紅葉狩り
夜勤から帰った朝。
鮮やかに色づいた山を見て、自転車で紅葉狩りに行くことを思い立った。
――そうだ、ノラも……。
さっそくノラを誘ってみる。
「ノラ、紅葉狩りに行かないか?」
「なんだ、それは?」
「葉っぱが枯れて、きれいになった山に行って弁当を食うんだ」
「なら行かん」
「なんでだ? ごちそうが食えるんだぞ」
「ナワバリを出てしまうからな。それに、そんなところはワシのナワバリにもある」
ノラは通りの先を指さした。
直線距離にして百メートルほど先、ちょっと小高い場所に、銀杏の樹であろう黄色いかたまりが見える。
「じゃあ、あそこにするか」
自転車で遠くまでと思っていたが、ここはノラの言い分を通すことにした。
目的地まで……。
オレは自転車、ノラは歩いてと、それぞれ別に行くことになる。
そこは神社で、あの銀杏の樹は境内にあった。
神主のいない神社らしく、銀杏の葉が散った境内はしーんと静まり返っていた。参拝者はめったに訪れないのだろう、この日は一人としていなかった。
ノラが遅れて到着する。
参拝がすんだところで……。
拝殿の奥に、おみくじの箱が備えつけられていることに気がついた。
――ここは?
子供のころの記憶がふと蘇る。
ここには小学生のとき、正月に家族そろって参拝に来ており、おみくじを引いたことがあるのだ。
靴を脱いで拝殿に進み入った。
箱の中に二百円を投入すれば、勝手にいただいてよいことになっていた。
一枚、おみくじを買う。
開くと小吉だった。
ついでに運勢欄を読むに、気になる金運と恋愛運がともによくない。
――当たってるな。
つい苦笑いをしてしまった。
境内の隅で弁当を広げた。
「ここもオマエのナワバリなのか?」
「ああ、ここには毎日のように来る。ここが隣のヤツとの境になってるんでな」
「こんなに遠くまでとは、見まわり、けっこう大変なんだな」
「それにアイツが、この近くに住んでるんでな」
「アイツ?」
「この前、アンタも見た白いヤツだ」
「オマエ、それでここを。それに遅れて来たのも、まさかようすを見に行ってたんじゃ?」
「最近、ヤツもオレを気にしてるみたいでな」
ヘヘヘと笑ってから、ノラが問うてくる。
「で、アンタは、さっきはなんで笑ってた?」
先ほどの苦笑いを、ノラにしっかり見られていたようだ。
「あれはだな……」
おみくじの運勢について教えてやった。ついでにオレには、金運と女運がないことも……。
「そんなもんがなくても、ワシは女にモテるぞ」
ノラが自慢する。
黄色い葉が一枚、なにかを予感するように弁当の上に舞い落ちてきた。