仕事2
賊を皆殺しにしたエンジは失敗したと思った。1人でも生かしておけば仲間の居場所や拠点を吐かせることができたからである。そうすれば更に金目のものが手に入る可能性や良い武器が得られるかもしれないからだ。だが全て後の祭りであった。
賊を皆殺しにした地点からしばらく歩くと大きな森が見えてきた。やっと目当ての連中を狩れると考えていたエンジだったが道の向こうから馬に乗って誰かがやってきた。エンジが目を凝らして見てみると武装した青年であった。おそらくハンターでゴブリンたちを狩りに来たのだろうとエンジは思ったがどうやら他に目的があるようだった。青年はエンジに気づくと近寄り馬から降りて彼に話しかけた。
「お伺いしたいことがあるのですがこのあたりで少女を見かけませんでしたか?」
「少女?知らんなあ・・・アンタもゴブリン狩りに来たのか?」
「いえ。私はゴブリンに攫われた村娘を探しに来たのですが・・・」
「何だ。アンタ・・・ハンターじゃないのか?」
「紹介が遅れました。私はエルドリンと申します。この近くにある村を警備しているものです」
「俺はエンジだ。ハンターをやってる。ゴブリンとコボルトを狩りにマッドネスから来たんだ」
「そうなのですか・・・ではエンジさん私と共にあの森のゴブリンたちを倒しませんか?」
「いいだろう。俺は強いからな。きっとゴブリンたちは逃げ出すだろうからアンタは逃げ出したところを叩いてくれないか?」
「畏まりました。任せてください」
エンジはエルドリンという青年とちょっとした打ち合わせをしたのち森へ入っていった。この森は元々林業を生業とする人間たちがよく木材のため木を切り倒し搬出していたそうだがどこからともなくゴブリンやコボルトがやってきて住み着いてしまったという。森の中には過去に人間がいた痕跡がいくつもあり人間が使っていたと思われる小さな小屋もあった。ここに攫われた娘がいるかもしれないと思ったが小屋に入る前にエンジは接近してくるゴブリンやコボルトの存在に気付いた。数は合わせて30といったところか。現れたこの亜人たちは手に原始的な石斧のようなものから人間から奪ったのか剣ももっていた。
「やっちまえ!」
とコボルトが叫ぶとゴブリンたちが襲い掛かってきたがその速度は鬼のエンジからしてみれば遅すぎた。先ほどの賊から奪った剣を抜くとまず手始めに目の前のゴブリンの頭に振り下ろしゴブリンを真っ二つにして見せた。そのまま側面のゴブリンの上半身と下半身を永遠の別れをさせるなど無敵の戦闘をしてみせた。コボルトが「やっちまえ!」と叫んでから30秒したころにはゴブリンのほとんどが絶命し残ったものを心を挫かれ逃げ出してしまった。あとはコボルトの始末のみであった。狡猾な彼らはゴブリンが敵わないと見ると我先にと逃げ出したが背中を見せたコボルトの背中に死んだゴブリンたちの武器が降り注いだ。エンジは死体を数えてみるとその数28体であった。まず死んだ彼らの懐を探り金品を手に入れた後組合に提出するため耳や鼻を削いで保管した。
エルドリンは森の外で逃げてくる亜人を挟撃するべく待機していたが全く出てこないため心配になってきた。自分もあの人についていくべきではなかったかと思いめぐらせたが今となっては遅くもしかしたらなくなっているのではと思ったとき森から誰かが出てくるのが見えた。
エンジであった。エルドリンは駆け寄りエンジに問うた。
「エンジさんゴブリンやコボルトはどうなりましたか・・・?」
「ほとんど俺がやっちまったが何体かはまだ森にいるだろう。恐怖で動けなくなっているんだろうよ」
エルドリンはエンジが無事であるとわかると安堵したが目的の娘のことを思い出しエンジに詰め寄った。
エンジは例の小屋のことを思い出しエルドリンに伝え、共に森へ戻り小屋の扉を開けた。
小屋の中には閉じ込められた村娘が床に転がっていたが生きているらしくエルドリンが連れ帰ることとなった。エンジにしてみれば娘が生きていようがいまいがどうでもよかったがこの感じの良い青年が喜んでいるのならまあそれでよいと思いエルドリンに別れを告げマッドネスへと引き換えした。
村娘はしばらく口がきけなかったがエンジがいないことがわかると恐る恐る口を開いてポツリポツリ語りだした。エンジの鬼神の如き戦いと彼に立ち向かったゴブリンとコボルトたちがどうなったのかを。エルドリンはあのへらへらした感じに男がそれほどの強者とは思えなかったが村娘がガタガタ震えながら話すので信じるしかなかった。
エンジは戻る途中に皆殺しにした10人の賊の死体がなくなっていることに気づきやはり仲間がいたと知ったが気に留めなかった。
マッドネスに到着後支部にゴブリンとコボルトの耳や鼻を入れた袋を提出し報奨金を受け取った。職員たちは必ず死ぬと思っていた男が元気そうに帰還した上、袋に詰まっている耳と鼻の数が1人で相手にするには多すぎると驚いていた。
「あの男とんでもない逸材かもしれないな・・・」
と支部長はエンジが扉を開け出ていく様を見ながらつぶやいた。