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マリアは転生者を皆殺しにしたい  作者: 魚竜の人
第2章 断罪編
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第64話「蒼穹の語らい」

 リリーナの心の中に渦巻く暗雲を払いのけるかのような蒼穹が広がっていた。

 エスペランス邸宅の外で風になびく旗の下、彼女はフランを待っていた。当主であるトレラント・エスペランスが去り際に言った「王都を案内しなさい」という言葉を守り、フランが彼女を連れ出すことになったためである。

 「準備する」と言ったきり姿を現さないフランにため息を吐き出し、空を見つめていたリリーナに背後から自分を呼ぶ声がした。

 振り返った彼女の瞳に映るのは見知らぬ少女。長い金髪を左右に束ね、皮鎧を中心とした軽装に腰には対となる双剣を携えた冒険者といった風貌だ。

 リリーナは、見覚えのない少女に怪訝な表情を浮かべ小首を傾げてみせる。


「……誰?」


「はぁ!? 私だよ! フ・ラ・ン!」




 王立図書館。魔法書店。魔法道具店。冒険者に仕事を斡旋する商業ギルド。女性に人気のお菓子屋。

 フランとリリーナが主に回った場所である。特にリリーナが興味を持ったのは王立図書館だ。実に本を愛する彼女らしい。

 フランが熱心に来店を勧めたお菓子屋は三角屋根の綺麗な建物だった。貴族などが愛用する店でフランはよく顔を出していた。

 そこで彼女おすすめの小さなフルーツの乗ったタルトを買い、噴水のある広場で木の長椅子に座ってタルトを頬張りながら雑談に花を咲かせる。

 

「どうしてフランはメルカトールにいたの?」


「武術大会を見学に。あわよくば出場しようかなぁって思ってたけどお父様に反対されてるんだよね」


 彼女の言葉にリリーナは苦笑する。

 当然だ。五大貴族のしかも次期当主筆頭であるエスペランス家長女が街の荒くれ共に混ざり、過激な武術大会に参加するなど当主が許すわけがない。もっともフランならば片っ端から殴り倒し優勝するかもしれない。


「その双剣は?」


「これはね。我が家に代々伝わる双剣で精霊の竜牙エレメンタル・ドラゴンファングって言うの。<双剣聖>の名を継ぐ者のみに受け継がれる」


「双剣聖……か。フランはその資格があるの?」


「一応、素質あるみたい。まだ修行中だけどね。お父様には素質がなかったみたいで祖父もなかった。二世代飛んで私に白羽の矢が立ったって感じかな」


「先代の双剣聖ってどんな人だったの?」


残虐の女王(グラオザム・レジーナ)


 その言葉にリリーナの背筋に一瞬、緊張が走る。冷徹な通り名から双剣を持つ血濡れの女性をイメージしたからだ。


「その名の通り、戦闘ともなればまるで動く人形のように一切の感情を持たず、すべて斬り伏せたって。歴代最強の双剣聖なんだよ。それにね。私に容姿がすごい似てるんだって。もしかしたら彼女の生まれ変わりなんじゃないかって言われてたそうだよ」


「……フランも同じように冷徹な双剣聖になりたいの?」


 リリーナは知っていた。目的を遂行するには冷酷に徹することも必要だと。自らが生きねばならない時、相手を殺すこともあり得ると。綺麗事だけでは生きていけない。ここはそういう世界だと。

 サファイアの瞳が見つめる先でフランは、蒼穹を眺めながらどこか決意に満ちた表情を浮かべていた。


「私も彼女のように強くなりたい。それこそ歴代最強と謳われるくらいに。でもね。それは誰かを守るために必要なんだと思ってる。家族、友人、領地の民。彼らを守るためなら例え第二の残虐の女王になっても構わない。おそらくかつての当主レジーナ・エスペランスも同じ気持ちだったんじゃないかな」


「……それは正しいと思う。そして私はそういう君だからこそ次期当主に選ばれているんだと思うよ。もうこの国の女王になっていいんじゃないかな」


 リリーナの言葉にフランは「ふふふっ」と微笑むと、エメラルドの瞳を彼女に向けた。


「無理だね! なんたってアフトクラトラスの国王は<不死の王>だから」


「<不死の王>?」


 聞き慣れぬ言葉にリリーナが小首を傾げる。


「そう。現国王ヴェルデ・シュトルツは<不死の王>なんだよ。何でも彼が手にする聖剣の加護により永遠の命を得ているとかなんとか。本当かどうかわからないけど、少なくとも国王に即位してから百五十年は同じヴェルデ・シュトルツから変わっていない」


「……それ。おかしいね」


「おかしいって?」


「例え聖剣といえど所詮、魔法武器(マジックウェポン)でしょ? そんな加護が付与されるとは到底、思えない」


 リリーナは怪訝な表情を浮かべるフランから視線を逸らし、澄み切った蒼穹を見つめた。

 彼女の脳裏には、ここにたどり着くまでに各地を旅した時の映像が過っていた。


「私はね。ここにくるまでいろんな場所を回ってきた。あらゆる魔法を見てきた。それでわかったの。この世界に蘇生魔法はない(・・・・・・・)。何でかわかる? フラン?」


「無理無理無理。わかるわけない」


誰かが決めている(・・・・・・・・)んだよ。この世界で死者が生者になってはいけないって。死んだらそれで全て終わりなんだ。この世界は。不死になれるのは人を捨てたものだけ(・・・・・・・・・)だよ」


 リリーナはそこで口を閉じた。

 実は彼女は知っていた。不死になれるのは人を捨てた存在。それは確かだ。しかし人の身でありながら不死になることは可能(・・・・・・・・・・)なのである。

 膨大な命の礎の上にのみ成り立つ不死の体。だがそれは禁忌であり正常な人間が成せる業ではない。魂吸収ソウルトランスレイションなど本来、あってはならないことなのだ。


「……死者は生者になれない……か。ねぇリリーナ。死神の少女の話。知ってる?」


「死神の少女?」


「体を再生させ不死と言われた大鎌を振るう少女。かつてヴェルデ・シュトルツが起こした国内紛争で最も活躍した人だって。そして彼女が率いていた騎士団が紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッター


紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッター……か。その騎士団とその少女はどうしたの?」


「全滅したって。本当のところはわからないけどね。もう百五十年前の話だし当時を知る人なんてみんな死んじゃったし」


「そう……」


 死神の少女。紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッター。リリーナの脳裏に何故かその言葉がいつまでもこびりついていた。

 かつて存在したという死を超越した者。そして不死の王ヴェルデ・シュトルツ。安全な王都や街の外では常に死が溢れている。それを吸収するかのように不死を得た者が支配する国について、リリーナは知識が足りなすぎる。

 もっと知らねばならない。この国のことを。そして七賢者のことを。


 そしてそれから数日後、エスペランス家が震撼する事実がもたらされた。

 それは現当主トレラント・エスペランスが殺害されたという報である。

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