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マリアは転生者を皆殺しにしたい  作者: 魚竜の人
第1章 転生者編
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第29話「虐殺という名の饗宴」

 王国騎士団の大騎士(カヴァリエーレ)であるレイザックは、白い兜に覆われたその顔に不敵な笑みを浮かべていた。

 敵である王都解放軍、その中でも危険視されている「紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッター」の総数はおおよそ千五百。こちらは五千の兵だ。


 圧倒的な数による暴力。そこには小細工など一切必要ない。相手の戦略など兵力で押し潰してしまえばいい。大袈裟に言えば象が小動物を踏みつぶしていくようなものだ。さらに王国騎士団は三方向から包囲陣を敷こうとしている。鼠一匹とて逃げられない。

 そんな美味しい役に抜擢されたレイザックは、死神マリアを殺した功績を想像し笑いが止まらないことだろう。


 今回の作戦の要であるミゼリコルド駐屯地の大騎士アヴァメントは、ゼーレ・ヴァンデルングにより買収されていた。

 彼が用意したミゼリコルドの印が記された書面は偽造である。アヴァメントは金に目がくらみ自らの君主「ソキウス・ミゼリコルド」の意思を捏造し、マリア達を罠へ誘い込んだ。

 在中しているミゼリコルドの騎士達も全てが買収済みである。この日はミゼリコルド当主とエスペランス当主の会合が開かれており、主君に忠実な騎士はこの駐屯地を後にしていた。

 王都解放軍の動きだけでなく、ミゼリコルドとエスペランスの動向さえ視野にいれたゼーレ・ヴァンデルングによる悪辣なトラップだ。


 もはや勝利を確信しているかのように上機嫌なレイザックの横で、馬に乗るのは(のぞみ) 結愛(ゆうな)だ。

 そのすぐ後ろを赤毛のポニーテールを揺らし情島(じょうしま) 朱莉(あかり)が追従している。レイザックとは対照的に二人の美しい顔には陰りが見えていた。


 相手は死神マリアだ。その武力は鏡、結愛、朱莉の三人がかりでも打ち負けず、砦を内部から崩壊させ、高枝の策略さえ彼女の前に敗れ去った。

 彼女達の想像がつかない方法でその刃を首筋に突き立てるのではないか。そんな暗雲のような不安が二人を包み込んでいるのが表情から見て取れた。


 何の障害もなく進攻し、ミゼリコルド駐屯地の白い外壁が見え始めた頃、レイザックは耳を疑った。

 そろそろ先陣が「紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッター」に接触し、その槍の矛先で憎き死神の喉笛を貫いているだろう。そんな予想を覆し、先陣より駆け付けた兵士が語った一言は「敵性勢力なし」だった。


「……いないだと(・・・・・)?」


「はい。先陣はミゼリコルド駐屯地前に到着。しかし敵性勢力は存在しません。もぬけの殻です」


「馬鹿言うな! 三方向から包囲しているんだぞ!? どこに隠れる場所がある? よく探せ!」


 苛立つかのように声を荒げるレイザックに頭を下げ、兵は馬を走らせ視界から消えていく。

 その背中を見つめる朱莉の背筋に、まるで死神の鎌を首筋に当てられているかのような恐怖が駆けあがる。一瞬、体を震わせ彼女は目を見開きレイザックに詰め寄った。


「他の隊は? 他の隊はどうなった(・・・・・・・・・)?」


「何を慌てておる? 連絡用の早馬は出しておる。なぁに。遭遇しないのは予想外だが包囲していることには変わりない。どのみち袋の鼠だ」


「そんなこと聞いてんじゃないよ! 他の隊の生存は確認できているのかって聞いてんだよ!」


「生きておるに決まっているだろう? まったくいくら勇者様とはいえある程度、言葉は選んでいただきたい。……おい。早馬からの連絡はまだか?」


 不機嫌そうに眉根を寄せ、レイザックは近くにいる騎士へ問いかける。その騎士は怪訝な表情を浮かべながら首を横に振った。


「……戻ってこない?」


 その瞬間、馬を接触させるほど近づき、胸倉を掴む勢いで朱莉がレイザックへ詰め寄る。その表情には緊張感とそれを覆い尽くすほどの狼狽が見て取れた。


「今すぐ兵を集結させろ! じゃないと手遅れになるぞ!」




 レイザック率いる本陣より離れた位置で一人の騎士が馬で大地を駆けていた。

 その表情は恐怖で蒼白と化し、吐く息も荒い。まるで悪魔から必死に逃げているかのように脇目も振らず手綱を握りしめる。


「そ……そんな馬鹿な。あんな化け物がいるなんて……!」


 彼の言葉はそこで途絶えた。

 刹那。空間を裂くように回転と同時に高速で迫る刃の先端が、男の頭蓋骨を刺し貫き首を跳ね飛ばす。恐怖に濡れた目を見開き、男の首は近くにある木に鎌の刀身ごと突き刺さった。

 その直線状に殺意に満ち光り輝く紅玉が浮かび上がる。


掃討完了(オールクリア)。隊長。王国騎士団右翼壊滅しました。次のご指示を』


 木に囲まれた草原の中におびただしい死体が転がっていた。

 王国騎士団右翼側にいた騎士達である。マリア率いる「紫の薔薇騎士団」の強襲を受け、成す術もなく虐殺された結果だ。

 脳裏に響くシオンからの念話(ケレブルムラング)に、マリアは鋭い瞳をはるか遠くの地平線へと向けた。


「数が少ないのは左翼もだったな? ならば掃討に向かおうか。傷つき立ち上がれない者は捨て置け」


『当薔薇騎士団にそんな軟弱者はいません。もっとも軟弱な私がこうして立っているんですから!』


「よろしい。ならば戦争の続きだ。敵勢力の陣形は?」


『予測ですが一般的な方陣と思われます。兵力は私達のほうが上です』


「敵が間抜けばかりでなければ、そろそろ集結の手筈を整えはじめるはずだ。敵の集結地点を予測しろ」


『了解』


「では征こうか。王国騎士団のゴミ共を鏖殺するために」


 まるで虐殺そのものを快楽とでも感じているように、マリアは冷笑を浮かべた。

 その様子を近くの林の中に身を潜めていたフィロスと彼が率いる兵士達が、半ば茫然とした表情で見つめている。


「……あれが紫の薔薇騎士団パープル・ローゼンリッターか」


 噂に聞く勇猛さ。残虐性。そして死神マリアと重騎馬隊が織りなす突撃力。それは半端な防御陣を切り裂き、刺し貫き、死体を量産していく。血に濡れた薔薇の棘とはよく言ったものだ。

 

 マリアの指示の元、薔薇騎士団が再編成される。

 突撃力を重視しチェアーマン率いる重騎馬隊を先頭に紡錘陣形を形成。王国騎士団の方陣を穿ち中央突破を狙うのが目的だ。突破後は後続の騎士達が展開し、分断された残存兵力を殲滅する。

 彼女がもっとも好む陣形である。


「狩りは迅速に。音を立てず静寂に死を添えて……ね」


 風下を捕らえ、進攻の足音を消しながら死棘を持つ薔薇の騎士達が大地を駆ける。

 さながらそれは、死神が自らが狩るべき生を貪りつくすために忍び寄るようだった。

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