表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/48

野良猫の世界

 ネコマンマの入ったノラ用の器を持って、玄関のドアを開けると、

「遅いじゃないか」

 ノラがオレを見上げる。

「バイト、今日は昼からなんで、ひさしぶりにゆっくり寝てたからな」

「おっ! ごちそうだな」

 今日は特別に、魚の煮つけを乗せてやっていた。

 ノラがさっそく魚にかぶりつく。

「うまいか?」

「ああ、こんなのはなかなか食えん」

 最近はゴミステーションにカラス対策の防御ネットが張られるようになり、そのあおりをくっているのだと愚痴をこぼす。

「オマエらの世界もきびしいな」

「ああ、楽じゃない」

 ノラは味わうように、メシの最後の一粒までなめあげた。

 バイトまで時間がある。

 それまで今日は、隣接してある祖母の畑の草取りをすることにした。ここに来る前、母からきれいにするよう強く言われていたことだ。


 畑の隅に菊の花が見える。

 祖母が植えていたのだろう、茂った草にも負けず花を咲かせていた。

 草取りの前。

 菊を数本だけ折り取って、床の間にある祖母の遺影の前に飾った。

――これ、咲いてたから。

 祖母は花が咲くのを見ないまま逝った。あの世から花を見て、きっと喜んでくれているだろう。


 畑にもどると、ノラが畑の草むらにしゃがみこんでいた。

「ノラ、そこでなにをしてるんだ? もしかして、クソか?」

「ああ」

 ノラは自分が落としたモノの上に、うしろ足で適当に土をかけてからやってきた。

「ここ、もしかしてオマエのクソだらけか?」

「まあな、ここは落ちついてやれるんで」

「そうか……」

 草取りをする気がいっぺんに失せた。

「どうした?」

「草取りをしなきゃならんのんだ」

「やればいいじゃないか」

「やる気がせんだろう、オマエのクソだらけとわかってはな」

「じゃあ、せんのか?」

「いや、しないと悪い。でも、今日はやめておく。クソを踏んでもいいよう、長靴がいるからな」

「持ってないのか」

「ああ、バイト代が入ったら買いに行かなきゃしょうがない。どうせ靴が欲しかったんで、そのときついでに買う」

「悪かったな。これからクソはよそでやる」

「小便もだぞ」

 そう念を押してから、草取りをあきらめて家にもどった。


 バイトに行くまで玄関先に座って、ノラから野良猫の世界のことを聞く。

 ノラの話では……。

 食うほかにも、ナワバリを守っていかなければならない。少しでも油断すると、ほかのヤツに乗っ取られてしまう。

 さらには危険な人間もいる。

 最後に、ノラがポツリとつぶやく。

「アンタのばあさん、いい人間だったなあ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ