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鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
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上昇志向と転落

アーニマスが近衛を王都の至る所に配置してから5日経過したころであった。イーリイはまるで乞食のような姿で王都に到着した。暗殺者の存在を警戒するイーリイは一刻も早く保護してもらいたかった。そんなことを考えながらふらつきながら歩いていると近衛兵がイーリイに声をかけてきた。心細い思いをしながら逃亡を続けてきた彼にはこの近衛兵が輝いて見えたに違いない。とにかく助けてもらいたかったイーリイは目の前の救世主に保護を訴えた。



「もしもし、警戒なさらないでください。私は王を守護する近衛の1人です。もしかしてイーリイさんですか?」



「ああ!そうだ!俺を助けてくれ!」



「ご安心をアーニマス様が貴方様の到着を予期なさっていたので護衛の用意もできております。ただ人目を引くことは慎みたいので囚人用の馬車に乗って頂き宮殿まで責任を持って送ります」



「ああ!囚人用でもなんでも構わないさ!助かった!」



近衛兵に連れられまずイーリイが向かったのは屯所であった。連日の逃亡生活によりイーリイの身なりは酷いもので風呂にも入っていないため甚だしい異臭を放っていた。その状態で宮殿には連れていけないので新しく衣服を用意しシャワーを浴びさせ食事を用意してやった。


「生き返った!そんな気分だ!」



宮殿に向かう用意が整ったあとイーリイは屯所に停められている囚人用の馬車に乗りこんだ。



すっかり元のイーリイに戻り心地よさそうにしていたが不安が取り除かれ腹が満たされ不快感もなくなったからか急激に眠気が彼を襲い、馬車の中でぐっすりと眠ってしまった。



次に彼が目を覚ましたときには宮殿付近の街並みが目に入った。目を覚ましたイーリイに近衛兵が馬車から降りる準備を促した。



イーリイは地方の生まれ育ちなので王都に来たことはなかったが先ほどは生命の危機を感じていたため栄える王都の街並みの美しさを観賞する余裕がなかったが睡眠をとった今では改めて王都が如何に地方の都市なんぞより価値のある場所かを知った。同時に逃亡中に湧き上がってきた新たな野望である王になることを思い出し、この素晴らしい街並みと宮殿を掌握したいという気持ちが膨れ上がった。



イーリイの異常な上昇志向がこれから謁見する王に対しなるべく自身がより有利な立場になれるよう上手く交渉するべきだと彼に訴えかけていた。いずれ自身が王になるには力がなくてはならない。しかし「だが俺ならできる」という気持ちが湧き上がって止まらない。上昇志向と王都を初めて見た興奮が彼に全能感を与えていた。




だがたった1つ気になるものをイーリイの目は捉えていた。処刑台と大きな刃を持ったギロチンであった。その周りには人だかりができており誰が処刑されているのか馬車からはわからないが付近の建物の窓から処刑台のほうを眺めている人もいた。




宮殿に着き近衛兵に案内されイーリイは王宮の門を潜った。庭には様々な色鮮やかな花が植えられ、王宮は荘厳ではあるがイーリイに掌握したくて堪らない気持ちをふつふつと煮え返させた。この建造物は権力の中心地であるから権力への渇望が凄まじいイーリイの心臓は隣にいる近衛兵にも聞こえてしまうのではないかと思うほど激しく音を立てながら稼働した。



いざ宮殿に入るとラノークの建造物には決してないような、高価そうな芸術品があちこちに飾られていたし天井には魔物とイーリイは見たことはないが人間という種族の男が白いローブに身を包んだ人物に平服している絵が描かれていた。床もラノークのものとは違いイーリイの顔を写すほど磨き上げられ鏡のようであった。これらはイーリイの上昇志向をつよく刺激した。



先導する近衛兵に連れられ地下に通された。これから王やサキュラ88将に会うと考えていたイーリイは不思議に思った。「この国の王は暗い地下に住んでいるのか」と。




しかし王宮の地下も素晴らしい造りであり、その感嘆を誘う景観がイーリイに警戒心を起こさせなかった。



近衛兵に案内され、扉を開けられたイーリイは中に入ったが部屋の中はがらんとし殺風景としか言えなかった。まるでこの部屋だけ王宮から切り離された別世界のような居心地がイーリイには感じられた。そしてその居心地が違和感を生み、次に警戒心を生んだが気づいた時には全てが遅かった。



屈強な近衛兵がイーリイを組み伏せ縄で縛り上げたのである。イーリイは訳も分からず無我夢中で腕や脚を無造作に激しく動かし抵抗したが逃れることは叶わなかった。縛り上げられ恐怖を感じたイーリイは近衛兵にむかって叫んだ。



「お、おい!これはどういうことだ!説明しろ!」



必死に声を絞り出し叫ぶイーリイであったがある人物が部屋に入ってきたことにより叫ぶのを辞めその男を見つめた。近衛兵が佇まいを直すことからよほどの人物が入ってきたのかと考えたからであった。



その男は細身の長身であった。頭には角が生えていたことから王のサキュラかとイーリイは考えたが鬼にしては少し弱弱しい気がした。そして思案に耽るイーリイを気にも留めず男は自己紹介を始めた。



「はじめまして私サキュラ王配下のアーニマスと申し上げます。以後お見知りおきを・・・と言ってももう貴方には覚える必要のないことですが」



イーリイは目の前の男が88将のアーニマスであることを知ったがそんなことよりもアーニマスの言葉が怖かった。その「必要のない」ということの意味を心のどこかでは察していたが本能が理解することを拒否していた。アーニマスに否定してほしくてイーリイは叫ぶ。



「ど、どういうことなんだ!それは!」



「ここに来る途中、処刑台と大勢の野次馬を見たでしょう?あのギロチンは貴方の首を落とすためのものです」



アーニマスは愉快そうに手をギロチンに見立て首を叩き首を落とす仕草をしたが彼に対しイーリイは真っ青になってしまった。





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