新しい友達。2
「おう、じゃあ葵、よろしく頼んだ!」
咲綾は親指を立てて『ぐっ!』みたいな感じで合図をしてくるが、正直『ぐっ!』って状況じゃない。帰る途中でもしゾンビがいたらどうするんだよ。でも黒髪が言ってたように攻撃力がそんなにないっていうのは当たってるし、そんなに足が速いわけじゃなかったから学校より家が安全っていうのも分かる。
「自己紹介がまだだったわね。私は3年の佐倉由美。」
黒髪が言う。凄い背高いし、大人っぽいし。凄い頼り甲斐がある感じ。
「わ、私は、和泉小夜です。い、1年です。」
白髪少女が言う。
1年ね。どおりで知らないわけだ。
「あたしは1年の一ノ瀬咲綾だよ。よろしく。」
「私は時雨葵。2年です。」
「あ、あの咲綾さん。それって…。」
小夜が咲綾の持っている竹刀を指差して聞く。
「あ、これ? 竹刀。」
いや、知ってるよ。
「あたし剣道部だからさ。あいつらこれで倒せるんじゃないかなって。」
咲綾は素振り(?)をしながら答える。
「でも本当に倒せるとは思ってなかったよ。まあ当たったら痛いけど死ぬ程じゃないしね。結構便利だからみんなも明日持ってきたらいいと思うよ。」
「明日も学校来るの!?」
「えぇ。そうしたほうがいいんじゃないかしら。」
さっき先輩が家にいた方がいいっていったのに…。
さっき言ってた武器ってエアガンでもいいのかな。
「早く帰らないとおうちの人が心配するわ。生存確認くらいはしたほうがいいしね。 …それに、その、もしかしたら明日学校に来たらみんな生きてたとか、あるかもしれないじゃない。」
先輩は先輩は笑顔のような悲しんでいるような顔で窓の外を見ながら言う。目の前で起きていることを否定するように。
窓の外にはさっき私が写真に撮った陸上部の人達が力が抜けたようにゆっくり歩いている。こんなことになっているのに外に出て大丈夫なのだろうか。
「そうですね。」
「えぇ。帰りましょう。じゃあ、また明日。」
「じゃーなー」
「さ、さようならっ!」
「バイバイ」
みんな自分の下駄箱に上履きを入れ、自分の靴を履く。昇降口にはゾンビはいない。咲綾と由美先輩が下校する方向には幸いなことにゾンビはいない。
小夜は「んしょ。んしょ。」と靴を履いている。
「小夜ちゃんは自転車?」
「い、いえ。家は近いので歩いて帰ってます。」
「そっかあ。じゃあ私、自転車置いて帰ろうかな。」
守らなきゃ。 口の中で呟く。 小夜ちゃんは靴を履き終わったようで、「よいしょ」と言って立ち上がる。
「音を立てないで付いてきて。」
私は小夜ちゃんの耳元で囁いて、手を掴む。
あいつらの歩き方とか、人を襲う所は私の知ってるゾンビにそっくり。でも1つだけおかしい所があった。夕の首の傷口から出ていた『光』だ。夕だけしかみてないから他のゾンビもみんなそうとは限らないけど。
「うん。大丈夫。陸上部の奴らにバレないようにゆっくり歩こ。」
周りを確認してから昇降口を出る。
小夜ちゃんはコクッと頷く。
音を立てないようにゆっくり歩く。近くにゾンビはいないし、陸上部のゾンビからは見えないはずなのに、どんどん近づいてくる。
「葵さん!来てます!」
「うん。」
見えてるはずがない。ってことは、聴覚か嗅覚が優れてるってことだよね。でも、いくらなんでも遠すぎる。どう見ても50mは離れているはず。でも他の可能性って…ないよね。
「走るよ!」
「は、はい!」
走るしかない。このまま歩いてたら、行く手を塞がれるかもしれない。そうしたらかなり危険だ。全速力で走る。汗が止まらないし、呼吸も整わないし、足もうまく動かない。でも、今は、頑張らなきゃ。