異世界への実感
前回の前書きで書き忘れてしまったのですが、今書いているこの物語へのダメ出しや誤字指定はドンドン募集しています。現在、自分でも物語の書き方について勉強はしているのですが、基礎すらできていなくてスタートラインがあまりにも低いので追いつけないと思います。なので、ダメ出しなどがあれば率先して直せるよう頑張っていきたいと思います。
オルルの前世の記憶が蘇ってから二日後、オルルは本を読んでいた。子供用の絵本ではなく親の書斎にあった魔法書だ。知らない文字が読めることに驚き、気を取られて本来の目的を忘れてしまっていたのだが、そこから得られた情報にまたも驚愕する。
先ず、その絵本は手作りで作られていた。とはいっても印刷がされていなく手作業で作られたというだけなのだが、着色はされておらず、絵の部分は手書きのようだった。そこまでの情報でオルルは自身が生きている時代にあらかたの予想をつけるが、問題はそこからだった。
その絵本に描かれていたのは一人の人間と、一匹の龍。おとぎ話だと思ってきていたのだが魔法や摩訶不思議な力の数々が登場し、日本に居た頃に読んだ童話よりもファンタジーに近い話となっていた。
絵本に描かれていた魔法などが気になって仕方ないので、何とかして母親のエリシアに説明させようと身振り手振りで興味を示していることを伝える。すると、エリシアにその必死さが伝わったのか説明し始める、
「なんだオルル、魔法が気になるのか?そうだな…あんま魔法は得意じゃないんだが見せてやるよ。」
そういうとエリシアは人差し指を前に突き出し、オルルに見せながら呪文のようなものを唱え始める。
「火よ、我が意思に応え、此処に現れよ。」
すると、エリシアの人差し指の先に丁度、指の第一関節と同じぐらいの大きさの火が灯ったのだ。明らかにライターのような人工物から放たれたものではない火にオルルは目を丸くする。前世にもマジシャンなどの奇怪な人間は居たが、目の前で行われたそれは手品とは一線を画している。本能的に本物であると理解させられてしまうほどの圧倒的なリアル、次の瞬間襲ってきたのは憧れだった。自身の常識では絶対に起こりえない神秘に胸が高鳴り、感情が溢れ出し、無意識にオルルは手を伸ばした。
「どうだ凄いだろう。だけど触っちゃダメだかんな。あちちだぞー。」
目を真ん丸にして興味深々な様子のオルルに気を良くしたのか、エリシアはしたり顔で手を遠ざける。
オルルとしてはもっと近くで見てみたかったのだが、エリシアは早々に火を消してしまう。料理を作りに戻ってしまったウィリアムにバレたら危ないと叱られてしまうからだ。
「もう少し大きくなったらいくらでも見せてやるからなー。」
興奮したきりのオルルを適当にあしらうと、また絵本の朗読に戻るのだった。オルルとしては既に絵本などに興味や関心はなかったのだが。
そういった経緯があり、オルルはその時に感じた強い憧れのもと、必ず魔法を使えるようになるためにウィリアムから魔法書を借りて読んでいたのだ。尤も、オルルは生後数か月の赤子であり、当然話すこともできない。なので、読んでもらった本を指さしたりなどの身振り手振りでようやく、魔法書にありつけたのだった。
「ねぇエリー、まさかとは思って僕の魔法書を渡してはみたけれど、本当に見ているよ。あれは読めているのかな?」
「なわけないだろウィル。まだ生後三か月のハイハイもできないガキンチョだぜ?本なんか読めるわけがない。」
「…そうだよね。でもあれだけ熱心なんだ、今からでも文字を教えてみるのもありかもしれない。」
まだ文字と触れ合わせたことのないオルルに文字を読むことはできないと判断したウィリアムであったが、オルルの熱中具合に柔軟な決断をする。読み書きを教えるにはあまりにも早すぎるが、理解できなかったとしても、それが普通なのだからと軽い気持ちで自分たちが使う言語、フェール語を教えることにした。
魔法書に集中していながらも、半ば話を聞いていたオルルは内心で歓喜する。魔法の魅力に勢い余って、魔法書を催促してしまったが、それが不自然な事はオルルも理解していた。なので、この場は読めない振りをしつつ、文字を習ったあとで存分に魔法書を解読することに決めたのだ。
それから数日が経ち、オルルはまたも魔法書を読んでいた。魔法書読みたさに、不自然とわかっていながらも、ウィリアムに習いながら着々とフェール語を理解していく振りをし、続きを催促し、ウィリアムからの学習を終了した。最後に残った一握りの理性により、せめてものカモフラージュとして辞書を視界の片隅に置き、魔法書の読み取りに励んでいる。
魔法というものはオルルにとっては未知そのもの。前世を含め、未だ体験したことの無い世界。地球にいてはありえなかった世界。借り受けているのは初心者用の入門書とはいえ、その神秘の一端に触れているのだからオルルが没頭するのも仕方のない事と言える。
魔法書曰く、このイースという世界では多くの人々は魔力というものを持っている。稀にだが全く魔力を持たずに生まれてくる者もいるが、そういった者は反対に闘気というものを持って生まれることが多い。片方の才能を持って生まれてくると反比例してもう片方の才能が乏しくなる傾向がある。だからと言って、双方の才能を等しく多く持っている者が全くいないわけではない。だが、そういった者の希少価値は高いので世間の評価も高くなり、大成することが多い。
この魔力は主に魔法を使用する時に対価として消費する。多くの魔力を消費することで大規模な魔法や精密な魔法を扱うことが可能となる。
闘気は体に纏うと身体能力を飛躍的にあげることができる。また闘気は自身が持っている武器にも纏わせることができる。闘気を纏わせた武器はその強度が上がり、剣などの場合は切れ味を上げることができる。
この二つの能力は基本的に使えば使うだけ増やすことができるので、魔力がほとんどないまま生まれた者でも努力により偉大な魔法使いとして大成したなどの前例もある。しかし、大抵の人はいずれ魔力の総量が段々と増えなくなり頭打ちとなる。
この事実を知ったオルルは若いうちから魔力や闘気を使用することのアドバンテージに気が付き、早速とばかりに本をある程度読み飛ばし、魔法の使い方を調べる。本で紹介されていた初歩的な魔法は水の魔法だった。
魔法は大きく分けて六つの種類がある。水魔法、火魔法、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法の六つに分かれ、この六つが六魔法と呼ばれている。他にも時空間魔法や重力魔法などもあるのだが、希少さ故か名前の紹介のみで詳細は記されていなかった。人によって六魔法には適正があるので多くの場合は三歳頃になると魔見水晶というものを親が使い、子供の適正属性を鑑定するのだが、オルルはそれを買うことができないので自身の適正属性に関しては一先ず置いておくことにした。
そして水魔法を試してみようとしたのだがここでオルルは重要な見落としに気が付く。魔法を使うにあたって必要なものは魔力と想像力と記されているのだが、その工程の内の一つに詠唱があるのだ。オルルは呻きをあげることはできれど、喋ることはできない。確かにエリシアが魔法を使うときも詠唱していたことを思い出す。思いも寄らぬとこで大きな壁にぶち当たり、またも悩むオルルであった。