迷走台風
バイトから帰ってから、今日は畑の手入れに精を出す。超大型の台風が、数日のうちにこの地域を直撃するというのである。
野菜たちに新たな添え木をつけ足した。
菊とコスモスの四方には竹杭を打ち、周囲をヒモで囲って倒れないようにした。
翌日の朝。
ノラが訪問の件を問うてくる。
「おい、決まったのか?」
「いや、まだだ」
サオリさん宅に行く日は、これまで何度か決まりかけては、それぞれの仕事の都合により流れていたのだった。そのたびに、サオリさんが日程の調整をやり直してくれている。
「なんか落ち着かんな」
「ノラ、オマエも緊張するんだな?」
「ああ、メシがのどを通らん」
「嘘をつけ! しっかり食ってるじゃないか」
「まあな」
ノラがヘヘヘと笑う。
ノラがいてくれてよかった。でなければ、オレだってメシがのどを通りそうにない。
それから数日。
台風はなにを思ったか迷走し続けていた。
天気予報は、ひねくれ台風の速度と進路の変更を幾度となく繰り返す。
――来るなら早く来いよ。
台風に愚痴る。
サオリさん宅に訪問する日は、とりあえず台風が過ぎてからということになっていたのだ。
――まな板の上の鯉だな。
そんな心境だった。
台風が勢力を増して近づく。
だからといって、年中無休のコンビニが店を閉めることはない。バイトの行き帰りはレインコートで身を包み、雨まじりの強い風の中を自転車で通った。
雨が服の中にまで染みこんでくる。
そして、今日もびしょ濡れで帰ってきた。
そこへ……。
やはり全身ずぶ濡れのノラが、ナワバリの見まわりから帰ってきた。
「ノラ、この風だ。今夜は外じゃ寝られんぞ、家に上がれ」
「助かるな」
ノラも本能的に身の危険を察したのか、この日ばかりはオレの言葉に素直に従った。
台風は深夜に急速にスピードを速め、その通り道を滅茶苦茶にして過ぎ去った。
我が家でも、野菜、菊、コスモスが添え木ごとなぎ倒された。さらには倉庫の屋根が吹き飛ぶという被害を受けた。
――こまったな。
畑はともかくとして、倉庫の方は素人の手におえるものではない。修理を頼めば、おそらく十万の単位の金が飛ぶだろう。
「とんでもないことになったな」
ノラが声をかけてきた。
「ああ」
返す言葉が出ない。
――サオリさんのとこ、大丈夫かな?
こんなときでも、サオリさんのことを思ってしまうオレであった。




