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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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危険と役割

「では国内外の危険について話し合おうか・・・まずは国内からだ」


ダーバルンの王は500年に一度行う決闘によって選ばれることはすでに述べた。強きを重んじる魔物たちの多くは現在の王サキュラに忠誠を誓っているが、そうではない者たちもいる。そういう者が集まり反王政派として集まり活動を活発化しているのだ。だいたいその勢力を構成する魔物は種族の長にはなれなかった魔物や社会に対して不満を持つ連中である。王は続けて「どの地方が一番活動が活発か」と問うた。それに対し悪魔のアーニマスが涼しい声で応える。


「地方都市ラノークかと」


地方都市ラノークは王都ダスビルから遠く離れた地であり、近場にいくつか鉱山があり良質な金属が得られるため豊かになった都市である。ここでは品質の良い剣や防具が製造されダーバルン全土で売られている。その武器防具のシェアは40%近くあると言われている。もちろん物騒な道具だけではなく身近な生活雑貨にも使われているので中流階級の戦争と無縁な平和な暮らしをする魔物たちにとっても有難い存在である。


「もし反王政派が武装蜂起し鉱山が抑えられたら面倒なことになるな」


「だが・・・これまで彼ら反王政派を取り締まることができなかったのはラノークの領主がいるからだ・・・彼を何とかするのが先決ではないか?」


88将たちの会話を聞きながらサキュラはラノークの領主の存在を思い出した。豊かな地方都市ラノークの領主はショーシャというコボルトの男で商才があり元々は貧しかったラノークを開拓した人物である。そのためラノークに住む魔物たちは種族関係なくショーシャを尊敬しているし彼の言うことに喜んで従う。


これまで王政は何度もラノークにおける反王政派の取り締まりを実行しようとショーシャと交渉してきたがラノークの支配権はショーシャにあり許可を出さなかった。如何に一番強い魔物がトップとして君臨する王政であってもラノークでの行政活動は越権行為だと主張したためである。ダーバルンの王は絶対君主というよりは魔物たちの盟主であり鬼の頭領のサキュラとコボルトの長であるショーシャはあくまでも対等であったからサキュラも取り締まりの要請を諦めてきた。「全体的なことは王に任せるが局所的なことまで口を出すな」という感じであろうか。


以上のことからショーシャは実は反王政派のトップではないのかと至る所で噂されている。しかしショーシャを下手に刺激してしまうとダーバルン経済に良くない影響を与える行為を彼が採るかもしれないし、ラノークの魔物たちは彼に従順だから実際に事が起きた場合国が乱れる可能性が出てくる。


「何か良い知恵はないか?アーニマスよ」


サキュラは智謀に長けたアーニマスに助言を求める。88将の中では抜群の頭脳を持つアーニマスに皆が期待のまなざしを向ける。エンジとアーニマスは仲が良くない方だが彼の才を認めているのでどんな知恵が吐き出されるのか楽しみにしていた。


「いくつか案が浮かんでおりますが献策するべきは今ではないかと」


何ともすっきりしない返答であった。が、アーニマスならば必ず良い結果を出すだろうと皆知っているので暗い表情にはならなかった。


「ではラノークの件はまた後日・・・他に国内の危険について・・・何かあるか?」


「リベガー公爵はいかがでしょうか」


サキュラ88将の1人ラミアのスタンツが返答する。ラミアとは上半身が人間で下半身が蛇の魔物である。リベガー公爵はミノタウロスの長であり鬼の長であるサキュラとは500年に一度王を選びなおすときの決闘の対戦相手であった。リベガーはサキュラと互角の戦いをしたが最後はサキュラに負けた。どうにもリベガーはきな臭い動きをしているとの報告がいくつを受けている。武器を大量に買い込んだり城を増築したりしているだとか。


「ううむ・・・現状では敵意ありとはまだ断言できないだろう・・・調査が必要だスタンツお前に任せよう」


「畏まりました。眷属を送り込み調査いたします」


「では次・・・国内で他に危険分子はいるか?」


これに対しアーニマスが返答する。


「リベガー公爵ほどではありませんが怪しい動きを見せている種族はほかにいくつか・・・」


アーニマスの答えにサキュラは気怠そうな表情をしながら88将を眺め口を開いた。


「全く面倒だな・・・ロック、ビセンテ、オスカル、セーデル、デラクアよ・・・アーニマス主導の元でかの怪しい動きをするいくつかの種族の調査と危険の度合いについて報告書を作成するように」



「では国内の問題から国外について話そうじゃないか」


ダーバルン周辺には人間の国が4つありそのうち3つの国とダーバルンは接している。その人間の国において「魔物を駆逐せよ」という思想が急激に広まっていることはすでに述べた。サキュラは続けてこう言う。


「人間たちが俺たち魔物を殺したがっているようだがエンジお前はどう考える?」


「根絶やしにするべきかと。人間は過ちを時が経つほど軽んじます。いずれまた我々に戦いを挑むことになりましょう」


エンジの主張のあとに冷静なヘイザムが立ちあがり進言する。


「だが人間たちも進歩していると国外から行商にきたドワーフが言っていた。何でも剣や槍、弓を使わず戦争をすることができるようになるらしい。その新たな武器とやらが絶大な威力を持つものであれば数百年前のようにはいくまい」


ヘイザムの言葉に驚く直参もいた。人間の国とは国交がないため人間たちのイメージが数百年前で停止しているのである。そのためヘイザムは過大評価しているのではないかと言う者もいた。


これに対しアーニマスが口を開いた。


「いやいや。人間は愚かだが強みはその数です。中には優れた発想力を持つ者もいましょう。在り得ない話ではありません。なので人間の国に我々の仲間を諜報員として派遣し危険な存在がもし発見されれば排除する・・・というのはいかがでしょうか?」


アーニマスの案に対しエンジが身を乗り出し答えた。


「ならばその役目・・・俺が引き受けよう」


エンジに対し王のサキュラが問いただす。


「人間の国はダーバルンよりもずっと広大だ。更にその国が4つもあるときた。とてもお前だけでは手が足りまい。他にやりたい者はいるか?」


その王の言葉に複数の直参が手を挙げた。こうして魔物の国ダーバルンと接する3つの人間の国ともう1つの人間の国に対し諜報員として魔物が送られることとなった。








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