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異世界“日本”へ  作者: 恵夢マチカネ


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第9章 SleePing Beauty

 G細胞を飲まされてしまった護くんは、どうなってしまうのでしょうか。

 別荘でエリカ&聖子(せいこ)逢花(おうか)と神化人が激突していたころ、監禁中の(まもる)


 車の爆発音と警報は護が閉じ込められている部屋まで届いていて、それでエリカと聖子が助けに来てくれたこと悟る。

 すぐにでも外に飛び出して合流したい、それが護の素直な気持ち。

 ドアにも窓にもカギは掛かっておらず、簡単に出て行けそうに思える、世話役メイドに見張られてさえいなければ。

 実力行使で突破するのは非力な護では無理、それ以前に世話役メイドは神化人なのだ。

 どうにか逃げ出すことが出来ないか、あれこれ隙を捜していると、

「護様は、ここから出たいのですか?」

 ズバリ核心を聞いてきた。

「うん、出たい」

 嘘偽り無く、正直に答える。

「何故です?」

「何故って、当たり前じゃないか」

 そう当たり前、誰だって閉じ込められたら脱出したくなる、束縛なんかされたくない人は自由を求めるものなのだ、そんな趣味でもない限り。

「護様は逢花様の伴侶となるべき御方、なのにどうして出て行く必要があるのでしょう」

「へっ?」

 この手のことが鈍い護でも、伴侶の意味ぐらいは解る。解るが、何でこんなところで言われたのかが解らない。

 思い悩んでいる護を観察している世話役メイド。

「護様は逢花様の伴侶になるつもりはあるのでしょうか、無いのでしょうか?」

 有無を言わせずYESかNOか、二者択一以外の答えは許さないぞ、そんな勢いで答えを迫ってくる。

「そんなの無いよ……」

 まだ高校二年生の護、結婚どころが色恋沙汰すら考えたことが無いお年頃の男の子。第一、元々護は色恋沙汰には鈍すぎる。

「そうですか……」

 世話役メイドは思考する、与えられた命令は護さんは、わたくしの“伴侶”となるべき御方、その事を頭に入れておいてくださいませであり、神化人である彼女は逢花には絶対的な忠誠心を抱いている。

 “どうしても、命令は実行しなくてはならない”の思考が働く。

 白い寒々とした光でナイフを作り、世話役メイドは自分の指先を切る。

「えっ!」

 驚いている護を捕まえて口をこじ開け、指先から滴り落ちる血を強引に飲ませた。

 護も神化人にしてしまえば、逢花に絶対的な忠誠心を持つ、これで伴侶になり命令は達成されるはず、思考がそう結論付けてしまった。



      ☆



 不幸の1つは逢花が“力”を手に入れたばかりで、まだ十分に使いこなせていなかったこと。異世界の女神皇帝の生み出した神化人ならば、このような行為はしなかっただろう。

 もう1つの不幸は世話役メイドはゆとり世代で、賢くなかったこと。


 世話役メイドの前で崩れ落ちる護。

「この!」

 激高し世話役メイドに飛び掛かろうとした聖子の肩を、咄嗟に掴んで止めたエリカ。

「こちらへ」

 エリカと聖子の前に出て、優しげな顔で逢花は手招き。

 その優しげな顔に、ぞっとする感覚をエリカは垣間見た。

「逢花様」

 手招きに応じ、やってきた世話役メイドの首を素手で跳ねる。

「あなたには“首”を言い渡します」

 何で? そんな表情を浮かべた世話役メイドの頭が部屋の隅に転がっていった。

「護~護護護護護護! しっかりして」

 聖子は駆け寄って、護を助け起こす。反応なし、脈もある、息もある、無いのは意識だけ、まるで眠り姫。

「どういうつもりだ」

 エリカは世話役メイドを仕留めた真意を問う。神化人になれば逢花に絶対的な忠誠心を抱く、そうなれば護を容易く手に入れれずはずなのに。

「わたくしが欲しいのは護さん本人、イカサマなどで心を意のままにしても意味などありませんですわ」

 しっかり見て逢花の心情を確かめる。幾多の戦いを経たことで、多少なりとも人を見る目は養われている。

 愛した男を拉致、監禁してしまうような危ない性質の持ち主ではあるが、逢花の護を愛している気持ちは本物に間違いなし。

 本物だからこそ、本当に愛してもらいたい“心”から。

 その気持ち、エリカにもよく解る。日本(ここ)へ来なければ知ることの出来なかった感情。

 G(ゲッティン)細胞は万人を効果を表す。護が意識を取り戻した時、彼は神化人になっている、逢花に絶対的な忠誠心を持つ。

 無理やり植え付けられた絶対的な忠誠心から来る愛は、本当の愛とは違うもの。

「エリカさんでしたわね、護さんのことは頼みます。意味は解りますわよね」

 頷くエリカ。

「逢花あぁぁっ!」

 あまりもの勢いにエリカは止めることが出来なかった。

 一般人よりも強いとはいえ、聖子は人間。それに対し逢花は人間の領域を超えた存在、簡単に返り討ちに出来るはず。

 なのに抵抗はしなかった、敢えて真正面から顔面を殴られ、すっ転ぶ。

「もうよせ、深呼吸をしろ」

 深呼吸をさせ、聖子を落ち着かせる。

 言われた通り、深呼吸をして高まった感情を落ち着かせる。

 のっそり逢花は起き上がり、

「使用人がしでかした不始末は、わたくしの不始末ですわ」

 流れた鼻血を取り出したハンカチで拭く。

「今日はわたくしの負け、引き下がります。あなたとの決着は後日、改めて」

 深々と頭を下げ、世話役メイドを担ぎ、頭を拾って逢花は部屋を出て行く。

 エリカは追おうとはしなかった。

「時間が無い、すぐに始めるぞ、手伝ってくれ聖子」

 護が神化人になる前にやらなくてはならない。


 エリカと聖子は護を抱き上げ、ベットの上に寝かせる。

 護が目を覚ます前に神化人になる前に、やらなくてはダメ、時間が勝負。

「何をやるつもり」

 深呼吸のおかけで、少しは落ち着きを取り戻した。

「毒を以て毒を制す」

 メタルフレームメガネを外し、自らの唇を噛み切ってキス。そうやって眠っている護に血を飲ませた、まるで眠り姫にキスをする王子様の様。

「なななななななななななななななっ」

 突然のキスに慌てふためき、“何をしている”と聖子は言えなくなってしまう。まだ自分もキスはしたことは無いのに、もしかしたら護のファーストキスではないの?

 ふと思い出す、小学生の頃、学習発表会で護とキスをしたような気もする。アレがファーストキス? 聖子がヒーロー役、護がヒロイン役だったけど。

 脳内が混乱中。

「私のL(リリス)細胞で、G細胞を打ち消す」

 と言われ、聖子の混乱が収まった。

「そんなこと、出来るの?」

 エリカは頷く。逢花の“エリカさんでしたわね、護さんのことは頼みます。意味は解りますわよね”はこのこと。

「L細胞とG細胞がお互いがお互いを打ち消し合い、上手くいけば共に消滅する」

「……上手くいけば?」

 その台詞を聞き逃さなかった。

「拮抗状態が起きなければ失敗だ。失敗すれば死ぬ、下手をすれば神化人なってしまう……」

 護が死ぬかもと聞いて、一瞬、聖子は激高しそうになったが激高はしなかった、とてもエリカが辛そうな顔をしていたから。

 その顔を見ればエリカの気持ちが痛いほど伝わってくる。

「この方法で無理やり神化人にされそうになった人を助けたことがある。大体、10人に7人の割合で人に戻せた」

 確率的には助かる可能性が高いとはいえ、100%ではない。しかし、この方法しか護の神化人化を防ぐ方法は無いのが現状。

「結果が出るのは夜明け、全ては護次第だ」

 護は弱くない、そうエリカは信じていたい、いや信じている。



 時間が過ぎていく、未明を迎えてもエリカも聖子も眠ることは無く、ベットの上で静かに眠り続ける護を見守り続ける。

 朝までの時間、普段よりも聖子は倍長く感じていた。

 やがて窓から日が差し込み、朝が来たことを告げる。

「う、ううん」

 日光を浴びた護の口から、声が漏れ出す。

「護!」

 すぐさま、聖子は側へ。

 その背後で、エリカは最悪の事態に備えていた。

(もし神化人になっていたら……)

 その時は一思いに相手が誰であろうと、それが魔人戦士としての宿命。

 ゆっくり目を開く護。実際には、それほどゆっくりではなかったのだけどエリカにも聖子にも、そう感じさせた。

 半身を起こしてキョロキョロ辺りを見回し、エリカ、聖子と目が合う。

「聖子ちゃん、エリカさん」

「護ー!」

 第一声を聞いた聖子は護を抱きしめる。

「ぐえっ」

 強く抱きしめられ、再び気を失いそうになる護。

「ご、ごめん」

 慌てて護を離し、急に恥ずかしくなって赤面。

 何となく微笑ましいやり取りの中、

「護、逢花の事をどう思う?」

 唐突にエリカは質問した。あの女のことは聞くんじぇねぇと聖子は睨み付けたが、この質問は必要、確かめるために。

「友達だよ」

 普通に答える。そこからは逢花に対する友情は感じられても、忠誠心は無かった。

「僕の事、助けに来てくれたんだね、ありがとう、聖子ちゃん、エリカさん」

 いつもと変わらない優しい笑顔を見て、ホッとエリカは肩の荷を下ろす。

「ねぇ、逢花さんはどうしたの?」

 逢花様ではなく、逢花さん。そこにあるのは心配、誰だって友だちの安否は気になる。

「帰ってくれたよ、今日は逢花とは戦わずに済んだ」

「本当、それは良かった」

 エリカから戦ってはいないと聞くと、護は嬉しそうな顔をした。忠誠心ではなく、友人に対する思いで。

(どうやら、神化人にはなっていないようだな)

 “護は弱くない”それが正しかったことを再確認。

「あっ!」

 いきなり、護は声を上げる。

「どうしたの、護」

 何かあったのか、一度、収まった聖子の不安な気持ちが再び出てきそうになる。

「僕、メガネかけていないのに、ちゃんと見えている」

 キスの邪魔になるのでメタルフレームメガネは外したまま、枕元に置いてある。

 視力の悪い護はメガネを掛けていないと、ぼやけてちゃんと見えないのに、今はエリカも聖子もしっかりと見えていた。



 とりあえずは別荘を去ることにした。高級車を爆破したりしたので、誰かが来たらややこしいことになってしまう、特に警察関係は。

 廊下には神化人も怪物の遺体も見えなかった。怪物は蒸発、神化人は回収したのだろう。

 そこには護に嫌な思いをさせたくない、そんな逢花の心遣いが見て取れた。

 ただ戦闘の形跡までは完全には隠しきれず、何があったのか、詳しく物語る。

 護は聡明な男の子、戦いがあったことを悟ってしまう。

 悪いのは誘拐した逢花、向こうも殺す気でエリカを迎え入れた。頭で解っていても割り切れないのが護の優しさ、そんなところがエリカ、聖子、逢花を引き付けた魅力の1つ。

「お前の所為じゃない気にするなと言っても、まぁ、無理だろうな。でもな、くよくよしたって何にもならないのが現実だ。辛い気持ちも悲しい気持ちも背負って乗り越えて、前を目指して歩いて行く。今、やるべきことはそれだ」

 厳しくもなく上から目線でもなく、まるで戦友(とも)に語るような仕草でエリカは話す。

「……ありがとう、エリカさん」

 精一杯の気持ちを込めて、お礼を述べる。

 聖子も護を励まそうと思っていても、何も言葉が浮かんでこなかった。

 エリカの強さが羨ましいと思った。同時に自分も、もっと強くならなくてはならないと決意を持つ。



 別荘を出た後は誰とも遭遇することなく、また神化人や怪物にも出会わず、運良く駅まで来れた。

 道すがら、意識を失っていた間の出来事を話す。世話役メイドにG細胞を飲まされたこと、それを打ち破るため、エリカがL細胞を飲ませたことを。

 キスの事を聞かされた時は、流石に鈍い護も顔を赤らめた。

 電車に乗り、護たち3人は聖子の家へ。


 まずはコーヒーで一服、気を休める。

 次に行ったのは護の視力検査。

 視力検査と言っても眼科ではないので視力表はなく、手元にあったポスターや絵本、雑誌を使って調べた。どの距離で文字が正確に読めるかと。

 結果、およそではあるが護の視力は2.5以上はあると見受けられる。

 明らかに視力は上がっていた……。

 もしかして魔人戦士になったのかも、それを調べるために聖子と腕相撲。

「おりゃあっ」

 可愛い気合を発し力を籠め、何度も何度も聖子の腕を倒そうとするが、びくともしない頑丈な腕。

 聖子が軽く力を込めたら、あっさり護の腕は倒されてしまった。

 解り切っていた結果とはいえ、悔しいことは悔しい護。

 視力が良くなったことを除けば、さしたる変化はなし。

 神化人になっていれば絶対的な忠誠心を持つ相手を友達とは呼べはしないし、魔人戦士や神化人にしても非力すぎる。

 体を傷付けて治るかどうかを調べる方法もあるが、いくら何でもそこまではやりたくはないエリカと聖子。

「今までL細胞で神化人化を防いだ人の中には、稀に食べ物の好みなんかが変化した人はいた。もしかしたら、それと似たようなことかもしれないな」

 そうエリカは分析。

「ところで、エリカさん」

 笑顔で聖子はエリカに近づいてきた。

 その笑顔はとても怖く、護はたじろぐ。

「血を飲ませる必要はあったとしても、キスをする必要はあったのかしら?」

 ニッコリ笑顔、とっても怖いニッコリ笑顔。

「いや、それはその方がかっこいいかなっと思ってだな。決して護とキスをしたかったわけじゃ……」

 流石のエリカも、聖子の放つオーラの戦慄に背筋が凍り付いた。




 眠り姫を目覚めさせるのは、王子様のキス。


 最初は逢花がG細胞の血を飲ませる予定でしたが、話を進めていくうち、逢花はそんなことはしないと思い、世話役メイトにやらしました。

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