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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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騎兵と将

槍衾は騎馬部隊にはこの上ない強さを発揮する。騎馬部隊の強みはその馬の巨体による高速移動と突破力である。周囲との連携が取れないのであればそれは歩兵にとって勝てる相手ではない。背後に廻り込まれれば包囲殲滅される恐れがあるし、高速移動により補給部隊を襲うことできる。ただ槍兵が密集した陣形をつくりあげることにより騎馬部隊に対抗できる。長槍を突進してくる騎兵に向ければ馬のほうから剣山のような集団に突っ込み死んでくれる。ただフイナたちは卓越した弓術と馬術により、槍衾を撹乱し槍衾の弱点である側面から攻撃し崩した。槍衾は長槍をもった兵により形成される軍陣であるから兵たちが左右を向くと両隣の者に槍がぶつかる。指揮官が合図を出しながら巧みに統制を執らねば方向転換ができない。だが真正面からであれば真の強さを発揮する。ただし相手が人間であればの話である。




全身が毛むくじゃらで筋骨隆々な牛の頭を持ち眼光が鋭い魔物ミノタウロス、動きは鈍いが恐ろしく狂暴で残酷なオーガ、知能を感じさせない阿呆な面をしているがミノタウロスやオーガに匹敵する剛腕を持つトロール。彼らによってフイナの軍勢の槍衾はあっけなく破られた。もし彼らではなくリザードマンやスケルトンが先鋒であれば、まだマシな結果になっただろう。だがリザードマンたちは鉄の矢じりを跳ね返すほどの堅い鱗で全身を覆われていて人の目から見れば防御力があり、さらに勇猛果敢である。スケルトンたちはリザードマンと違い自我がないので勇猛果敢さはないが恐れるということを知らない。痛みもない。この無感情の、フィアニクスが遣わした兵もまた人間には強敵になりうる。




ところで軍勢と軍勢の激突は先鋒同士の戦いによって決することがしばしばある。「何が何でも相手を打ち負かす」という気概さえあれば今まで鋤や鍬しかもったことのない農民も百戦錬磨の戦士になりうる。逆に言えば気概を失った者は戦闘技術があっても弱兵である。先鋒が押され壊乱し、我先にと逃げ出したとき先鋒集団の後方にいた軍団は逃げてくる彼らをみて心を挫かれる。優秀な指揮官がするべきことは末端の兵に至るまで戦意が萎えないよう鼓舞してやることで、こちらの先鋒を破り勢い盛んな敵の先鋒の勢いを挫くことだ。とはいえ先鋒が崩れないのが最も望ましいので通常先鋒には信用できる譜代の臣下の中で最も戦に長けつつ先鋒であることに誇りを思うものがよい。




今回のフイナの先鋒に与えられた兵がフイナにより支配された国々とはいえ指揮する者はフイナのなかでも名声のある何某というものだったが彼はこれまでの対人間の侵略戦争ではよく戦ってきた指揮官だった。侵略戦争の真っ最中の時、従わせた国家のなかでは最も規模が大きいものを相手にしていた。相手の数が多く正面衝突すれば勝てるかもしれないが今後の侵略に悪影響が出ると思われた。何某は陽動作戦を請け負った、敵軍はそれに釣られ大軍をもってして何某の軍を包囲した。彼は自軍の数倍の敵に包囲されるという絶望的な状況であっても決して悲観せず、頭を常に働かせ、斥候を放ち情報収集に努め、ついに包囲軍の最も戦意の低い軍団を見つけ出し、彼らを破り、無事退却した。この陽動作戦によりフイナの主力軍団は首都を陥落させ、遊軍となった敵軍団を降伏させた。



またあるときは兵の温存のために策を巡らせ敵の補給を断ち軽々と下したこともある。現在のドラキア王国とアルバイン帝国とジラウ連邦が接するあたりにかつてグルマニアという国が存在した。グルマニア人の身体的特徴は金髪、碧眼、色白で文化的な特徴としては成人時に男子は額に、女子は目の下に傷を入れるという奇妙な伝統があることだった。彼らは誇り高く、己を律すること厳しく、不正を許さず、正義に対して実直だった。自然、グルマニアの保有する軍団は強く、勇ましく、グルマニアの子供から老人までもが誇りとした。東方の草原から死臭とともにやってきたフイナという災害のような軍勢もグルマニアには手を焼いた。一枚岩、一致団結の軍団はフイナといえども容易には突き崩せなかった。フイナの何某は自ら軍を率いグルマニア軍団を挑発し戦場に引きずり出した。と思ったら何某率いるフイナ軍団は撤退を始めた。騎馬を巧みに操るフイナの高速移動にはグルマニアはついていけないが敵に背を向け逃げるフイナにグルマニア人たちは激怒した。籠っていた要塞から次々とグルマニア軍団は出撃し隣国付近までフイナ軍団を追い回したが、そのすきにフイナの別働の軍団により要塞を陥落させられた。補給がない軍はもはや軍としての機能を維持することはできない。正々堂々とした戦争ならば強いグルマニアだったが、これに似たような策略を用いたフイナの軍勢により次々とグルマニア軍団は敗れていった。




何某はフイナの将軍のなかでも名将中の名将だったそうだが名は伝わっていない。彼は目の前のバケモノ共に軍勢がまるでゴマすり器がゴマをするかのように自軍が潰されていくなかで兵を励ました。彼の周囲を囲む騎兵は東方の平原から共にやってきた信頼できるフイナの若者たちで何某を守るかのように前に飛び出てミノタウロスたちに向かっていった。しかしどの騎兵も馬ごとその身体を潰されたり、吹き飛ばされ遥か後方へ飛んで行った。何某はもはや生き残る術はないと確信し己の腰の長剣を手に取った。




何某がダーバルンの軍勢の最前線をよく観察していると色々なことが見えてきた。強靭な先鋒に、側面からの恐れを知らぬスケルトンたちの攻撃、空を見上げると小さな点にしか見えないが魔物らしき存在が弓矢と魔法をフイナの軍勢の後方の頭上に降らせてくること。更に奇妙なことに前線のミノタウロスに混じって小柄な魔物が混じって戦っている。小柄といってもミノタウロスに比べて、の話であり人間と比べれば十分大きい。肌は青く、眼球が黒く、眼光が鋭い、頭部には禍々しい角がぐにゃりと聳え立っている。その魔物は何某に気づくと何某に向かって突進してきた。途中、騎兵や歩兵が進撃を阻もうとするものの、まるで意味をなさない。胴を真っ二つにされた者や、首だけ飛んで行った者など死に方は様々だったがミノタウロスやオーガ、トロール同様人間には理解できない怪力の持ち主らしい。魔物は何某との距離がお互いの表情が明瞭に見えるところまで縮まった時叫んだ。



「貴公が大将だな!」



はっきりと意味の通じる音声を聞き取った何某はまさか魔物と意思疎通ができるとは思わず、一瞬驚愕の表情を見せたが敵前で狼狽えた無様な自身を見せたくないと思い、威風堂々とどっしり構え叫び返した。



「そうだ!魔物よ!お前は何者だ!」



「鬼のエンジだ!」



何某はその声を聴いた次の瞬間に視界が逆転し自らの首が刎ねられたことを悟った。








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