悪巧み
アンデッドの中でも最高位の力を持つノーライフキングのフィアニクスはダーバルンでは公爵の位を王から授けられている。ここで触れなくてはならないのはダーバルンの有爵者のことである。ダーバルンにおいて公爵の位を持つのは3名、そのうちの2名はミノタウロス族のリベガー、種族の長というわけではないがアンデッドを従わせるノーライフキングのフィアニクス、残る1名はナーガ族の頭ハインツという者である。ハインツの家系もリベガー同様ナーガ族の中においてダーバルン建国時より国に尽くしてきた忠臣の家の出であり公爵の位を世襲した存在であった。ただリベガーと異なるのはリベガーが周囲の同族を力でねじ伏せて恨みを買っているということと対照的に圧倒的な力を持ちつつも周囲の者や身分の低い者に対しても傲岸な態度をとらず常に配慮を心がける謙虚さを持ち人徳があることだった。とにかくフィアニクス、リベガー、ハインツの3名がダーバルンの3名の公爵であり大臣の職務にあたっている。ちなみに公爵の位はリベガーまたはハインツの後継者が族長となれなかった場合ほかのミノタウロス族、ナーガ族の家系がつくものとし他の種族が公爵の位につくことはない。この2つの種族が建国に多大な貢献をしたから配慮したというのが実際のところである。当然であるがフィアニクスには寿命がないので彼が消滅するまで彼が公爵のままである。またこの3名のほかに9卿という存在もいる。彼らも爵位を持つ者だが位は人それぞれであり、公爵の位同様他の種族に位が移ることはなく同族内での移動のみである。この9卿には悪魔やエルフなどの種族がついているが彼らも大臣として王を補佐する。また官僚についてだがこちらは定期的に試験を行い合格した者が行政の実行者として王や有爵者たち大臣の政治決定を受け動くことになる。地方の役人についても同様である。
話を元に戻す。アーニマスは異臭がするフィアニクスの住処に足を運んだわけだがどうしても話し合いたいことがあってのことだ。でなければ埃や蜘蛛の巣まみれの墳墓には来ない。フィアニクス本人はアンデッドのため衛生観念というものが思考から欠落しているのか部屋が汚れていても気にしていない様子である。そもそも彼自身が汚かったが。アーニマスはフィアニクスに向かって現在のダーバルンを取り巻く人間の国の脅威と採るべき行動について自身の考えを述べに述べた。ざっと2時間ほど語り続けたがその2時間の間フィアニクスは一度も口を挟むことなくアーニマスの言葉に耳を傾けた。
この2時間でアーニマスが語ったことは、人間と魔物の関係性についての歴史、人間という種族の持つ愚かさと凶暴性、推定される驚異の度合いだったが特に時間を割いたのは歴史についてであった。確認ができる範囲では人間と魔物の関わりは8千年ほど昔でアーニマスは8千年に起きた出来事1つ1つを人間の視点、魔物の視点から述べた。そして最後に「よって人間は滅ぼすべきである」とまとめた。その言葉がフィアニクスの耳(そんなものは外から確認できないが)に入ったとき初めて彼は口を開いた。
「だが、人間をこの地上から亡き者にするには何もかもダーバルンには足りない」
「まず人手だ。ダーバルンに住む魔物は30万といったところ。そのうち戦士としての訓練を受けているのは10分の1の3万だ。そのほかは生産者だ。儂の持つアンデッドたちはこの30万には入ってはいないがそれでもまだ足りない。人間の国はダーバルンよりも遥かに広い。近場の4つの国だけでもダーバルンの数百倍の国土を持つだろう。肥沃な大地が種族を栄えさせる。ダーバルンの土地が広くはない以上それだけ多くの魔物を抱えるのは難しくなる。途方にくれるほど広い人の国をどう制圧するのか」
フィアニクスの問いにアーニマスは待っていましたと言わんばかりの表情を見せ答える。
「確かに人手は足りません。ですが人手ならダーバルン外にもいるではありませんか」
「ああ・・・確かに南に位置する国の周辺にはダーバルンに属さない魔物たちが集落をつくっているが人間たちと友好的な関係を築いているらしいな」
「ドラキアやジラウといった国々の領内にも魔物はいます。彼らの心を掴み配下とするところから始めることになりますが彼らを戦士とするならば随分と楽になるというものです」
平和なダーバルンとは違いダーバルン外の魔物たちは常に彼らを脅かす存在と戦っていた。人間であれば報奨金目当てのハンターたちや治安維持のため出動する軍団、時には魔物同士で争うこともあった。そういうダーバルン内に住む平和を当然とものと享受してきたダーバルンの民よりは彼らを戦士という立場に置きやすかった。ただダーバルン外の魔物たちをまず王に傅くように心服させる必要があるが策謀大好きなアーニマスからすれば領内の民よりも彼らのほうが扱いやすいと考えた。いくらでも恩を感じさせる手段が彼の脳裏には浮かんでいた。
一方フィアニクスは人を滅ぼす手段を考えていた。限りのある戦士をどのように動員すれば人間たちを絶望のなかで息絶えさせることができるのかアンデッドらしく人が見聞きすれば青ざめる考えを巡らせていた。
両者はこのあと、人間の国侵略に向けての段取りと遂行するための要因を弾きだしながらそれぞれをクリアするための悪だくみを始めた。
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