異世界は聖女たちの愛でいっぱい
高二の小桃は校門まで来て、持って帰る体操服を忘れたのに気付いて教室に戻った。
部活や帰宅で残っているクラスメイトのいない教室に付いた小桃の足下に魔法陣が光と共に現れる。
あまりにも非科学的な現象に彼女は呆気に取られた。
ゴウゴウと唸る風で目を開けていることができず、目を閉じる。次の瞬間、肌を打ち付ける風がなくなった。
驚いて小桃が目を開けると、そこは石造りの大きな建物の中だった。ヨーロッパの大聖堂といった趣きで、装飾の鮮やかな色彩と細かな模様のステンドグラスが荘厳だ。
周りには魔法使いなのか神官なのかわからないローブ姿の男たち、若い日本人の女性を中心にやけに顔立ちの整った男たちや獣たち、骨と皮だけの人間の身体の首から上がイカだったり、明らかにタコかイカをベースに色々な生き物の一部が混ざっている気味の悪い化け物や卵に顰めた顔と手足のある不細工な生物などの集団がいくつもあって、小桃は状況を理解できなかった。
戸惑っている小桃に不細工な生物に囲まれていた若い娘が叫んだ。どうやら、小桃と同じような高校生のようだ。
「ようこそ、異世界へ! 新たな聖女として、大大大歓迎するよ!!!」
小桃は彼女のテンションについて行けなかくて、これは白昼夢というやつに違いないと思った。
「もう、李ちゃん。彼女、引いちゃったじゃない。私は四月一日弥生。もふもふの聖女よ。あなたの名前は?」
自己紹介通り、その女性は獣たちに囲まれていた。弥生がもふもふの聖女とい呼ばれているのは獣たちに慕われているからだろうと小桃は思った。
「弥生さん、弥生さんって呼んでいいですか? あの、これは一体・・・? ここはどこですか? 聖女って、なんのことですか?」
「そうよね。召喚されたばかりだとわからないことだらけよね。まず、この世界の生物は瘴気の影響を受けて凶暴になって人間を襲うの。凶暴になった生物は聖女の力を持つ人物が心から愛情を持って接することで浄化され、元に戻れる、ということで、私たちは聖女としてこの世界に召喚されたのよ。浄化されて感謝だけではなくて感激までしてしまう人もいて、こうして私たちと一緒に行動するようになるの」
弥生の説明に小桃は納得がいかなかった。聖女の力を持つ人物が浄化をするということは、獣たちに囲まれているもふもふの聖女である弥生は獣(もふもふ限定)を元に戻す聖女なのだろう。だが、やけに顔立ちの整った男たちに囲まれている聖女?が召喚された聖女?なのは何故なのか?
web小説では聖女として召喚されるのは一人だけで、先に召喚された聖女は何百年も昔で会えないのが普通なのだが、web小説を読まない小桃はそのことを知らなかったので、聖女が複数いることになんの疑問も持っていなかった。
「この世界には召喚された人しか聖女がいないんですか?」
「この世界生まれの聖女もいるわよ」
この世界は美醜が逆転していて、この世界の聖女は目の前の男たちを可愛いがれなかったのかと小桃は思った。
「ねえ、もしかしてあなた、この世界の美的感覚が変わってるって思ってない? そこは私たちの世界と同じだから」
「でも、あの男の人たちはどうして彼女が浄化することになったんですか?」
「ああ、彼らね。彼らは・・・ワケ有りなのよ」
「ワケ有り?」
「・・・ヤンデレなの。 彼らが凶暴化して逃げ出すことができた被害者たちが申告してくれたおかげで、他の聖女が拒否しまくって杏子ちゃんが浄化することになったのよ。彼女は偉大だわ。その尊い犠牲は忘れないわ・・・」
当の杏子はイケメンにチヤホヤされて幸せそうだ。
まだ杏子が実害を被っているようには見えない状態なのに、失礼なことを弥生は遠い目で語った。
「え、でも、だって、杏子さんは・・・」
小桃は何か言おうとしたが、弥生の笑顔にはそれ以上言うなとメッセージが込められていて、言葉が続けられなかった。
異世界は今日も聖女たちの溢れる愛で平和だった。
ヤンデレたちが杏子を巡って騒ぎを起こしても、異世界の平和に揺るぎはなかった。
どうでもいい情報:
不気味な生物の聖女 李。
ヤンデレの聖女 杏子 ヤンデレたちが何度騒動を起こしても巧みに実害を避け続け、許す人物。頭がただのお花畑ではない三次元のヤンデレもokな強者。




