序章 女神皇帝誕生
チートな力持つ転移者は異世界を救うこともなく、活躍することもなく、チートな力で異世界の脅威になっています。
だだっ広い草原を埋め尽くす兵団も兵団、大兵団。
黒いローブを纏った魔道士たちは最上級の攻撃魔法の呪文を詠唱。弓兵たちは、強力なマジックアイテム、射貫くと対象物を直ちに崩壊させる矢を、いつでも撃てるように弦を引いて待つ。
鎧姿の戦士たちはジャベリンを構え、白いローブ姿の魔法使いたちは、ジャベリンに強化と当たった瞬間、爆裂する魔法を掛けておく。
飼いならしたリトルドラゴンを待機させている魔物使いたち。リトルドラゴンはドラゴン族の中では下級で名前の通りの小型ではあるが、人間からすればそれなりに大きく、魔物使いが使役できる最強クラスのモンスターの一角。
ずらりと立ち並ぶ砲台に込められた魔法弾は、破壊魔法が何重にも掛けされた高級品。
この世界における最強戦力が集まった、この地に、この場所に、この大草原に!
この世界における最強戦力が取り囲むのは草原のど真ん中に立つ、たった1人の相手。
“そいつ”は立っていた。どこの百貨店でも売られている、元々は白い色の、今は薄汚れたパーカーを着こみ、両手をポケットに突っ込んで、ただ立っていた。
フードを目深に被っているため、顔は良く見えないが整っていて、美形の類であることは間違いないと見受ける。
「転移者め、この世界は貴様なぞに渡さん!」
集まった各国の司令官の1人が、“そいつ”に憎しみのこもった視線を投げ付ける。
集まったのは仲のいい国ばかりではない、仲の悪い国と国、小競り合いを繰り返す国と国、何度も戦争をした国と国。
国と国、国家間のしがらみ枠組みを越え、全ての国が手を取り合い集結した。
それだけの脅威をこの世界にもたらせたのだ転移者“そいつ”は。
全世界から招集された大兵団は隙間なく大草原を埋め尽くし、“そいつ”を包囲、どこにも逃げ出せるスペースを与えない。
各国の司令官が手を上げた。上げたタイミングはバラバラでも、
「「「「「「「攻撃開始!」」」」」」」
手を振り下ろす攻撃開始の合図は、ピッタリ揃う。
詠唱を続けて限界まで威力の高めた攻撃魔法を魔導士たちは放ち、弓兵たちは崩壊の矢を撃つ。
戦士たちは強化と爆裂の魔法を掛けたジャベリンを投擲。
リトルドラゴンにブレスを吐かせる魔物使い。
立ち並んだ砲台が、一斉に魔法弾を発射した。
全ての攻撃が大草原に立つ“そいつ”に命中。
轟く爆音、渦巻く爆風、巻き上がる土煙、周囲の気温が一気に上昇、空気が歪み陽炎が立ち上る。
「やったか!」
攻撃が終わっても尚、突風は収まらず司令官1人の髪と髯を揺する。
「当然だ、あれだけの攻撃、ダークドラゴンでも肉片すら残っていまいて」
ダークドラゴンはドラゴン族の上位種、巨大で鱗は頑丈、ベテランの剣士が鍛え上げられた業物の剣で斬っても、掠り傷一つ負わすことさえ不可能。
「思い知ったか! 何が転移者だ! 何がチートだ!」
大草原の地形が変わってしまう程の攻撃、勝利を確信した各国の司令官たちは狂喜乱舞。
『俺たちは侵略者に勝ったんだ』兵団の中にも、歓喜が広がっていく。
土煙が晴れ視界がはっきりしてくると、激しい攻撃で作られたクレーターの中心に“そいつ”が立っていた、ポケットに手を突っ込んだままの体制で。
攻撃で白いパーカーの薄汚れ度が増したぐらいで、全くの無傷。
「ば、馬鹿な……。あれだけの攻撃の直撃を受けて平気だと」
司令官の誰かが言った。言ったのは1人でも、皆同じ気持ち。
動揺、驚愕、恐怖が司令官たちに広がっていき、それは集まった全軍隊にも伝染する。
ポケットに突っ込んでいた右手を抜き、真っすぐ天に向かって伸ばす。
ピンと立てた人差し指の先に、小さな白い光が灯る。純白で見るものに神々しさを与えながら、凍えるような冷たさを与える光。
どんどん光は強く、大きく、眩しくなっていき、やがて光は大草原全域に広がり、各国の司令官たちも、魔導士たちも弓兵たち戦士たちも魔法使いたちもリトルドラゴンたちも魔物使いたちも砲台も、何もかも包み込む。
純白の光が消えた時、各国の司令官たちも魔導士たちも弓兵たち戦士たちも魔法使いたちもリトルドラゴンたちも魔物使いたちも、砲台さえも跡形もなく消えていた。
大草原に残っているのはクレーターの真ん中に立つ“そいつ”のみ。
どこからともなく風が吹き、フードが外れ、長い銀髪の髪が靡く。
胸のポケットから“そいつ”は、一枚の写真を出す。
写っているのは日本人なら誰でも見慣れている、ごく普通の日本の町並み、風景、景色。
この世界の覇権を巡る1人対全世界の戦いは、チートな日本からの転移者“そいつ”が勝利した、圧倒的な力を持って。
異世界を征したチートな転移者“そいつ”は女神皇帝を名乗る。
女神暦元年、帝国の歴史の始まり。
こうしてチートな転移者、女神皇帝に異世界は支配されてしまいました。
本篇は次回から始まります。