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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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仕事1

エンジは大通りを歩きながら暇そうにしている店の主人に「組合はどこにあるか」と道を聞きながらゆっくりと向かっていった。エンジはこれから組合にハンターとして登録を終えた後に魔物を狩り報奨金を活動資金に充てようとしているが彼は武器を持ち歩いてはいなかった。街を歩いている人物の中には筋骨隆々で高そうなチェインメイルを纏った大柄な男が仲間と談笑していたりするがエンジには鎧もなかった。中流階級が着る程度の良くも悪くもない普通の衣服を身に着けているだけであった。目が黒くなければ彼はそこらにいる人間とは変わらない見た目をしている。そんな男が「ハンター組合はどこにあるか」と尋ねてくるものだから尋ねられた店の主人は怪訝な顔をしながらこたえていた。


そうこうしているうちにハンター組合の事務所となっている建造物が見えてきた。石造りのがっしりとした作りで周辺の建物など弱弱しく見えるほど立派な建物であった。扉の上には「ハンター組合 マッドネス支部」とだけ記されている。


ハンター組合について一度触れておかなければならない。この組合はドラキア王国の都市に支部がいくつも存在しておりハンターとして登録した者は近くの支部で仕事を請け負うことができる。この仕事はどのような階級のどのような身分の者でも依頼することができるが魔物の退治が絡む可能性のない仕事は断られてしまう。またハンターは個人の好みで仕事を選ぶことができるが仕事選びはハンターの生死に関わり見る目のないハンターは実力に合わない魔物と戦う羽目になり命を落とすことも少なくない。困難な依頼をこなしハンターとしての名を挙げた者も多数いるがそういった者でも仕事選びは慎重な姿勢で行う。


ハンター組合の扉を開け受付で登録を済ませたエンジは早速仕事を選びにかかるが正直なところダーバルン外の魔物についての知識がないので無作為に仕事を選んだ。


仕事内容は城塞都市マッドネスの北に住むゴブリンやコボルトの退治で各種5体ほど倒してほしいというものであったが受付職員はエンジが本来4~5人で組んで遂行を目指す仕事を1人で受けに来たことに驚いていたようだ。ゴブリンやコボルトなどの亜人は群れて行動するため1体ずつ撃破できることは少なく複数を同時に相手にすることになる場合が多い。だからハンターも何人かで組みお互いの背中をカバーしながら戦うのだがエンジに組む仲間はいない。


「こちらゴブリン、コボルトの退治の依頼ということですが・・・お1人さまでしょうか・・・?」


という職員の質問に「そうだ」と答えエンジは手続きを急かした。周りでこの会話を聞いていた者たちは受付前に立つこの何の武器も持たず何の防具も身に着けないこの男はたった今死人となったと考えた。


職員も急かされるものだからムッとしながら手続きを終えエンジを見送った。あの男必ず魔物に殺されるだろうと皆が思った。


建物から出たエンジは早速城塞都市の北へ向かう。そのあたりの森にゴブリンやコボルトが住み着いているという。本来、別種同士が同じ場所にいるのはおかしな話だが頭の悪いゴブリンをずる賢いコボルトが上手いこと使役しているのではないかというのが城塞都市マッドネス支部の見解であった。


その森は徒歩だと2時間ほどかかる距離に位置しているが道中は何もなくただ林や野原が続く限りであった。魔物も時折でるが山賊もでるという。


エンジは街のゴミ捨て場に捨てられていたフライパンを手に城塞都市を出た。出るとき番兵の変なものを見る視線を感じたがハンターとして仕事に行くのだと伝えると「お前はフライパンで魔物を退治するのか」と笑われたが「魔物を料理してやるのよ」と軽口を叩いて歩きだした。


マッドネスを出て1時間経った距離でエンジは何者かの気配を感じた。複数の存在がエンジを中心として囲むようにいるのだ。「人間の賊か」とエンジが思ったがその通りであった。10人ほどの屈強な男が物陰から次々と現れ始めた。身に着けているものは皮の鎧であったが急所の部分には鉄板が仕込まれているようであった。そして頭領らしき男が


「動くな金目のものをおいていけ。そうすれば命まではとらねえ」


と言ったがエンジは笑って言い返した。


「お前たちこそ金目のものをおいていけ。そうすれば命まではとらねえ」


賊の男たちからすれば「恐怖のあまりおかしくなったか」と思えたがどうやら目の前の男にはそのような様子はない。「相当自信があるのか」と考えたが男の手にはフライパンが握られており、やっぱりなんてことないただの男だと思いなおす。そう思いなおすと目の前の男の賊を舐め切った態度に対し腹が立ってきた。


「俺たちをこけにしたこと後悔させてやる!」


頭領らしき男がそう叫ぶと隣の男が棍棒を振り回しエンジに突撃してきた。しかしエンジは冷静で振り下ろされた棍棒に向かって頭を突き出した。


ゴッという音がしたがエンジは平気そうに笑っている。続いてエンジの後にいる賊の男が頭に向かって剣を振り下ろしたがエンジの頭からは血が流れない。他の賊の男が槍でエンジの喉を突いてもエンジは血を吐かない。では弓はどうかと賊が顔面に向かって矢を放つがエンジの額に当たった矢は刺さらず地面にポトリと落ちる。矢じりを見てみると潰れておりエンジの額のほうが硬いことを示している。剣で斬られても棍棒で殴られても槍で突かれても傷1つ負わずへらへら笑うエンジが恐ろしくなったのか頭領らしき男が顔を真っ青にしながら叫ぶ。


「お前ら撤退だ!」


と彼は言いたかったのだろうが最後まで言いきる前に絶命した。エンジがフライパンで殴ったためである。頭領らしき男の顔は潰れ頭から血が流れているが他の賊は恐怖を感じる間もなくエンジに殺された。

ある者は頭領らしき男同様顔が丸ごと潰れ、ある者は首を折られた。エンジは死んだ賊の懐を漁りいくらかの金と装備を手に入れることができた。フライパンは人の頭を叩いた衝撃でおかしな形に歪み使いにくくなってしまったのでその場に捨てた。



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