本を読もう
またもや遅くなってしまいました。すみません。
これからは少しでも投稿頻度を上げられるように頑張ります!
待ちに待った書斎への出陣、オルルは四足歩行ができるようになったら必ず忍び込もうと考えていた。そのせいもあり、ハイハイができるようになった日はエリシアとウィリアムも盛大に喜んでいたのだが、なぜだか赤子であるオルルも喜んでいるという不思議な構図が生まれた。それはともかく、ウィリアムが書斎を持っているという情報はエリシアとウィリアムの会話から聞き出していた。書斎から探す本は初心者から中級車用の魔法本。準備は万端だ。
ここで出てくるのが飽きるほど鍛錬を繰り返しに繰り返した魔法、「影」である。エリシアは基本的に出かけていて、ウィリアムは何やら書類の整理などをしているというのが今までの常だったのだが、最近になって両親がともに家にいることも増えてきた。エリシアやウィリアムの言っていた用事というものが片付いてきたのだろう。そして、いくら忙しいとは言ってもそんな状況で二人の目を掻い潜りつつ、家を散策して書斎まで行くのは困難だろう。だが、闇魔法の「影」を使えば話は違う。自分の存在感を薄くできるこの魔法があれば、あるいはウィリアムが自分の書斎で書類の整理を行っていた場合でも対応できる可能性がある。ましてや、オルルはこの数か月間をこの魔法に費やし、その練度もさることながら重ね掛けすら覚えている。後は実行に移すのみだった。
翌日の朝、オルルの家族は皆朝食を摂っていた。エリシアとウィリアムは卵が使われた料理とスープを口にし、オルルは母乳を飲んでいる。やはり精神年齢が赤子ではないオルルには授乳は恥ずかしいので離乳食を待ちわびているのだが子育ての知識を持ち合わせていないので、いつになるかは分からない。
いつもの流れだと朝食を終えたエリシアはすぐに出かける。オルルはウィリアムに抱かれ、二人でエリシアのお見送りをする。その後、ウィリアムは事務仕事に移る。ここがオルルの狙い目である。
申し訳なさそうにオルルをベッドに寝かしつけるウィリアムを他所に、寝かしつけられた当人は計画を振り返っていた。
先ず最初にやらなくてはいけないことがある。何とかしてベッドについている柵を安全に乗り越えなくてはならないのだ。手足を使い四足歩行が可能になったオルルだが筋肉トレーニングをしていたわけではないので筋力は一般的な赤子と変わらない。よって、柵をよじ登ることが出来ても、ある程度の高さがあるベッドの柵を掴みながら降りるのは困難なのだ。だがしかし、そこを無理にでも実行しないと念願の魔法書にはたどり着けない。無事にベッドから降りることが出来れば、あとは過剰に魔力を込めた「影」を自身に重ね掛けすれば見つからないはずだ。
ウィリアムが部屋を出て行った。オルルは柵に手をかけ、よじ登る。赤子だからなのか精一杯力を込めてやっと柵の上に上ることが出来た。問題はここから。柵を降りるには常に力を込めて掴んでいなければならない。それも、自身の体重を支えるほどの負荷に耐えながら。
意を決して、オルルは柵の外側を握り柵の縁から降りようとする。ズルッ!足から降りようとしたオルルだが、予想を上回る重さに耐えきれず、柵からずり落ちてしまう。振り子のように回転し、身体の部位で一番重い頭部が下に逆転する。
(まずい!!---微風!)
咄嗟の反応で今では使い慣れた風魔法を手から放出する。軽い音と共に衝撃がオルルを襲う。
(た、助かった……風魔法も練習しといてよかった)
ベッドから落ちるもオルルの身体に傷はなかった。数か月の特訓の賜物だろう。無傷なのを確認するとオルルは作戦を続行する。一応ではあるが,今の段階で「影」を使用しておく。何かの拍子でウィリアムが部屋に来ると計画がつぶれてしまうからだ。
さて、第二の関門であるドアだが既に手は打ってある。ウィりアムがくれた小さい人形の玩具を柵の外に投げてからドアが閉まらぬよう、人形を「微風」で縁まで移動させておいたのだ。これによりドアノブに手がと説かないオルルでも容易に扉を開けることができる。
次にウィリアムの書斎を探さなければならないのだが、書斎と思わしき場所はすぐに見つけることができた。耳を澄ますと中から、ペンを走らせる音がする。寝室を出てから右手の行き止まりの部屋が書斎のようだ。
そして、最後の難関である書斎のドアだが、どうしても入る方法が浮かばなかった。唯一の方法が「ウィリアムが外に出てくるのを待つのみ」であった。しかし、この方法は運に左右されやすい。いつもは昼にウィリアムは自分の世話をしに寝室へも様子を見に来る。それまでの間に部屋に侵入しなければならないのだが、そもそもそれまでの間に部屋を出ない可能性や寝室に行ってしまう可能性がある。そうなった場合、オルルが脱走したことがバレ、作戦は失敗に終わる。だが、ウィリアムが飲み物を取りに行く可能性や排泄を死に向かう可能性いも多いにありえる。リスクはあるが今のオルルにはこれが最善なのだ。
時は少し経ち、書斎の扉が開かれる。ウィリアムはオルルに気づくこともなく、進んでいく。
(よし!思い通り闇魔法は使えている!…あとはウィリアムがどこへいくのか見守るのみ!)
廊下を歩いていくウィリアムを見つめているオルル、ウィリアムが寝室の前を通りすぎていったのを見送ると、開かれっぱなしのドアから書斎への侵入に成功したのだった。
一息つき、鼓動を落ち着かせる。目の前を見ると正面に大きめの机があり、左右には一つづつ本棚がある。この世界は前世の世界と比べてあまり化学が進んでいないだろう事を考えると、この本の量は多いのだろうか。本棚のなかが埋まるほどに詰められた大量の本を見てオルルは心を躍らせる。
この中から魔法書を見つけ、その内容を覚えなければならない。できるのなら2、3冊の重要な部分を記憶しておきたい。本棚の上のほうはオルルでは手が届かないので必然的に下段の普段読まないであろう本たちの中から気になる魔法書を探すこととなる。
エリシアが言っていた通り書斎は随分と散らかっている。辺りを見ると丸められた紙が落ちている。ウィリアムが返ってきたときにドアが閉まらないようにするものが必要だったので、それを拾いドアの縁に置く。本もちらほら落ちているので先ずはそこの本から調べることにするが、あまり興味の惹かれるものはない。落ちている本を集め、山にすることで本棚の二段目までは手が届くようになった。一段目から丁寧に品定めをする。書斎の左側にある本棚の二段目まで調べたところでウィリアムが返ってくる。オルルや移動した本に気が付くことなく自分の席へと戻る。一安心するオルルだが、これにより右側にある本棚の二段目を調べることはできなくなってしまった。本をそっと取り出すくらいはできるだろうが、部屋を大移動し、山を作る本に気が付かないはずがないので二段目にある本はあきらめることにする。続けて右側にある本棚も物色する。
オルルが本棚を端まで調べて気になった本は全部で三冊。一冊目が「中級者向けの魔法書」である。中には初心者用の魔法書と違い、基礎的な魔法の訓練の内容などが含まれていないので、より多くの魔法が記載されていた。二冊目の本は「闘気の鍛錬」だ。内容はその題名その物で、闘気の鍛錬の仕方や使用方法、用途、その性質などが書かれている。そして最後の本が「冒険者入門書」である。
この世界には冒険者という人たちがいるらしい。ギルドという組織が世界の各地に配置されていて、人に害する「魔物」という生き物を討伐することを主な生業としているらしい。中には自らの拠点を持たず、世界を歩き回り、生活する人もいるらしい。世界を歩き回る…とても魅力的な響きだ。好奇心が刺激される、それも魔法などがあるこの不思議な世界なら尚更だ。世界にはどんな人たちがいるのだろうか、世界にはどんな生き物がいるのだろうか、そんな疑問ばかりが押し寄せてくる。好奇心の波に襲われたオルルは残った理性で妄想するのを抑え、自分が今しなければならないことに集中する。
本棚から抜き出した三冊の本を必死に記憶することに専念すること数時間、そろそろお昼だと頃にオルルは本を読むのを止め、寝室へ戻る。掻い摘んでではあるが良い収穫だったのではないかと振り返りながら歩く。しかし、自分のベッドを目の前にしてオルルは重大なミスに気が付く。
(あれ、どうやって戻るんだ?)
ドアを開けることなどに注意を割きすぎた為か、オルルは元の場所に戻る方法を考えていなかった。自分の腕力では柵を登ることはできない。どうするかと考えていると廊下から足音が聞こえる。
(またやっちまった…)
頭を抱えるオルルであった。
次回は今回読んだ本の内容や選んだ理由などを書いて行きたいと思います。