夏祭り
今日は夏祭りの日。
バイトが終わるやいなや、夕暮れの中、夏祭りのある商店街まで自転車を飛ばした。
アーケードの天井は、数万という豆電球のイルミネーションで光り輝いていた。
通りの両側にはずらりと夜店が並んでいる。
それらをやり過ごし……。
ペットショップの前でサオリさんを待った。
笑顔のサオリさんが出てくる。
――きれいだな。
あらためて思う。
自転車をペットショップの前に置かせてもらい、サオリさんと並んでアーケードの通りを歩く。
つかず離れず、二人の間には微妙な間隔があった。
――これが今の二人なんだろうな。
はがゆく思うが、だからといって手をつなぐだなんて、そんな勇気はない。
夜店で焼きそばを食べ、二人で金魚すくいをやってから、サオリさんが毎年入っているというお化け屋敷に向かった。
お化け屋敷はアーケードの入り口にあった。
駐車場に作られた仮設の建物なのだが、中に入ると思っていた以上にしかけが凝っていた。
ほぼ真っ暗である。
「きゃあー」
サオリさんが悲鳴をあげて、いきなりオレの腕にしがみついてきた。
「あっ!」
オレも声をあげる。
お化けにおどろいたのではない。この場のなりゆきとはいえ、サオリさんが身体を密着してきたことにびっくりしたのである。
それからは二人くっついて、お化け屋敷の出口まで歩き進んだ。
「ごめんなさい!」
サオリさんがあわてて手をはなす。
「い、いえ……よかったです、お役に立てて」
気の利いた言葉ひとつ言えない。
情けないの一言のオレであった。
折り返すようにアーケードを歩く。
その途中。
コンビニの仕事仲間――いつも元気なおばさん店員に出会った。やはりお祭りに来たという。
「サトウくん、カノジョいたんだ」
面と向かって唐突に言われる。
「い、いえ……」
ここでも「い、いえ」である。
こんな返事しかできない自分に、オレは無性に腹が立ってきた。
露天でイカ焼きを買った。留守番をしているノラへのお土産である。
帰りは自転車に二人乗りをした。
オレの腰にまわした、サオリさんの手の温もりがじんわり伝わってくる。
サオリさんと別れたあと。
ノラがニヤついた顔で問うてくる。
「好きだと言ったのか?」
「い、いや……」
三度目の「い、いえ」である。
「なんで言わんのだ? ほんと、アンタって情けないんだな」
ノラに馬鹿にされてしまった。
――好きだ、か……。
ノラのように、もっと自分の気持ちに正直に、そして情熱的になれたらと思う。




