公爵の狂気
資源豊かなラノークの管理者ショーシャを抱き込むことは王政にとってやりやすくなった。弟を反逆者にしたてあげ、その首を王政がショーシャに渡したことは両者の友好関係構築のきっかけになったと既に述べたがショーシャ自身は今回の騒動について懐疑的な態度をとっていたという報告もあった。とはいえショーシャは弟イーリイとは別に仲が良いわけではなかったし王政と仲良くなれたのでそれで良いと考えたのか友好の証として王政にラノークの鉱山で採れた貴金属を用いて制作した初代ダーバルン王の像を献上した。
初代ダーバルンの王は人間と魔物のハーフであった。ダーバルンがこの男によって建国されたのはダインブル王国が生まれる遥か昔のことであった。そのころは現在のドラキア王国とアルバイン帝国の国境あたりに人間による古代国家が存在しており、そのころ魔物たちの数今よりもずっと少なかった。
その古代国家も魔物の存在を危惧し様々なところで魔物の掃討を行っていたが魔物が争うのは人間だけではなく魔物同士の争いも耐えなかった。終わりが見えない闘争でありもはや魔物同士が結託し人間たちに立ち向かうなどということは夢のまた夢のような話であった。魔物たちが共闘しても、人間たちとの戦いに疲れ果てたところを狙われるようなことも実際にあったからだ。
そうして古代国家による魔物掃討により人間は永久に魔物の脅威に脅かされることはなくなると、魔物はとうとう根絶やしにされると誰もが予想していたときに現れたのが初代王であった。彼は瞬く間に様々な種族からなる魔物の軍勢を率い現れ古代国家の重要拠点、砦、城塞を陥落させていった。初代王の活躍はまだ魔物軍に参加していなかった、魔物同士の争いを続けてきた魔物の目を覚まさせ、初代王の元に次々と配下に加えてほしいと願う者が現れた。
ますます勢いが増した初代王率いる魔物の軍勢は古代国家を混乱と恐怖に陥れた。様々な都市で火の手が上がり古代国家の内部にも魔物に加担すべく挙兵した人間もいた。魔物を嬲ることは知っていても嬲られることをしらない人間たちはこうなると脆かった。士気は下がり戦意は兵士たちにはなく迫る魔物に浮足立ち次々と逃げ出した。そうしてその古代国家はそのまま初代王に滅ぼされ彼は古代国家の遥か南に魔物の国を創ることを宣言し部下の魔物と人間たちから奪った物資をありったけ持ち南下していった。
初代王は魔物を滅亡の危機から救ったこと魔物をまとめあげたことから絶大な支持を得て国を治めたが人間の血が混ざっているからか人間よりも長く生きることはできても魔物のように長生きすることはできなかった。初代王が魔物たちをまとめることができたのは文句のつけようがない彼の強さと勇気が理由であった。このことから2代目からは国中の魔物のなかで最も精強な者を王とすることとした。
話は逸れるが初代王を補佐した人物は主に2人いる。政治の面ではとある悪魔が。軍事の面ではとあるミノタウロスが補佐した。初代王政権で軍事を司ったミノタウロスの家系は現在でも続いており、その嫡流にリベガー公爵がいる。またミノタウロスという種族のなかで長を務めるのは建国以来リベガーの家系である。この家系に不思議な血が流れているのかこれまでリベガーの家系以外の他のミノタウロスたちは彼らに敵わなかった。初代王を補佐したリベガーの先祖のミノタウロスは強さへの憧れが強かった。その意思が血に流れているのか、歴代当主は強さへの渇望がすさまじかった。無論リベガーもである。強くなるためであればどんなことでもする。例え死ぬような思いをしても、今より僅かでも強くなれるのであれば全てをなげうってでもという狂気的ともいえる執念がリベガーにはあった。
既にふれたことだがリベガーはかつて王になったサキュラに負けたことがある。あの敗北は彼の狂気を一層強くした。だがサキュラはそんなことを知らない。ラミアのスタンツはリベガー公爵の謀反の証拠を掴むべく眷属の蛇を彼の屋敷に派遣しているが決定的な証拠を掴めずにいた。
報告に挙がることは大量の武具が運び込まれるということくらいであった。スタンツは思い悩まされた。証拠はないが誰がどう見ても怪しいリベガーを白黒はっきりさせるにはどうすればよいのか。もういっそのこと暗殺してしまえば良いのだがそれは後々混乱を招く可能性があるし、そもそも屋敷にこもっているリベガーを暗殺するには不可視にならねばならないがリベガーには戦士としての勘が備わっているだろうから見破られるだろう。かといって正面から戦争を仕掛けるのは王は望まない。やはり悪魔のアーニマスに相談することにした。
幸いラノークの件を解決に導き暇を持て余していたらしくスタンツの相談にのってくれた。悪だくみの大好きなアーニマスはスタンツから提供された情報とあらかじめ把握している情報を読み込み何か思いついたのか楽しそうな表情をしていた。顔には出すが口には何も出さないアーニマスにスタンツは早く教えるように急かす。
「なあなあ、楽しそうなところ悪いんだけどさ。そろそろ教えておくれよ」
スタンツの存在を忘れていたのかのような表情をしてからアーニマスは笑いながら答える。
「君の報告にあったリベガーの強さへの狂気的な渇望を利用するのさ」
そう答えるとアーニマスはスタンツに自身の策の詳細を伝え始めた。




