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異世界“日本”へ  作者: 恵夢マチカネ
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第2章 帝国暗殺部隊

 まだ【ゲファレナー・エンゲル】はボラトア留まっております。

 そこでエリカとエーアスト博士は……。

 一夜明け、ボラトア。


 笛を吹く女性、太鼓やギターを奏でる男性、歌を歌う少女と声変わり前の少年たち。

 歌に合わせてダンスを披露する主婦、幹事を任されたのは防具屋の店長、楽しげに音頭を取る。

 街の中はお祭り騒ぎ、支配からの解放を祝うパーティーの真っ最中。

 帝国やウーカからの開放だけを祝っているのではなく、抑圧された心身から解き放されたことも祝っているのだ。

 男も女も老いも若きも戦士たちも都民たちも、手を取り合い、肩を寄せ合い、飲めや歌えの大喜び。

 ギターを借りてオイゲンも演奏に加わり、ザビーネは少年少女たちと一緒に歌い出す。

 普段、寡黙なクンツも、酔って独特の踊りを披露。

 未成年なのでお酒が飲めないエリカはブドウジュースを飲む。この歓迎ぶり、つい表情が緩む。

 夜が明ける前に髪の毛を黒く染めておいた。この世界では銀髪は目立ち、見る人に畏怖と増悪を抱かせる。

「エリカよ、ご苦労だったな」

 今回の作戦の発案者、エーアスト博士も楽しそう。

「エーアスト博士」

 立ち上ろうとする。

「よいよい、そのままで」

 よっこいしょっとエリカの隣の椅子に腰を下ろす。

 エリカも椅子に座り直した。

 ボラトアの街を見回すエーアスト博士。ウーカを倒し、帝国をボラトアから追い出した【ゲファレナー・エンゲル】は英雄扱い、戦士たちは驕ることもなく都民にもてはやされ、照れくさそう。

「やっと、ボラトアまで来れたか……長かったの」

 ここまで来れば女神皇帝の住む帝都まで、もう少し。

「オレが参加して、まだ2年だけど、エーアスト博士は、ここまで来るのに15年……」

 たかだか2年、されど感慨深いものはある。

 些細なことで母親を帝国兵に殺され、父親が身を挺して逃がしてくれたおかげでエリカは生き延びることができた。

 行き場を無くしたところを【ゲファレナー・エンゲル】に見いだされ、共に戦うことを決意。

 復讐を目的とする者を【ゲファレナー・エンゲル】は受け入れない、【ゲファレナー・エンゲル】の目指すものはあくまで帝国からの解放、世界の自由を取り戻すこと。

 エリカも復讐心を捨てて仲間になった、100%とは言えないけれども。

「儂はここまで来るのに、人生の大半を掛けた」

 アッと気が付くエリカ。【ゲファレナー・エンゲル】が結成されたのは15年前なれど、エーアスト博士は帝国で研究者として働き始めた時から始めていた、女神皇帝を倒すための戦いを。

「ごめん」

 素直に謝罪。

「よいよい、気にせんで」

 優しく微笑む。

 突然、エリカが動いた、音が届くより早く。

 エーアスト博士へ投げ付けられた石を掴んで止め、握り潰す。

 睨み付けた先にいた都民らしき男は、ヒッと声を漏らして逃げて行った。

「すいません、お怪我はありませんか」

 慌てた様子で、防具屋の店長が飛んできた。

「後であの者にはきつく言っておきますので、なにとぞ、お許しくださいませ」

 ペコペコ、平謝り。

「怪我はなかったんじゃ、お主が気に病む必要はないぞ」

 また優し気な笑みを見せる。

 こんなことは珍しくもない、【ゲファレナー・エンゲル】に解放されて喜ぶ町もあれば、帝国の報復を恐れて敵対心をむき出しにする町もあった。

 石を投げられたことなんて、一度や二度じゃない、石なんて、まだ可愛い方。

 そんな様々な感情を受け入れ乗り越え、ここまで進行を続けてきた【ゲファレナー・エンゲル】。



 裏通りの門。余裕で馬車が通れる大通りの門とは違い、人しか通れない小さな裏門、普段は使われていないので施錠されている。

 骨ばった顔の男が1人、こっそり現れて周囲に人気(ひとけ)が無いことを確かめつつ、カギを外す。

 ボラトアの街の都民たちはパーティーを楽しんでいるので、簡単に合鍵を盗み出せた。

 そっと裏門を開けると、そこに立っていたのはどこでにでもいる顔立ち出で立ちを持つ赤毛の男。

「あのザウ様であられますか……」

 おっかなびっくり聞いた、骨ばった顔の男。

「そうだ」

 表情変えず答える赤毛の男、ザウは街の中へ。

「エーアスト博士とエリカの宿泊している宿屋と部屋はどこだ?」

 骨ばった顔の男は、いそいそと宿屋の場所と部屋を教える。伝えた場所は間違いなく、エリカとエーアスト博士が泊っている宿屋。

「その宿屋にいるんだな」

「へい、間違いはありません」

 何度も頷く骨ばった顔の男、そこにあるのは媚び。

「ところでザウ様、報酬の件ですが……」

 揉み手。

「制裁の免除と帝都の臣民権を貰えるんでしたよね」

 顔に浮かぶ下卑た笑み。

 帝都の臣民になればエリート扱い、贅沢な暮らしができる。

「そうだったな、受け取れ」

 瞬時にサーベルを抜き、骨ばった顔の男の首を跳ね飛ばす。

 自分に何が起こったのか理解出来ないまま、下卑た笑みを浮かべた骨ばった顔の首が転がっていく。

「一度、裏切った者は何度も裏切る。そんな者は女神皇帝様の臣民になる資格などない」

 サーベルを収めた。

「最重要暗殺対象、エーアスト博士とエリカ。第2対象は【ゲファレナー・エンゲル】の魔人戦士及び主要戦力、第3対象はボラトアの都民、見せしめのために虐殺せよ」

 感情を込めず、淡々と語る。

 裏門から音も出さず入ってくる男たち。全員の風貌は、どこかザウと似ていた。

 彼らは帝国暗殺部隊、名前そのままを目的とする部隊。



 パーティーの最中、少し休みたくなったエーアスト博士を連れ、一緒に宿屋に戻ったエリカ。

「あれ?」

 部屋に入ると、何故だか机の上にオオハシが止まっていた。窓が開いているので、どうやら自分で入ってきた模様。

 何で、こんなところにオオハシがいるのか? 窓、開けれたのか? 戸惑っていたら、

「儂の客じゃろ」

 オオハシの前へ出て、

「儂が【ゲファレナー・エンゲル】のヨハン・エーアストじゃ」

 自己紹介。

『お待ちしておりました、ヨハン・エーアスト博士』

 女性の声で返事したかと思うとオオハシの姿が崩れ、呪文の書かれた一枚の巻物に変化。

 巻物の上に、ぼやけた白いローブ姿の女性の映像が浮かび上がる。

『もしもーしー、私の映像と声が届いているでしょうかーー』

 映像の女性は手を振る。

「届いておるわい」

『それは良かった、問題なく届いているんですね。私のことはヒルシュと呼んでくださいませ』

 伝書魔法の1つに、呪文を仕掛けた巻物を動物に変えて移動させ、距離を開けての会話を成立させる。そんな魔法があることをエリカも聞いてはいたが見るのは初めて。

『私たちは悪逆な女神皇帝によって、滅ぼされた某国の末柄です。国を失ったからと言って誇りまでは失ってはおりません。しかるに――』

「前振りはよい、本題を話せ」

 相手に聞こえないように小声で『能書きは面倒じゃ』とぼやく。

 コホン映像の女性、ヒルシュは小さな咳払い1つ。

『では本題に入ります、この程、私たちは【ゲファレナー・エンゲル】に対し、支援と援軍を出して共闘したいと考えており、出来れはお受けいただきたいと』

 考える“ふり”をして、

「解った、その申し出、受けることにしよう」

 エーアスト博士は笑みを浮かべた。

『それはありがたい、こちらには“奥の手”があるのですが、私たちだけでは帝国打倒には力不足でして……』

「“奥の手”とな」

 本心とはうらはらなエーアスト博士の笑顔の目が輝いたのを、エリカは見逃さなかった。

『では早速、“奥の手”の準備をしておきますので』

 ヒルシュの映像が消えた途端、青白い火を出し巻物は燃え、残った灰も窓から吹いてきた風に飛ばされ、消えた、机にも焦げなし。

「隠滅じゃな」

 共闘したいと言っていても最悪の事態に備え、ちゃつかり会話の痕跡を残らないようにしておく、抜け目のなさ。

「こんな話、これからどんどんと来るぞ」

 この先、各方面からの支援と援軍の申し出は来るだろう。

 すでにボラトアも支援を約束してくれた。満場一致とはいかなくとも、大半は賛成。

 女神皇帝の力の前に沈黙してるだけで、世界に帝国の支配を良しとしない勢力はいくつもある。

 【ゲファレナー・エンゲル】は、いくつかの帝国領を解放し、ついに帝都の西の要所の1つボラトアまで解放した。

 そんな勢力から支援と援軍の申し出が来るのも、当然と言ったら当然。

 軍資金も潤沢になり、戦力の増強にも繋がるので、一件、ありがたい話に聞こえる。

「本気でオレたちと戦いたいと思っている奴らもいるとは思う。だが中には帝国打倒後のイニシアチブを狙っている連中もいるんだろうな」

 これまでの戦いを経て、そんな内情をエリカは解るようになってしまった、良いことなのか悪いことなのかは別にして。

「綺麗な物ばかりで出来てはおらんからな、世界は」

 伝書魔法オオハシが入ってきた窓をエーアスト博士は閉める。



 日が落ち眠りの中へ入ったボラトアの都民たち。昨夜までとは違うのは安らぎのためではなく、はしゃぎ疲れての眠り。


 街の中を静かに走り抜ける帝国暗殺部隊。

 部隊は三組に別れ、街中に散開、【ゲファレナー・エンゲル】の主力の抹殺と都民の虐殺のために。

 都民の虐殺は【ゲファレナー・エンゲル】と仲良くすれば、こうなるという見せしめ。

 ザウとコンビを組んだヒウ、エリカとエーアスト博士が宿泊している宿屋に向かう。

 大人数で行けばエリカは気づいてしまうだろう、それでは帝国暗殺部隊の得意とする闇討ちはしくじる。

 ならば2トップで行き、一気に仕留める作戦。


 宿屋の前に来たザウとヒウ、看板を確認して標的の宿泊している場所であることを確認。

 魔法を使いまるで道を歩くように壁を歩き、エリカとエーアスト博士の泊っている部屋の窓の前へ。

 窓を覗けば、ベットの上で眠るエリカとエーアスト博士の姿あり。

 ザウはサーベルで窓の一部を切り、そこから手を突っ込んでカギを外して部屋の中に侵入。

 闇討ち、暗殺を得意とするだけあり、これまで一切の物音を立てていない。

 ベットで寝ているエリカとエーアスト博士。ヒウはエーアスト博士の前に行くと、モーニングスターを取り出す。

 ザウの方もエリカの前へ行き、サーベルを構える。

 起きる気配のない2人。一気にモーニングスターを叩きつけ、サーベルで串刺し。

「「?」」

 手応えの無さに違和感を感じるザウとヒウ。

 堪忍しようとしたところ、エリカとエーアスト博士の体が崩れた、サラサラと。

傀儡子(くぐつし)

 傀儡子、本人そっくりに擬態することが出来るマジックアイテムの人形。

 違和感の正体にザウが気が付くと同時、タンスの中に隠れていたエーアスト博士が飛び出し、重圧の魔術を仕込んだ巻物をヒウに巻き付けた。

 巻物からは内側へ向け、とてつもない圧力が発せられ、巻き付けられたヒウを押し潰す。

 認識疎外の魔法を解いて、天井に張り付いていたエリカが飛び降りてきた。

「何故、襲撃が解った」

 ヒウがやられても、顔色一つ変わらず。

「合鍵じゃよ、都民から裏門の合鍵が無くなっているとの報告があっての。もしかたらと待ち伏せておったら、案の定じゃ」

 ほっほっと笑う。

「他のメンバーも待ち伏せられているということか」

 答えは聞くまでもなし。

「まぁいい、頭と最強の魔人戦士を殺せば、【ゲファレナー・エンゲル】は烏合の衆となり果てる」

 サーベルに白く寒々しい光を纏わせた。まるで刀身自身が光っているように見える。

 ヒウだけを連れてきたのは、自分の腕前に自信があるからでもある。

神化人(しんかじん)か」

 笑い顔が消え、エーアスト博士の目付きの鋭さが増す。

 神化人が相手なら分が悪い、正し普通の人間ならば。

 室内の戦闘において巨大なグレートソードは不利極まりなし。エリカはサブウェポンとして持っていたククリナイフを抜く。

 ククリナイフの刀身に纏わる黒く温かい光。

 振り下ろされる白く寒々しい光の刀身を黒く温かい光のククリナイフが受け止めた。

 室内で戦うエリカとザウ。もしエリカが負けたら次はエーアスト博士番、なのに逃げようとはしない、それだけエリカを信じているということ。

 サーベルもククリナイフも白く寒々しい光と黒く温かい光で強化され、切れ味耐久度共に倍化。神化人と魔人戦士のパワーで振られることにより、特上の殺傷力を生む。

 刀身同士が打ち合う度、激しい金属音が響き、周囲に黒い光と白い光が飛び散る。

 鍔迫り合いエリカとザウの力比べ、サーベルとククリナイの刃が擦れ、不快音を鳴らす。

 ザウはサーベルを両手持ち、力を上乗せ。

 片手持ちと両手持ちでは、力は両手持ちの方に分がある。しかもエリカのククリナイは片手持ち用、両手持ちは無理。

 じりじりと押され、サーベルの刃がエリカに迫ってくる。

「死ね、逆賊」

 始めてザウの顔に感情が現れる。

「死んでたまるかよ!」

 左手の拳に黒い光と気合を込め、ククリナイの峰を打つ。一気に力を加えサーベルの刀身をへし折る。

 力比べの均衡が壊れ、ザウのバランスが崩れた。

 バランスを立て直すより早く、ザウの喉笛を切り裂き、止めに心臓にククリナイを突き立て白く寒々しい光を体内で解放。

 体内からを破壊され、倒れるザウ。


 同じ頃、ザビーネ、オイゲン、クンツ【ゲファレナー・エンゲル】の戦士たちも他の帝国暗殺部隊を撃破。

 不意打ちを仕掛けてきた相手に、逆に待ち伏せして不意打ちで返した。

 完全に意表を突かれた帝国暗殺部隊に、かなりの効果を示す。



 日が昇り、朝が来た。帝国暗殺部隊の襲撃があったことは、昼前までには都民に知れ渡る。

 レジスタンスに協力したら、見せしめに街が襲撃されそうになった。そしてみんなを守ってくれたのもレジスタンス。

 こんな場合、主に人の反応はおおむね二通り。街を守ってくれて感謝するか、お前たちの所為で危険に巻き込まれたと怒るか。

 ボラトアの都民の反応は前者。

 おまけに手引きした者がいたことも謝罪。かと言って都民の全員がそうではない、エーアスト博士に石を投げた男を初め、一部の都民たちは負の感情が籠った眼でエリカたちを物陰から睨んでいる。

 何度も見慣れた視線、何度見てもいい気はしない。

 期待と悪意、双方を背に受け【ゲファレナー・エンゲル】は次なる戦次なる戦の場へ向かう。

 まだ帝国との戦いは終わったわけではない、これからがクライマックス。




 ヒルシュはドイツ語で鹿と言う意味。たまたまTVで鹿の映像が流れていたので命名しました。

 次回は帝都決戦、クライマックス、女神皇帝との直接対決。

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