表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/48

夏祭り

 今日は夏祭りの日。

 バイトが終わるやいなや、夕暮れの中、夏祭りのある商店街まで自転車を飛ばした。

 アーケードの天井は、数万という豆電球のイルミネーションで光り輝いていた。

 通りの両側にはずらりと夜店が並んでいる。

 それらをやり過ごし……。

 ペットショップの前でサオリさんを待った。


 笑顔のサオリさんが出てくる。

――きれいだな。

 あらためて思う。

 自転車をペットショップの前に置かせてもらい、サオリさんと並んでアーケードの通りを歩く。

つかず離れず、二人の間には微妙な間隔があった。

――これが今の二人なんだろうな。

 はがゆく思うが、だからといって手をつなぐだなんて、そんな勇気はない。

 夜店で焼きそばを食べ、二人で金魚すくいをやってから、サオリさんが毎年入っているというお化け屋敷に向かった。


 お化け屋敷はアーケードの入り口にあった。

 駐車場に作られた仮設の建物なのだが、中に入ると思っていた以上にしかけが凝っていた。

 ほぼ真っ暗である。

「きゃあー」

 サオリさんが悲鳴をあげて、いきなりオレの腕にしがみついてきた。

「あっ!」

 オレも声をあげる。

 お化けにおどろいたのではない。この場のなりゆきとはいえ、サオリさんが身体を密着してきたことにびっくりしたのである。

 それからは二人くっついて、お化け屋敷の出口まで歩き進んだ。

「ごめんなさい!」

 サオリさんがあわてて手をはなす。

「い、いえ……よかったです、お役に立てて」

 気の利いた言葉ひとつ言えない。

 情けないの一言のオレであった。


 折り返すようにアーケードを歩く。

 その途中。

 コンビニの仕事仲間――いつも元気なおばさん店員に出会った。やはりお祭りに来たという。

「サトウくん、カノジョいたんだ」

 面と向かって唐突に言われる。

「い、いえ……」

 ここでも「い、いえ」である。

 こんな返事しかできない自分に、オレは無性に腹が立ってきた。

 露天でイカ焼きを買った。留守番をしているノラへのお土産である。

 帰りは自転車に二人乗りをした。

 オレの腰にまわした、サオリさんの手の温もりがじんわり伝わってくる。


 サオリさんと別れたあと。

 ノラがニヤついた顔で問うてくる。

「好きだと言ったのか?」

「い、いや……」

 三度目の「い、いえ」である。

「なんで言わんのだ? ほんと、アンタって情けないんだな」

 ノラに馬鹿にされてしまった。

――好きだ、か……。

 ノラのように、もっと自分の気持ちに正直に、そして情熱的になれたらと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ