新しい生活
早くも一週間が過ぎた。
朝八時にバイトに出かけ、夕方の六時過ぎに帰ってくるといった、ただそれだけの繰り返しの生活。この町を見てまわる、そうした余裕はまだない。
ノラは玄関先をネグラにしており、オレが作ってやるネコマンマを食う。
今朝、そんなノラに問うてみた。
「オマエ、オレがバイトに行ってる間、いつもここにいるのか?」
「いたり、いなかったりだ」
「そういえば、ナワバリを見まわってるって?」
「朝早くと夕方にな」
「じゃあ、あとはなにをしてるんだ?」
「ここで寝ている」
「晩メシは?」
「あれば食う、なければ食わん。まあ、いつもそんなところだ」
「なら、晩メシも作ってやる。たいしたもんは作ってやれんがな」
「そいつはありがたい」
「気にすんな」
「ところで、アンタこそ家にいないが、いつもどこに行ってるんだ?」
ノラに問い返される。
「大通りにあるコンビニだ」
なんでコンビニに通っているのかを教え、ついでに近くにあった商店街のことも話してやった。
「買いたい物があるんで、近いうち、その商店街に行ってみるつもりだ」
先日に行ったときは、アーケードの入り口からのぞいただけだった。それに母が持たせてくれた食材も底を尽きかけている。
ノラが神妙な顔で問うてきた。
「アンタ、ずっとここにいるのか?」
「しばらくはな」
「じゃあ、オレは当分、メシにありつけるということだな?」
「オレがいる間はな。でもそのうち、この家を出て行くことになる」
「いつだ?」
「わからん」
「ここじゃ、ダメってことなのか?」
「たぶんな」
「そうか、それまでか」
ノラが残念そうな顔をする。
「もしかしてメシの心配をしてるのか?」
「あたりまえだろ。メシがあるかないかは、生きるか死ぬかだからな」
「野良としてのプライドはどうした?」
「それはそれ、メシはメシだ」
メシを食うこと、それはノラにとっては死活問題なのであろう。
ノラが食い終わってつぶやく。
「でも、よかったよ」
「なにが?」
「ここに住み始めたんが、アンタで」
「メシをもらえるもんな」
「それもあるが……。アンタ、ワシら野良をイヤがらんからな。それに優しいしな」
「そうかな?」
優しいと言われて、なんとも照れくさかった。そして、なぜだかうれしくなる。
――この町でずっと暮らすのも、この家にずっと住むのもいいかな。
そう思えてきた。