表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼のエンジ  作者: 白紙 真白郎
10/36

思想と男

とある男が王都にある自身の屋敷の一室椅子に深く腰掛けで庭の景色を眺めている。彼の表情はとても晴れたものではなく憂鬱そうな雰囲気であった。彼は貴族で名をグラント=ワインバーグといった。祖先はダインブル王国があった時代の地方領主でダーバルンとの戦争終結後は初めダインブル王家に味方したがやがて国を簒奪した地方領主つまり今の王家に内通した。今のドラキア王国の建国に貢献した一族の子孫としての誇りは彼にはある。その尊崇する王国が存続するか滅ぶかという事態がまだ民衆は知らないが一部の階級の人間は危惧している。


それが例の思想「魔物を駆逐する」というものである。魔物駆逐主義とでも言おうか。ともかくこの思想が王国の首都から急激に全土に広がっていると見られている。特に貴族の抱える兵士を中心に。その思想の中心にいる人物がカーリン=マルシュナーという貴族の男である。この男が時折町に出向き長々と人類と魔物の関係の凄惨な歴史と自身の主張とを結び付け、それを聞いている民衆1人1人に訴えかけている。あまりにも長い時間演説をするため彼の思想に魅了され聞き入った民の何人かが体調不良を起こし倒れてしまったことがある。彼の言葉が人間が気づかない無意識の中の根本的な何かを目覚めさせるのか暴走させるのかわからないが彼の思想が人々を興奮させ熱狂的支持者に変えてしまうのは確かであった。


この思想が流布されはじめて5年ほど経ったが年々支持者は増え、戦闘の経験もない民が武器と防具を買い漁り魔物の住む谷や森に足を踏み入れ退治しようとすることが何件もあった。そういう民はケガをして帰ってくるか死体になり見つかるか生きてるのか死んでいるのかわからない運命を辿った。だがマルシュナーはそれを自身の演説の種とし魔物の危険性、人類という種の存続が脅かされることを訴えた。最近では「人間は選ばれた種族であり大地の支配を神から委ねられている。神聖な大地を汚す魔物を殺せ」と言い始めた。王国内の魔物を狩ろうとするうちはまだいいだろうがワインバーグが恐れているのはその先だった。王国内の魔物を殲滅した熱狂的支持者は次はどこを目的とするかということだ。高い確率でダーバルンを狙えと言い出すだろう。どこかの狂信者が複数人でダーバルンに強襲でもかけたらきっとこの世の終わりという気持ちに狩られるに違いない。


だが彼ら駆逐主義者たちを止めることは国王でも難しいことだとワインバーグは予想している。この熱狂的支持者の行動がダーバルンを刺激しないかとかつて危惧し規制を主張した貴族がいたが、彼の部下は見せしめに殺され体の一部が屋敷に投げ込まれたという。しかしその男は脅しに屈せず規制を求め続けたため外出先からの帰りに支持者に襲われ殺されてしまった。死体は王都内にある神殿前に遺棄され死体に「魔物の手先」や「人類の敵」と書かれていた。


この事件のあとも規制するべきという考えをもった人物は次から次へと暗殺にあい、とうとう誰も規制をしなくなってしまった。本来であれば「人民を惑わした罪」とか他に適当な罪を捏造しカーリン=マルシュナーを逮捕し処刑するところだ。ダーバルンと戦争をすることは滅亡を意味する。だがそんな先の未来のことよりこの国は目先の問題に囚われていた。


それは近々ジラウ連邦との戦争が起きるということであった。元々王国と連邦の間柄は険悪でありこれまで何度も戦争してきたがそのたびに王国の誇る魔法研究の結果である魔法部隊と彼らの支援を受けた兵士たちが退けてきた。実際王国兵の勇猛果敢さは帝国や連邦に知れ渡っている。ともかく連邦が王国との国境付近の活動を活発化させているという状態が1年ほど続いているため今王国の戦力を削ぐようなことはしたくはなかった。また内乱の可能性もあったからだ。


更に王政はこのジラウ連邦との戦いで彼らを圧倒し首都まで攻め入り降伏させ多額の賠償金を支払わせることができればかの思想を持つ連中の留飲を下げることができると考えていた。宗教や思想に傾倒する理由は何か不満や不安があるからと考えたからだった。


ジラウ連邦との戦いに勝つことが条件の1つだがこれまで王国は連邦に負けたことはないし攻め入ってきた連邦兵士を打ち負かしてきた自信があった。





エンジがマッドネスを出てから3週間ほど経ったがまだ魔法の習得には至らなかった。彼がまず習得を目指したのは神秘魔法であった。腕力や脚力を強化する魔法や魔法攻撃のダメージを軽減するために魔法への抵抗力を上げる魔法がある。



山や森を歩いてるとき山賊や魔物に出会うこともあったが全て返り討ちにしてきた。そんなエンジは今小さな村に泊めてもらい休息をとっていた。一宿一飯の恩義として村の土木作業や農作業の手伝いをしたその日の日が暮れるころだった。村の男が急いで村長の家に駆け込んでいくところをエンジは見ていたが魔物が来ようと山賊が来ようと平気である自身があったので何とも思わなかった。やがてエンジの泊まる建物に村長がやってきた。


「エンジさん力を貸してほしい」


「何があったんだ?」


「村の外に変な男たちがいると連絡があったんだが・・・」


「山賊か?」


「いや、どうも山賊ではないらしい。見た目はどこかの貴族のように立派な衣服を身に着けているとのことだが・・・彼らを見た男は『人間らしい姿だったがとても人間とは思えなかった』と言っていた・・・」


「まあいいだろう。どうせ手品の得意な魔物だろう。俺の敵じゃない」


エンジは建物を飛び出すと村の外へと向かっていった。しばらく歩くと確かに変な男たちが横一列に並んで立っていた。なるほど確かに人間のようで人間の雰囲気ではなかった。衣服も山賊が着るようなものではなく人間の貴族が身に着けそうなものだしエンジには何だかよくわからない装飾品らしきネックレスや腕輪、髪飾りをつけていた。しばらくエンジは男たちとにらみ合いが続いたが男たちの1人がやがて進み出てエンジに尋ねた。


「お前がダーバルンのエンジか?」


「そうだが・・・お前たちは何者だ?」


「知る必要は・・・ない。お前はここで死ぬのだからな」


男がそう言いきると他の男たちはどこに隠し持っていたのか剣や槍を取り出し突進してきた。男たちの言葉や雰囲気からエンジは彼らが人間でも魔物でもない。また別の存在であることを悟ったが一体どこの誰なのかということまではわからず応戦するため剣を抜いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ