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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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魔剣

万里を超える力見せつけられたエンジであったが太白老人と竜王の使用人に連れられ屋敷のなかを歩くときも驚きの連続であった。まず屋敷は海底のそこにあるらしく外を見ると多様な魚が群れを成し尾ひれを動かし優雅に泳いでいるのがみえた。しかしエンジは海水で濡れるということはなく地上同様に息をすることができた。何らかの力が働き屋敷に水が入らないようにしているのは確かだがエンジにはそれが何なのかはわからなかった。また竜の使用人も複数存在するようで奇異の目でエンジは見られた。彼らの目を見てエンジは気づいたが竜の使用人たちの目は見下す目であった。太白老人は天界の存在であるから恭しい態度で接していた使用人たちも地上の魔物のエンジに敬意を払おうとは思わなかったらしい。思い返せばエンジの現在纏う衣服は人間の社会に溶け込むために着こんだ人間用のものであり高貴な存在には卑しいもので雑巾を身にまとうようなものだと思われても仕方ないとエンジは思わざるを得なかった。しかし別にエンジの心には怒りはなく、それよりも自身の知らない力がまだあることへの関心が強かった。



やがて屋敷のどの扉よりも一層煌びやかではあるが厳かな造りの大きな扉の前に到着したとき使用人が「竜王さまはこちらです」と言い扉を開けた。部屋は一般的な人間たちの家の敷地より広いくらいかどうかであったが中央に立つ竜王らしき男が大男であったため部屋が狭く感じられた。そして竜王とはその大男であった。東海竜王は太白老人とエンジに席と茶を勧め自身も沈むように椅子に座りこんだ。そして人間の頭など容易く飲み込めそうな大きな口を開け嬉しそうに話し出した。



「やあ太白どの。お久しぶりです。そちらの方は?」



「おひさしぶりです。こちらの方はエンジどのと言いましてな。地上で私を助けてくださった方なのですが今日はこの方に相応しい武器を譲ってもらえないかと伺いました」



「ほほう。太白どのを助けたと。太白どのには世話になっていますから喜んで何か用意致しましょう」



そう言うと東海竜王は使用人に武器庫からありったけの武器を運び並べるよう指示した。しばらくすると多くの竜の使用人たちが様々な武器を抱えながらやってきた。大量の剣や槍、斧、鎚、短剣、斧槍などがエンジたち3名の前に並べられた。エンジは武器に関して目利きではなかったがどうやら腕利きの鍛冶屋が作ったものらしい、竜王が剣や槍を手に取り、その手の武器はどこそこの某が作ったものだと夢中になって喋っているがエンジからすればそんなうんちくはどうでもよかった。手に取り直感で良いと思ったものにしようとかんがえた。



しかしエンジに合う武器は中々見つからなかった。確かにドラキアで見たものよりもずっと上等なものがそろっているのはわかったが手に取ってみると「これなら人間の国のもののほうがずっとマシだ」という気持ちがわきあがってしまうのであった。用意されたもののほとんどを手に取ってもすぐに元の場所に置いていくエンジを使用人たちは気に食わないのか彼を睨んでいた。それもそのはず、地上の魔物風情にはとてもじゃないが勿体ないとしか言えない武器ばかりが並んでいるのにエンジはどれを手に取っても満足そうな表情をしなかった。それが生意気だと竜の使用人たちには思えてならなかった。ただ太白老人と東海竜王はそのような表情をせず次々と武器を見定めていくエンジを見ていた。



やがて1つの大剣を手にした時エンジは全身に電流が走ったような感覚を得た。その大剣はその場にあったどの武器よりもずっしりとした重量があったが他の武器がどこからどうみても上等であるのに対してエンジの手に取った大剣は野蛮な印象を持たせる形状をしていた。長さは平均的な人間の背丈より少し小さいくらいであろうか、剣の切っ先は曲がっており柄には所々血糊がうっすらとついていた。じっと大剣をみるエンジに竜王が声をかけた。



「ここにある武器はそれを除き天界の腕の確かな鍛冶屋がつくりましたが、それは由来がよくわかりません。地上の魔物がつくったことは確かですがね。私の配下にも様々な武器を持たせましたがその剣だけは皆嫌がりました。見た目が薄気味悪いというのもありますが持つと「これなら枝きれのほうがいい」と皆投げ出してしまいました。その柄の血糊は造った者の血と言われています。何でも剣が勝手に動いて斬ったとか・・・何もそのような武器にせずともよろしいのでは?」



「いや、これがいい。こいつを頂こう。この剣は何という銘だ?」



「ファレインダイス・・・だったかと・・・見た目のせいか誰もが魔剣と怖がりますが・・・」



「魔剣か・・・気にいった」



「お気に召した武器を手に入れられ私も嬉しく思います。感謝いたしますぞ竜王どの」



喜ぶエンジを見て太白老人も喜び竜王に礼を言った。借りを返せた竜王も嬉しそうな表情をしていたがふと気になったのかエンジに質問をした。



「ところでエンジどのはどこかに行かれるご様子・・・どちらに行かれるので?」




「ドラキアの王都だ。わけあってそこにしばらく居ねばならなくなった」




「魔物でいらっしゃるのに人の国に行かれるとは物好きなのですなあ。私は占いが得意なのですが、もしよければ旅路を占って差し上げましょうか?」



「そうだったのか・・・じゃあよろしくたのむ」



竜王はふところから棒とへんてこな石を取り出しそれらを並べ始めた、並べ終えたかと思えば崩して並びなおしたり唸って棒をひっくり返したり、占いなどさっぱりなエンジからすれば滑稽な様子に見えて笑い出しそうになってしまいそうだが武器を貰った手前笑うわけにはいかなかった。




やがて占いの結果がでたのか竜王の手の動きが止まりエンジに「結果がでた」と伝えた。



「エンジどののこれからですが・・・困難に次ぐ困難、茨の道、艱難辛苦・・・そう申し上げるほかない結果ですね。これからとは申しましたが既に始まっていますね。最近不可解な出来事はありませんでしたか?」


そう竜王に問われエンジははっとする。心当たりはある。人間の村近くで交戦したおかしな連中のことであった。



「最近変な男たちにであった。人間ではなかったが魔物でもなかった・・・奴らは何者なんだ?」



「ふむふむ。人でもなく魔物でもないとするとその人物たちの出所は大体絞れてきますな。ですが私の口からはとても申し上げられません」



「まあいいさ。なんとなく分かった。そうだろう太白さん?」



エンジに話を振られ苦笑いするしかない太白老人だった。人間の村近くで交戦した彼らは太白老人の帰するべき場所と同じところから来たらしい。それはすなわち天界の存在。だが苦笑いするところや過去に太白老人が語った「私は文官」ということを思い出すと交戦した男たちと老人は無関係なのだろう。ただ仕える存在は同じだというだけで。







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