商店街
バイトの帰りに商店街に向かった。
方角としては家とは反対方向にあり、コンビニから歩いて10分ほどで着く。
先日はアーケードの入り口で引き返したので、今日はじっくり歩いて見てまわることにした。
アーケードのある通りに入る。
夕方とあって、食材の買い物客で賑やかだ。
ここのアーケードは五十メートルほど続いているようだった。
――自転車は……。
自転車の販売店を探しながら歩く。
今日ここに来た目的のひとつは、自転車屋をのぞくことであった。ママチャリでもいい、自転車があればコンビニまでの通勤が楽になる。
だが、今は買う余裕がない。とりあえず品定めをしておこうと思ったのだ。
両側に並ぶ店をながめながら歩き進む。
――うん?
ペットショップのシャレた看板が目に入り、こんな田舎町にもこんなものがあるのかと驚く。
――ノラには関係ないな。
栄養たっぷりの肉や魚の缶詰、そしてキャットフードなどが置いてあるのだろう。でも、ノラのヤツにはネコマンマで十分である。
店の中をチラッと見やって、ペットショップの前を通り過ぎた。
古びた自転車屋を見つける。
間口の狭い店先に五台ほど、値札のついた自転車が横一列に並べられてあった。
――高いな。
値札を見て思う。
予想していたよりもはるかに高く、一番安い自転車でも一万四千円。オレのバイト代、時給七百六十円のおよそ二十倍もする。
――しょうがないか。
服や靴なども欲しかったのだが、そんなものをしばらく辛抱すればいい。
値段の確認はとりあえずできた。
――帰るか……。
これから先を見てまわっても、服などが欲しくなるばかりで目の毒である。
帰りに食材の不足分を買った。
肉、魚、野菜などで、残り少なくなっていたものを買いそろえる。
――そう、イリコだ!
乾物屋に寄ってイリコを買った。まだ残りはあったのだが、ノラに食わせるためにである。
アーケードを出るとき……。
この商店街に、昭和と平成の二つの時代をあらためて感じた。
玄関先でノラが丸くなっていた。
オレに気づいて大きく背筋を伸ばす。
「アンタ、今日は遅いじゃないか」
「商店街に寄ってきたんだ。それで、イリコを買ってきた。ネコマンマに乗っけてやろう思ってな」
「ほんとか!」
「ああ、楽しみにしとけ」
ペットショップのことは話さなかった。いや、話せなかった。仲間が売られていると知ったら、きっと気分を悪くするにちがいない。
そのノラだが、再び丸くなり目を閉じていた。
オレを家族だと思っているのか、まったくの無警戒である。
――ヒゲを引っ張ってやるか。
いたずら心が湧いて手を伸ばしたが、その平和な寝顔を見てやめておく。