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台風の爪痕

 今朝はいつもより一時間ほど早く起きて、台風で滅茶苦茶になった畑の手入れをする。

 トマトが二本、根元で折れて再起不能だった。残りのものは元どおりに起こしてやり、いちから添え木をやり直した。

 菊とコスモスを見てホッとする。

 こちらは背が低く密集しているせいか、野菜にくらべると被害はおもいのほか軽かった。

 菊は祖母。

 コスモスはサオリさん。

 菊もコスモスも枯らすわけにはいかない。

 作業は一時間ほどで終わった。


 倉庫の前に立つ。

――いくらかかるんだろ?

 修理代のことを考えると頭が痛い。

――早く修理しないとな。

 倉庫に収納されていたものは、すべて外に出して乾かしているところなのだが、このままでは雨が降ればまた濡れてしまう。

「おい、メシをくれ」

 ノラが見まわりから帰ってきた。

「待ってろ、すぐに作ってやる」

 とりあえず家に入り、ノラにネコマンマをこしらえてやった。

 ノラか問うてくる。

「サオリさんとこに行くのはまだなのか?」

「ああ、台風が過ぎたばかりなんでな」

 台風はここにも爪痕を残し、オレはいまだまな板の上の鯉の状態にあった。

 噂をすればなんとやら。

 ポケットのスマホが鳴って、サオリさんからメールが入った。『倉庫のことで、仕事の帰りにおうかがいします』とある。

 サオリさんは倉庫の件を気にかけてくれ、父方の親戚にリフォーム関係の工務店があるので、父に相談してみますと言ってくれていたのだ。

『お待ちしています』

 さっそく返信しておく。


 その日の夕方。

 今朝のメールの件で、サオリさんが仕事帰りに訪れてくれた。

 二人で倉庫の前に立つ。

 サオリさんはスマホで写真を撮ると、その場で工務店に送り、わざわざ社長に電話を入れてくれた。

「立ち会わなくても大丈夫だそうです」

「バイトがあるので助かります」

 工務店は父の弟がこの町でやっており、修理の件は父からも話を伝えてあるという。

 最後に……。

 サオリさんは予期もしなかったことを口にしたのだった。

「来週の土曜日から、商店街で夏祭りが始まるんですけど、一緒に行きませんか?」

「もちろん喜んで」

 サオリさんの誘いを断る理由なんて、天地がひっくり返ったってあるわけがない。

 その日は二人とも仕事があるので、仕事が終わったあとペットショップの前で落ち合うことになった。


 その夜。

――まさかのまさかだな。

 夢のような初デートだ。

 眠りにつくまで、サオリさんのことが頭の中をかけめぐっていた。


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