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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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粛清

あれだけ自らを慕い尽くしてきた弟セリム一派を粛清することを決めたヘルムートは冷徹であった。セリムの重臣への厳しい取り調べの結果、彼が証言した「皇帝への挑戦」はすぐさま帝国領内において流布された。誰もが発表されたセリムの謀反を疑った。多大な功績のある忠臣セリムが自らが兄にとって代わる野望を胸に秘めていたとは多くの民が信じることができなかった。驚愕と悲しみに染まった民が多くいたが、中には「セリム様は誰かに陥れられた」と主張する者もいた。そういった噂はヘルムートにとってヒヤリとするところではあるが、この男は特殊性があった。その特殊性とは一度覚悟したら決して揺るがぬ意思を持つことであった。更にその意思を貫徹する上で生じる出来事に対し一切の感情を持たず物事を処理できることできた。




この特長がヘルムートの粛清を滞らせることがなかった。領民と真実を知らずセリムを慕う帝国兵がセリムを敵視するよう仕向けなければならなかった。ヘルムートは次の手を打った。それは帝国内で起きたいくつかの汚職や不正の事案から厳選したものをセリムの責任にすることであった。そしてセリム謀反の知らせが帝国領全土に広まった後に続いてセリムの汚職の証拠が見つかったという知らせが広まった。次から次へと明らかにされたセリムの裏の顔や行為は日々領民の彼に対する人気を萎えさせた。もちろんヘルムートが仕込んだことであり、実直なセリムは死んでも賄賂を受け取らないような男である。




帝国領民の清廉で品行方正なセリム像は崩れ去った。その人気暴落の間にもセリム一派の者は次々捕らえられ弁明の余地なく殺された。また末端の兵士たちの中にはセリムへの尊崇により一派を助けるため抵抗運動に加わった者もいたが、明らかにされたセリムの不正により投降したり逃散する者が後を絶たなかった。また領民も同様にセリムの臣下を匿うこともあったが騙されたと思った領民は彼らを追い出した。




ヘルムートは領民のセリムへの怒りを利用した。彼は「セリム一派を匿った者は皆、奴の偽りの顔に騙され利用されたに過ぎない。よって罪は不問とする」という発表を行った。これが一派の締め出しを促進させた。村一丸となって一派を匿っても連日知らされる不正の事実にうんざりしてしまう者が必ず現れるだろうとヘルムートは踏んでいた。これは一派への信が少しでも曇った者に対しこれは大変有効で匿った者は先を争うかのように各地の屯所に一派の情報をもたらした。




一派の掃討がおおむね済んだ後、領民の感情が昂っている今のうちにセリムを処刑しようと考えた。処刑は一種の娯楽であり、大衆を熱狂させ楽しませた。ヘルムートはセリムを哀れとは思わず日時と場所の指定を配下に伝えた。




場所は帝都内にある闘技場であった。帝国にはいくつも闘技場があり、大規模な街であれば必ずといって良いほど闘技場が建設されていた。闘技場では奴隷同士を戦わせて見世物にしたり、罪人が奴隷に混じって戦うこともあった。そのような人々は剣闘士と言われ闘技場から出ることは許されず、闘技場の地下で暮らしていた。やはり奴隷同然の身分に落ちても死ぬことは誰でも嫌であり、剣闘士たちは訓練に真面目に向き合い、明日を生きるため、いつか闘技場を出ることを夢見るため、己の腕を磨いた。しかし磨いた剣の腕前も全く役に立たず死んでしまうこともある。稀に剣闘士は獅子と戦うことを強要された。いくら剣の扱いに長けていても、彼らが普段行う訓練は対人用であり、俊敏で獰猛な獣を狩ることにはなれていない。運がよく、肝が据わっている者は獅子を殺し見物する民衆を熱狂させることもあるがそんなことはほとんどない。




また運が悪く獅子と戦わされる者がいると述べたが、更に運が悪い者は魔物と戦わされる。オーガと戦わされ人の原型を留めず殺された者もいる。滅多に魔物と剣闘士が戦うことはないため、それを見た者の魔物への印象は一層忘れることができないものになる。そして「魔物は恐ろしい」「関わってはならない」のような現在ドラキア王国で広まっている魔物への考えとは対照的な考えを帝国領民は持つことになった。



さてセリムはここで戦闘行為を強制された。相手はオーガだった。ちなみにオーガといっても人間に様々な者がいるようにオーガにも様々な特徴を持つものがいる。オーガは大きく分けて3種類いる。1つはどっぷりと肥えた者。次に4つの腕を持つ者。最後に目がなく顔の半分ほどある大きな口を持つ者である。最初の1つめが多く見られる一般的なオーガ。2つめ3つめは希少種である。共通して人知を遥かに超えた筋力を持ち、どっぷりと肥え、人間の背丈の倍はある。人間が掴まれればただでは済まない。今回セリムの相手は3つめの目がなく大きな口をもつオーガであった。




目無しのオーガは最も獰猛であるが、繊細な力加減をすることが可能で、それにより敵を簡単には殺さず、甚振って楽しむ残忍な面がある。闘技場には3種類すべてのオーガが収容されているが、この種を選んだのはヘルムートの考えによるものである。この残虐性をもつオーガをセリムの相手にすることでヘルムートはいくつかの効果を期待した。




1つは民衆を熱狂させ、その熱狂により未だ帝国社会に漂う陰謀説を吹き飛ばすこと。次にヘルムートは弟であっても汚職不正を犯した者は処罰するという正しさを持つ人物だと領民に思わせること。次に弟であっても処刑する皇帝である自らに逆らうことの愚かさを知らしめることであった。




セリムは囚人用の馬車に押し込められ、闘技場へと連行された。闘技場へ連れていかれることを彼は知らなかったが、闘技場に近づくにつれ異常な歓声が大きくなっていくことに気づいた彼は兄が自らをどうするのか悟った。







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