表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
29/36

捏造

ボニファティウス城は平城であった。セリムはアナスタージウス城の後詰の役割を担うこの城の防衛能力に不安を抱き、堀、土塁、櫓を増築していた。しかしヘルムートにはそのようなセリムの意思を見抜くだけの心の余裕はなかった。有能な弟が自らの首級を挙げ、帝王になろうとしているという妄想が加速していた。セリムからしてみれば幼いころ受けた教育の通りに「主君に尽くす」ことを第一にし叛意などなく、これも帝国の栄光と繁栄のためにと思い行っていた事業の一つであった。




セリムの失敗は有能すぎるが故に周りが見えなくなることであった。彼の行った事業、治水、開墾、治安維持や軍事行動には粗がなく、まさに完璧であった。己の能力を過信するほど愚かな男ではなかったが多大な事業を成功させることにより間接的に兄の面目を潰すことを理解していなかった。それも教育による失敗の1つであろう。セリムが行うべきであったのは細々とした事業は早急に済まし、難解な事業を成功させる一歩手前で兄ヘルムートに支援を願い、成功を譲り、兄の歓心を買うことであった。



有能すぎる部下は多大な恩賞により無視できない存在になり、その気がなくとも、狡猾な王の臣下が叛意ありと王を疑心暗鬼に陥れ、反逆者と見なされてしまう。そして最後には滅ぼされてしまう。




実際セリムの直接の支配領域も人気や事業達成により増えていった。



そしてあるとき、セリムは王宮に呼び出され、のこのこと王宮に姿を見せた。兄に忠実なセリムはまさか自分自身が兄ヘルムートに反逆者として見なされているなどということは夢にも思わなかったし、兄ヘルムートはセリムが反逆者だという妄想に取りつかれているため好機と見た。たちまちセリムは屈強な兵士に組み伏せられ、縄で縛られてしまった。



「貴様ら何をするか!私をセリム=カイザーリング、王族の1人と知っての無礼か!?」



「黙れ反逆者め、のこのこと現れおって」



「なに・・・?私が反逆者だと!?どういうことだ!」



「お前が皇帝に対し叛意を秘め、帝国の栄光と繁栄を地獄の荒廃に変えようとしたことを王は見抜いていらっしゃるのだ!覚悟しろ!」



兵士の言葉に驚きを隠せないセリムは兵士に対し無実を訴え続けたが、そのまま地下牢に閉じ込められてしまった。悪辣で不衛生な地下牢の環境に入れられてもなお絶望せず、セリムは叫び続けたがその声に応える者は現れなかった。



兵士の中にもセリムを尊ぶ者は数多くいるが皇帝の烈火の如き怒りと憤怒と憎悪によりギラギラとした眼光を放つヘルムートを前に進言できる者はいなかった。セリム捕縛のころになると、多少の安心を得たヘルムートは少しばかり冷静になったが、その冷静さが酷であった。冷静さを取り戻したことにより今更になってセリムが無実なのではないかという考えが浮かんだのである。セリムという有能すぎる男の活躍により自らの中で恐怖と妄想が無意識のうちに大きくなり、終いには彼を反逆者だと見なすという自己完結を悔いた。



だがすべてが遅かった。一度反逆者として捕らえてしまった以上、解放し今まで通り働いてくれるとは思えなかったし、仮にセリム自身がそうであっても彼の臣下が認めないであろう。最悪独立を企む可能性もあったし、民衆の心がヘルムートから離れることも予想された。王がいて民がいるのではなく民がいて王がいることをヘルムートは知っていた。



領民は王の財産であり、これが欠乏すると国の生産能力は落ち、経済は発展せず、結果貧弱な国家のまま強大な他国に飲み込まれる可能性があった。北にジラウ連邦、東にドラキア王国、南には不気味なほど静かな魔物の国ダーバルンがいる以上、セリムの独立及び領民の流出は国の存亡に関わる。



ヘルムートはセリムを反逆者に仕立て上げ、処刑してしまうことを決めた。有能な王の右腕であったのもいずれ国を簒奪するために機会を伺っている間の隠れ蓑にするためであったと捏造しなければならなかった。冷静な時に心が固まったヘルムートは行動が早かった。弟ではなく反逆者を処刑するという考え方に切り替えていた。




早急に送り主をセリムと名乗った手紙で彼の重臣の男を誘い出し、拉致し、帝都郊外の極秘施設において厳しい取り調べを行った。セリムの人柄のおかげか彼の配下は皆、セリムをかばう発言をしたが、ヘルムートは嘘の証言をさせるまで拷問を続けるよう命じた。それでも重臣の男は従わず、拷問に耐える姿勢を見せたので、次は重臣の妻と娘を拉致し、彼の前で2人を嬲った。重臣は拷問や辱めをやめるよう繰り返し叫んだが、ヘルムートはそれを無視し徹底的に実行させた。重臣がなお耐える姿勢を貫こうとしたのでヘルムートは重臣に彼の息子を拉致するよう指示してあると言った。これは真実で別の地域に居を構えていた重臣の息子にも極秘部隊が迫っていた。これは後の話になるが息子は部隊を振り切り、ドラキア王国へ逃げ込んだ。重臣はただでさえ家族が酷い目にあっているのに自慢の優秀な息子にまで酷い目にあうことを恐れ、とうとう嘘の証言をしてしまった。つまり「セリム様は軍備を整え、皇帝ヘルムート様に挑戦するつもりでした」と力なく述べた。




拷問にあった彼らは嘘の証言をして解放されるかと思ったが重臣はその場で殺され、彼の妻と若い娘は辱めを散々に受けたあと殺された。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ