畑の草取り
今週から夜勤が始まった。
仕事にも慣れ、独身で時間の自由なオレを、店長が夜勤のシフトに組みこんだのである。
夜勤は好都合だった。
昼間は勤務があって、手をつけられなかった畑の草取りができる。
空は晴れており風もない。
ノラにメシをやったあと、さっそく畑の草刈りに取りかかった。
畑の広さは十坪に満たない。
三時間ほどもあれば終わるであろう。
カマで草を刈っていった。
母の話によれば……。
この畑はもともと、祖父が家庭菜園として作っていたもので、その祖父の亡きあとを祖母が受け継いでいたそうだ。
高齢の祖母には、草取りさえ大変だったにちがいない。しかし、夫が遺したものを荒したくはなかったのだろう。
――それで母さんは……。
畑をきれいにしろと言った、母の言葉が思い出された。母もやはり、両親が遺したものを荒したくはないのだろう。
その畑を、今はオレがきれいにしている。
考えてみるに……。
ここに住み始めたのも、畑の草取りをしていることも、なにかしらの縁があるのだろう。
ノラが見まわりから帰ってくる。
そのノラだが、いつもとは明らかに様子がちがっていた。ソワソワと落ち着きがなく、何度も振り返るようにして通りを見やる。
「おい、どうした?」
「いや、ちょっとな」
ノラはすぐさま畑に入っていくと、草むらに隠れるようにしゃがみこんだ。
「おい、クソはダメだぞ!」
「クソじゃない。すまんが通りを見てくれ」
ノラに言われて通りをのぞき見た。
遠くに白い猫の姿がある。赤い首輪をつけているところからして、どうやら飼い猫のようだ。
ノラが問うてくる。
「まだいるか?」
「ああ、白いのがいる。アイツ、ナワバリのライバルなのか?」
「そんなんじゃない」
「なら、なんで隠れるんだ?」
「ちょっと訳があってな」
白猫が通りから消える。
「おい、どこかに行ったみたいだぞ」
「すまん」
ノラはやっと草むらから出てきた。
「どういうことだ?」
「見まわりの途中、アイツを初めて見かけてな。かわいかったもんで声をかけたんだ」
「かわいかったって、メス猫ってことか?」
「そうだ。そしたらそれだけで、怒ってうなってきやがったんだ」
「で、オマエ逃げてきたのか?」
「女は怖いんでな」
ノラはヘヘヘと笑った。
ノラが畑を見まわして言う。
「ずいぶんきれいになったじゃないか」
「ああ。きれいにせんと、天国にいるおばあちゃんに申しわけないからな」
空をあおぎ見た。
雲ひとつない真っ青な空がある。
――おばあちゃん、きれいになっただろ。
祖母も見てくれているにちがいない。