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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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哀れな男

「黒い眼球の人間は・・・いないな」


ドラキアに入って既に30分経ったが黒い眼球をもつ人間は1人も見当たらないことにエンジは絶望していた。ちなみに入国するとき番兵の目を掻い潜るため門を通らず城塞を登って降りてきた。筋力が並大抵ではない魔物だからこそできる行為だ。ちなみにこのダーバルンから最も近いドラキア王国の城塞都市の名はマッドネスといった。


まずは寝床を確保しなければならなかった。が、エンジには人間の国で流通している通貨がなかった。ドラキアではドラキア金貨銀化銅貨のほかに紙幣が用いられているがエンジの手元にはいずれもなかった。うっかりダーバルンで流通する通貨を出せば間違いなく怪しまれるだろう。


しかし活動資金に関する問題については事前にアーニマスとジルにどうすればよいか知恵を出せと言い解決してきた。2人の答えは同じであった。「奪え」ということであった。両者ともとてもではないがエンジが飲食店の皿洗いや掃除のような簡単な仕事でも遂行できるとは考えてはいなかった。好戦的な鬼のエンジならば客が文句をつけてきたとき必ずその拳で人間をミートパイにしてしまうことが予想できたからだ。なので人目のつかない通りで人間から通貨を奪うというのが最善だと思われた。


エンジはドラキア王国の城塞都市マッドネスの大通りから外れた太陽の光があまり入ってこない暗く狭い通りで人間が来るのを待っていた。


「誰も・・・来ねえ・・・」


待ち続けて1時間、猫1匹通らなかった。がしばらくしてエンジは近づいてくる人間の気配に気づいた。


1人の男が近づいてきた。男は痩せていて背は中くらいであろうか、色は白く、眼鏡をかけ、あまり頼りがいのない男だとエンジは思った。人間の身体能力を遥かに上回るエンジの耳は男の独り言やため息が離れていても鮮明に聞こえる。


「はぁ・・・また馬鹿にされたなあ僕の研究・・・」


どうやら男は学者であり詳細はわからないが除け者にされた後らしい。そしてこれからカツアゲされる哀れな男だとエンジは思った。男がエンジの前を通りかかった時エンジは立ち上がり男の胸倉を掴んで言った。


「よう。お兄さん元気がないところ悪いが金を恵んでくれよ」


エンジに胸倉を掴まれ男は宙に浮いた。エンジは鬼のなかでは小柄なほうだが人間と比べれば背が高く目立つほどだった。人間の男を軽々片手で持ちあげるエンジが怖かったのか男は怯えながら「金は持っていない!」と主張した。


「確かに持ってなさそうだな・・・服もボロいし・・・そしてお前は少しくせえ」


エンジは男を地面に降ろし続けて質問した。


「お兄さんさ金のある場所は知らないか?」


哀れな男からすればこの恐ろしい男がどこかいってくれるなら何でもいいという感じで吐き捨てるように答えた。


「金?金ならハンターの組合にでも入ればアンタみたいな人ならすぐ稼げるじゃないか!」


エンジにはよくわからない言葉がでてきたので座り込んでいる男の胸倉をもう一度掴み問い質した。


「ハンター?組合?何言ってんだお前・・・わけわかんねえこと言うならお前の肘が逆に曲がるようにしてやるぞ?」


肘が逆に曲がるように変えられると聞き男は半泣きになりながら答えた。


「ま、魔物を倒す連中のことだよ!魔物を倒せば報奨金が出るんだよ!」


そこまで聞きエンジはやっと理解した。魔物を狩れば組合とやらが報奨金を出す上に魔物の金品も奪えるからであった。だがエンジには1つわからないことがあった。魔物が城塞都市の外にいるということである。そこで哀れな男にもう一度聞いた。


「ほう?魔物がいるだと?どんな連中がどのあたりにどれくらいいるんだ?」


笑いながら質問するエンジの目が黒いことに気づいた哀れな男は恐怖で凍り付いたかのように身体に力が入らなくなってしまったがここでこの目が黒い男の質問に答えなければきっと何かよくない目にあることを本能が訴えていた。そして息を飲み力を振り絞って答えた。


「こ、この城塞都市にはいないがほかの地方都市や王都に続く道のそばにはいるはずだ・・・オーガとかゴブリン、リザードマンのような亜人がいると聞いた!」


「竜とかはでるのか?」


「竜・・・となるとそんなものは王国にはいないが・・・帝国よりも西には住んでいると聞いた・・・」


「では悪魔は?」


「あ、悪魔ならダーバルンに住んでいると聞いたが・・・」


「ダーバルンの外にきまってるだろう?」


「だ、ダーバルンの外ならば・・・聞いたことはないが・・・」


「ああそう・・・ご苦労だったな・・・じゃあな」


哀れな男を離し大通りへと戻る。通りを歩きながらエンジは組合で金を稼ぐことに決めた。好戦的なエンジなら暴れることができる上に金ももらえるとはこの上ない喜ばしいことであったからだ。金がはいったら何を買おうかと考えを巡らせているエンジの頭の中にはすでに先ほどひどい目にあった哀れな男のことはない。だが哀れな男はエンジを忘れることができないだろう。


哀れな男は先ほどの場所に座り込んだままだったがやがて立ち上がり歩きだした。先ほどの恐ろしい男のことを考えると身の毛がよだつほどの恐怖に襲われたがあの男の言った言葉の中で1つ気になることがあった。


「な、なぜ・・・ダーバルンの外に決まっているのだろう・・・?」



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