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送り火

 告白して一週間が過ぎた。

 サオリさんとは毎日のように顔を合わせ、朝晩には必ずメールのやり取りをするようになった。

「アンタ、やっとモテない男じゃなくなったな」

 ノラにへらず口の祝福を受ける。

 今にして思えば、あのとき告白したことが不思議でならない。

 神社の神様がオレに舞い降りたのだろうか。元旦のおみくじにあった恋愛運を叶えようとして……。


 盆が始まっても実家には帰らなかった。

 バイトを休みにくいこともあったが、なによりサオリさんと離ればなれになりたくなかった。

 そのサオリさんだが、祖母の墓参りにつき合ってくれ、さらには盆最後の今日、祖母の送り火に来てくれるという。

――そういえば……。

 ふと、祖母の顔が思い浮かぶ。

 子供のころ、ここで祖母や家族みんなと送り火をしたことがあった。

 あれは祖父のための送り火であったのだ。


 その日の夕暮れどき。

 ナスとワリバシで牛を作り、おがらを積むなど、送り火の準備をしながらサオリさんを待った。

「アンタ、なにをしてるんだ?」

 ノラがおがらの山を見て問うてくる。

「送り火といってな、これからこいつを焼くんだ」

 おがらをつまんで匂ってみせる。

「それ、食えるのか?」

「ああ、うまいぞ」

「じゃあ、早く焼け」

「焼くのはサオリさんが来てからだ」

 うわさをすればなんとやらで、

「こんばんは」

 サオリさんが通りから顔をのぞかせた。

 腕の中にはミケもいる。

「どうぞ、こちらへ」

 手招きしてから、いまだに連絡のない倉庫のことについてたずねてみた。

「修理代ことなんですが、あれからなにも連絡がないんです」

「おじさん、のんびりした人だから」

「いつ払えばいいものかと」

「今晩、もう一度連絡してみますわ」

「お願いします。じゃあ、さっそく始めましょう、準備はしてありますので」

 サオリさんの座る場所を空ける。


 オレとサオリさん、ノラとミケ、二人と二匹は玄関先で輪になった。

 ライターで新聞紙に火をつけ、それをおがらの山に近づける。

 炎が木切れに燃え移った。

 木切れから出る煙は白い筋となって立ち昇り、まわりの闇に吸いこまれてゆく。

――またね、おばあちゃん。

 祖母の魂を見送る。

 隣ではサオリさんが目を閉じ、祈るように両手を合わせていた。

 そのきれいな横顔が、送り火の炎に照らされて浮かび上がって見える。

 幻想的でロマンチックだ。

 と、そのとき。

 せっかくのムードをぶち壊すかのように、いきなりノラが声をあげた。

「おい、食うのがなくなってしまうぞ!」


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