工務店にて
バイトは明日から日中のシフトになる。
そこで夜勤明けの今朝、ひさしぶりに畑の作業をやることにした。
ノラに朝メシをやってから畑に行く。
まず野菜のまわりの草を抜き、それからナスの枝先を切った。これはサオリさんのお父さんから教えてもらったことで、そうすることにより秋に再び実をつけるという。
コスモスはずいぶん背を伸ばし、腰ほどの高さにまで成長していた。枝先には早くもつぼみをつけ、秋の近いことを教えてくれた。
その日の夕方。
サオリさんから『今晩、おじさんのところに行きませんか? 修理代のことで』と、先日お願いしていた倉庫の件でメールが入った。
『行きます』
返信したあと。
バイト先のATMで貯金を取り崩し、とりあえず全財産の十万円を準備した。
サオリさんとは、バイトが終わったあと商店街の入り口で待ち合わせた。
サオリさんが開口一番に言う。
「おじさんのところ、事務の人がおめでたで、九月いっぱいで辞めることになったそうなんです。もしよかったら、サトウさんにお願いできないかって」
「その事務をボクに?」
「はい、勝手なお願いなんですが」
「いえ、こちらがお願いしたいくらいです。このままバイトというわけにはいきませんので。それで……」
恥を忍んで言う。
「ボク、十万円しか準備できてないんです」
工務店は商店街の近くにあり、徒歩で10分もかからずに着いた。
「サオリちゃん、ひさしぶりやな」
社長らしき人物が笑顔で出迎えてくれる。
「事務の話、サトウさんにしたからね」
サオリさんは、まず一番にここでの事務の件を切り出した。
「コンビニでバイトをしてるって聞いたんだが、うちで働いてもらえんですか?」
社長がオレに顔を向ける。
「ボクの方こそお願いします」
きちんと頭を下げてから、あらためて履歴書を出すことを伝えた。
「そんなものはいらんよ。サオリちゃんの紹介がなによりだからね」
社長はサオリさんを見て声高に笑った。
工務店の勤務だが……。
事務引継ぎを兼ね、仕事を覚える期間が必要だろうということで、九月半ばからとなった。
今回の件は,おそらくサオリさんのお父さんからも口添えしてくれたのだろう、サオリさんは、なにも言わなかったたけれど。
それで肝心の修理代だが、こちらはサオリさん効果で、材料費の二万円だけという破格の取りはからいを受けた。
その夜。
実家の両親に転職のことを伝える。
『よかったね』
電話の向こうの、母の声がはずんでいるのがわかった。
ついにバイト脱出である。




