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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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超越者

時と場所をエンジの視点に戻す。ドラキア王国の城塞都市マッドネスから王都に向かって歩んでいたエンジ途中で賊を撃退したり泊まった村周辺に現れた人でも魔物でもない者と交戦したのち通りがかった森の魔人を斃しおかしな老人に感謝され彼の屋敷に招待された。というところまで述べた。老人の屋敷はエンジが入った森の入り口から数分もかからない場所であったがどういうわけか老人に「到着した」と教えられるまでは見えなかった。この老人もどこか様子が変わっている上この奇怪な屋敷の登場を目の当たりにしエンジは警戒を強める。仮にこの老人が実は森の魔人のような存在であるならばそのときは殺してやればいいとエンジは思った。



屋敷の門を潜り邸内を歩いていくとどこからか香の香りがした。エンジには香を焚く趣味はなかったがエルフのジルが非常に好みダーバルンはもちろん時折ダーバルンにやってくる亜人の商人に頼みドラキアやアルバインの香も揃えていた。何度か彼女の集めた香を嗅いだことはあったが、ここの香の香りはジルのもののどれよりも良いものだとエンジは思った。桃のような香りであった。また邸内には多くの男女が忙しく仕事をしていたが皆エンジには見慣れない衣装であった。ドラキアに来て日の浅いエンジではあるがドラキアの慣習、文化、地理を多少学んだ彼にもドラキア由来のものではないと分かった。ますます怪しむエンジの様子を察したのか老人は破顔しドラキアの世間話を始め場の空気を和ませようとした。



短い世間話だったが部屋に案内されたエンジは用意された席に着き部屋の中を見まわした。香もそうであったがどうにもダーバルンでもドラキアでもない意匠の屋敷であった。あらゆる可能性をエンジは頭の中で考えるが老人は目の前の自分を他所に考えに耽るエンジに困り適当な自己紹介を始めた。



「森の怪人を倒していただきありがとうございます。私は太白というもので天界にて地上を管理する者の1人でございます」


今まで警戒を続けていたエンジであったが老人の言葉を聞き驚愕の感が湧いて出た。老人の名前に驚いたのではなく「天界」の存在ということに驚いたのは言うまでもない。



「て、天界だと!?じゃあ、あんた超越者の1人なのか!?」



「超越者?ああ、地上の方は我々をそう呼びますな。そうですな、そちらの言い方に合せるならば超越者ですな」



「超越者ならばあの程度の魔人楽に葬れるのではないか?」



エンジには天界の超越者たちの知識はまるでなかった。わかっているのは地上からは決して見ることのできない天空に位置した巨大な城塞とそこに無限の天兵を抱え、地上の者には理解不可能な魔法や力を保有した存在をいくつも配下にしたがえる玉帝という者が支配者であることだけだった。そう考えていたからこそ太白老人の実力がそこらの魔物と変わりがないのがエンジには驚くべきことであった。



「エンジ殿は何か誤解されているようですな。まあ地上の方は天界について知ることはほぼ無いといってよいでしょうから想像が膨らみ、飛躍し、実際のものと離れた像が頭にあるのでしょうが・・・天界の者といっても多種多様な者がいらっしゃいます。文官のものや武官のものただ使われるだけの者・・・私は文官です。文弱の徒にはあの魔物は倒せませんなあ」



話が弾んできたころ屋敷の使用人が茶を運んできた。天界の者たちとわかって見てみるとこの使用人もどこか教養を感じさせる身のこなしをするなとエンジは感じた。出された茶を飲んでみても格別であった。これまでエンジの飲んだもののなかで最も美味いと言いたくなる味であった。エンジには酷く天界と地上の差を感じた。そう少し冷静になったところで本来の目的を思い出す。竜王のことだ。



「そうだあんたに頼みたいことがあったんだ竜王に会いたいんだが・・・」



「ほほう。あの4つの海を守護する竜王ですか。何か御用でも?」



「ああ、俺には碌な武器がなくてな・・・人間の武器は軽すぎるしすぐに壊れてしまう。かといって祖国の武器もどこか合わない。竜王なら俺にふさわしい武器を持っているのではないかと近くの村の人間が教えてくれたんだが・・・」



「なるほどなるほど。それならば私が何とかしましょう。東海竜王なら私はいくつか貸しがありますからな」



「何とかするってここから東海は物凄い遠くにあると聞いたが・・・どうするのだ」



「ご心配なく、ささこちらへどうぞ」



太白老人に連れられるままエンジは部屋を出て長い廊下を渡り一際目立って豪華な意匠の部屋に通された。部屋はあまり大きいものではなく人間が10人はいれば窮屈になってしまうくらいだろうか。窓はなく明かりは蝋燭頼りだったが人間を遥かに超えた五感のエンジには部屋の様子がよくわかる。床には人が3人ほど乗れるような円がかかれていた。魔方陣であることは少し魔法を齧ったエンジにはわかったが見覚えのあるものではなかった。



「この魔方陣を使い東海竜王に会いに行きます。なにほんの一瞬です」



その言葉を聞きエンジは何だかこの老人がとてつもなく恐ろしい人物に思えた。転移の魔法は地上にはないものであった。ダーバルンより遥かに広い人間の国を更に超えた先にある海に一瞬で行けるということがエンジには信じられなかったが老人の言われるまま魔方陣の上に立つと老人が何やら呪文のようなものを唱えはじめ一瞬周りが光に包まれたかとおもったら別の部屋にいた。先ほどの薄暗い部屋ではなく明るい部屋であった。壁は赤く塗られ近くの使用人も老人の屋敷にいた者ではなく頭部が竜で立派な髭を生やし珍しいものを見る目でエンジを見ていた。使用人は太白老人に話しかけた。



「これはこれは太白老人。東海竜宮にようこそいらっしゃいました。そちらの方は?」



「彼は私の恩人でしてな。ちょいとばかり竜王に頼み事があってまいりました」



「畏まりましたご案内いたします」



一瞬で万里を超える力を目の当たりにしたエンジは何とも信じられない気持ちであったが、同時に過去に人間と魔物の争いを仲介し戦争を終わらせることができたことに納得もいった。彼は老人と使用人のあとを追い、これから何が見ることができるのか期待で胸を膨らませた。

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