どうしても思いつかない。

(この怪物はエリカさんと、同じ世界から来たのかな)

 護1人、倒れている怪物を観察。

 ボロボロだけど着ている衣服は制服で自分たちと同じデザイン、よく姿を見てみれば、どこかしら見覚えがある顔。

「この人は……」

 間違いない、昨日、公園で護を虐めていたあのDQNの1人。ならば異世界からの来訪者とは違う。

 その事に気が付いた時、DQN怪物が起き上がり、傍にいた護に襲い掛かった。

 勝利のポーズを取っていた聖子は対処に遅れ、逢花と中原では戦力外。

 今にも襲い掛かろうとしていた怪物の動きが、いきなり停止。

 動きの止まったDQN怪物の延髄に、草刈り用の鎌が突き刺さる。

 深々と延髄を貫かれ、今度こそ絶命して倒れたDQN怪物の背後の先、草刈り用の鎌を投げたエリカが立っていた。


 へたっと、その場に護は座り込む。

「大丈夫か護!」

 慌ててエリカが駆け寄ってくる。

「うん、大丈夫だよ、ちょっとビックリしただけだから」

 エリカの手を借りて立ち上がる。

 そんな2人を不愉快そうに見ている聖子と逢花。お互いの同じような感情を持っていると知り、ますます不愉快になる聖子。逢花の感情は表に出さず。

「君はうちの生徒じゃないね」

 平日なのに着ている服は制服とは違う、それに中原は教師と生徒の顔は見れば解る。

 怪物のことといい、それを倒したエリカに警戒心を抱いている模様。

「ああ、それは――」

 エリカは逢花にした同じはったりをかます。


「そうか、君はビック・ベアのお弟子さんか」

 あっさり信じてくれた。妙に嬉しそう、それもそのはず、中原もビック・ベアのファンだった。

「あっ、そうそう茶色の屋根の大きな建物に、沢山の人が避難していたぞ」

 茶色の屋根の大きな建物と聞いて、護も聖子も逢花も聖子も中原も、ピンときた、そんな建物は講堂しかない。

 言われてみれば生徒手帳にも、緊急時には講堂に避難するようにと書いてあった。

 あんまりにもあんまりすぎる状況に、その事に誰も思い至らなかった、これは盲点。

 怪物のことは気にはなる、その正体に気が付いていなければ未知の存在である。

 今は未知の存在より、中原たちの優先順位が教師と生徒の無事の確認に上なるのは仕方がないこと。

 平時なら簡単に行くことのできる講堂も現在は異常事態、向かう途中でテレポートさせられる危険性は大いにある。

「もしかしてエリカさんは、その建物の方から来たの?」

「そうだよ」

 質問した護に、あっさり言い切ったエリカの顔を中原が見る。

「エリカくんだったね、そこまで案内してくれるか」

 中庭まで来れたなら、逆も可能なはず。

「ああ、いいぜ、任せとけ、着いてきな」

 とことこ歩きだすエリカ。その後に着いて行けば、おのずと講堂にたどり着ける。

 怪物が元は何だったのか、気が付いてしまった護は振り返った。

 ブスブスと煙を上げ、怪物は溶け蒸発している。

 気にはなる、でも、こんな状況になってしまっている中庭に残りたくは無いので、重い思いを抱えながらも着いて行く。



 テレポートも起こらず、怪物も出ることなく、あっさり講堂に辿り着けた。

 講堂中にはエリカの言った通り、沢山の教師と生徒が避難していた。

「みんな、無事なのか」

 教師と生徒の姿を確認した中原は、思わず講堂の中に飛び込む。

「中原さん、あなたも無事たったんですね」

 若い古典の教師が駆け寄ってきた。彼はこの学校の卒業生、学生の頃から中原とは顔見知り。

 お互いの無事を喜ぶ中原と古典の教師。この講堂は避難指定居場所なので、食料品や医薬品など、緊急時に必要な物は備わってはいる。ただ何度、無線を使っても、外への連絡は通じなかった。

 中原が講堂を見回してみれば、教師と生徒の数はどう見ても足りない。どうやら、全ての教師と生徒が避難できたわけではないようだ。

 怪物のことを問われたくなかったエリカは、そっと講堂を出て行き、護たちも一緒に行く。



「何でお前も来ているのよ、講堂で大人しくしていればいいのに」

 聖子は着いてきた逢花に不満砲を撃つ。

「私の勝手でしょ、あなたにとやかく言われる筋合いじゃありませんわ。それに……」

 不満砲を意に介さず、前を歩くエリカに視線を向ける。

「あなた、この事態の正体に何か心当たりがあるようですわね」

 これまでの彼女の行動が、それを物語っている。

 エリカの事情を知っている上、多少、事態が呑み込めている護は、ドキリッとした。

「ああ」

 否定も惚けもせず、認めた。こんな状況下、誤魔化しても意味は無いので。

「オレの考えている通りなら、そろそろ“事態”側から、接触してくるころだろうな」

 言うが早いか、一同の目の前に火の玉、それも赤い火とは違う白い火が出現。

 メラメラとした火なのに温かさの欠片もなく、むしろ冷たさを感じさせる。

 普通、火に触れれば火傷を負うのに、あの白い火の場合は触れれば凍傷しそうな雰囲気。

「そら来た、態々、姿をさらした甲斐があったな」

 “こちら”が姿を見せれば“あちら”が何かしらの行動を起こすはず、敵側ならなおさら。

 エリカの見せた微笑み、まるで獲物を前にした獅子の様。

 白い火の玉は着いてこいとばかり、ゆらゆら揺れて動き出す。

 何のためらいもなく、着いて行くエリカ。

「ちょっと、一体、どうゆうことですの」

 逢花は跡を追う。

 その跡を護と聖子も着いて行く……。



 白い火が導いた先は裏庭。普段でも、あまり人の近寄らない場所で、時々、隠れて煙草を吸っている奴がいるとの噂もあり。

 裏庭にはカジュアルな服装の学者風の男が待ち構えていた。

 誰がどう見ても、今回の異常事態の犯人であることは明白。

「招待に応じてくれて感謝いたします、私はジラ・カクモと申すもの」

 カジュアルな服装の男ジラが傍から見れば丁重な挨拶をする。

「で、招待して何を始めるつもりだい」

 エリカが進み出る、既に闘志がちらちら顔を見せていた。

 パチン、ジラが指を鳴らせば、屋上から二体の怪物が飛び降りてきた。姿は中庭に現れた怪物とほぼ同じ、すなわち残りのDQN。

 まっすぐ襲い掛かってきたDQN怪物の頭を、容赦なしにエリカは黒く温かい光を放ち、木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 DQN怪物のスピードは速くとも猪突猛進、簡単に背後を取る聖子。先程の戦いでコツを得た、スリーパーホールドを掛ける。

 聖子を振りほどこうと暴れ回る怪物。聖子も振りほどかれてたまるかと、ますます締め上げる。

 力と力のぶつかり合い、DQN怪物は怪力を振るう、聖子も父親譲りの怪力で対抗。

 背後を取っている聖子に分があった。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 全身の力を漲らせ、スリーパーホールドに注ぎこむ。

 ゴキリッ、豪快な音を立ててDQN怪物の首の骨がへし折れる。

「やれやれ、“実験的”に作ってみたものですので、大した性能は出せませんでしたか」

 DQN怪物二体倒されても、ジラの顔色は変わらず。

 ジラに向かおうとする聖子を、エリカが止めた。

「下がれ、あいつは“普通”の人間が相手に出来るように奴じゃない」

 一瞬、カチンとは来たものの、エリカの真剣な顔を見て、本当にジラがヤバイ相手なんだと実感、言われた通り後ろに下がった。

「やっぱり、オレ以外にも来ていたんだな、ここの結界はお前の仕業か?」

「いかにも女神皇帝の御為、ついでに手駒確保のため」

 “手駒確保”の意味を、すぐに護は理解できた、ジラの“実験的に作ってみたもの”の台詞とDQN怪物の正体を重ね合わせて。

 講堂で先生と生徒の数が足りない理由にも気づいてしまい、震えてしまう。

「ですが、こんなにも早く、あなたに会えるとは。これも女神皇帝様のお導きか」

 感じ取れるジラの女神皇帝に対する絶対的な忠誠心。

「エリカ・レーヴェ、あなたは邪魔です、ここで消えてもらうことにいたしましょう、この世界からも向こうの世界からも」

 ジラはニンマリ。

「安心しな、ここでお前を片付けて、女神皇帝も始末してやるから」

 挑発へ獅子の微笑みカウンター。

 無数の白い火の玉を生み出し、ジラが放つ。

 向かい来る白い火の玉を黒く温かい光で、ことごとく撃ち落す。

 落としそこなった白い火の玉が雑草に命中した途端、みるみる朽ちていく。

 これには聖子も怖くなり、無意識のうちに距離を取った。

 構えを取ったジラの両手に白い寒々とした光が形を成し、ハルバードを生み出す。

 振り落とされたハルバードを、エリカは黒く温かい光で作った剣で受け流す。形は昨夜、テレビで見た番組、いわゆる時代劇に出ていた日本刀をモチーフにした、気に入ったから。

 ジラのハルバードを振るう技術は練磨を重ねて磨き上げられたもの、さらにジラは神化人でもある。

 対するエリカも実戦を重ね、鍛え上げられた剣術。そしてエリカは魔人戦士。

 ぶつかり合うエリカとジラ、世界の壁を越えた魔人戦士と神化人の戦い。

 エリカとの距離を取るジラ。

「やれやれ、実戦で鍛えられているだけ流石ですね。このままでは実戦経験の乏しい私では勝ち目がありません、従って奥の手を使わせてらいます」

 全身から染み出てきた白い寒々とした光を口で吸いこむ。

 たちまちジラの体が一回り膨らみ、筋肉質に変貌、体中に葉脈のような血管が走る。DQN怪物と同じ姿ではあるが、一つ違うのは知性が残っているところ。

 怪物と化したジラのハルバード攻撃を、全て黒く温かい光の日本刀で捌く。

 人間の領域を超えたパワーとスピードの衝突。幼いころから鍛えているはずの聖子の動体視力でさえ、完全に捉えきれない。

 パワーアップした筋肉、体を回転させることでハルバードに遠心力を加え、そこに神化人の力を上乗せ。

 巻き起こされた突風が周囲の雑草を揺する。この威力、車もペチャンコにしてしまうだろう。

 驚いたのか、エリカは隙を見せてしまう。

「もらったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 己の全ての力を注ぎこみ、ハルバードでエリカを切りつける。

 勝ったと思ったのは一瞬の事、ハルバードが切ったのは残像。

 ジラの渾身の一撃を躱したエリカは微笑みを見せていた。

 自分が誘いに乗ってしまったことを自覚した時、黒く温かい光の日本刀が腹のど真ん中をで貫く。

「がはっ」

 呻くジラの脳天に拳を叩き込む。

 ジラの頭が胴体に陥没。

「女神皇帝様……」

 それがジラの今際の言葉。


 何かが周囲で弾けたような感覚がしたので聖子は辺りを見回す。

 周囲の雰囲気が変わったことが、たとえ目視できなくても解った。空模様もいつもと同じものに戻っている。

 “学校を包んでいた結界が消えた”。

 DQN怪物と同じく、倒れたジラの体が溶け、蒸発を始めていた。

 結界を張ったジラが死んだことにより、結界が消滅。これで学校のみんなは解放される。

「エリカ――」

 聖子が勝利を労おうとした矢先、

「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 背後で護の悲鳴が響く。

 同時にエリカと聖子が悲鳴の聞こえてきた方向を見ると、体格のいいボディーガードに羽交い絞めにされた護がいた。

「お見事でしたわ、獅谷エリカさん、いえエリカ・レーヴェ」

 逢花は拍手。

「貴様ァァァァァァ!」

 激情して飛び掛かろうとした聖子の肩をエリカが掴んで制止。

 逢花の放つあのヤバさ、ジラ以上。

「お前、何者だ」

 逢花のヤバさにエリカには心当たりがあった。燃え滾る炎を宿す目で睨み付ける。

「水上逢花改めまして――」

 黒髪の鬘を掴み剥がす。

「女神皇帝ですわ」

 銀髪が靡く、女神皇帝と同じ色の髪。

 逢花の発するオーラ、あっちの世界で戦った女神皇帝のオーラと、確かに酷似している。

 女神皇帝との面識のない聖子もオーラを感じるなり、鳥肌が立つ。

 すぐにでも斬りかかれる体制を取るエリカ。

 助けてよとは叫ばない護、こんなところに彼の強さがある。

 何とか逃れようともがくがボディーガードの力が強く、引きはがせない。どうやらボディーガードも普通の人間でない様子。

「護さんを取り戻したければ、私の別荘へ来てくださいませ。去年、誕生日パーティーを開いた、あの別荘ですわ」

 間合いを詰め、一気にエリカが斬りかかる。

 黒く温かい光の日本刀が届くより早く、逢花は消えた、護を羽交い絞めにしたボディーガード共々。

「テレポートか……」

 黒く温かい光の日本刀を消す、他人に見られたら厄介。

 悔しさのあまり、聖子は拳を握り締める。あまりにも唇のを強く噛みしめたため、一部悔が切れ、一筋の血が流れ落ちた。




 学校の風景は、中学生の頃の学校をモチーフにしてみました。

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