ボスからの招待
バイトに出ようとしたとき、サオリさんからスマホにメールが入る。
『昨日、父がそちらに顔を出したのでは?』
『ノラからお父さんだと聞いてびっくりしました』とだけ返信する。
『ご迷惑だったのでは? 今日、仕事の帰りに寄らせていただきます』と、すぐさまサオリさんから再度のメールが返ってきた。
バイトから帰り、いつものようにノラにネコマンマを食わせてやった。
「アイツ、アンタのことを」
ノラが神妙な顔で言う。
昨日のことが、ノラも気にかかっているようだ。
「だろうな」
なにもなく声をかけてきたとは考えにくい。
――もしかして……。
あのときお父さんは帰りぎわ、「トマトが目についたもので、つい声を」と言った。そして先日、オレはサオリさんにトマトをあげていた。
それらを考えると……。
トマトが話題にあがったとき、サオリさんがオレのことを家族に話したのだろう。
なら喜ぶべきだ。
それはオレを家族に紹介した、そういうふうにもとれるのだから……、
サオリさんが我が家に立ち寄る。
「すみません、ご迷惑だったでしょ?」
開口一番そう言って、サオリさんは深々とオレに頭を下げた。
「いえ、とんでもありません」
「トマトのお礼を言いたかったそうです。でも、切り出せなかったと話していました。正体がバレてしまいますものね」
サオリさんは笑ってから、昨晩のできごとを話してくれた。
やはり野菜の件で、オレのことを両親に話したそうである。
それで……。
父は気になるのか、サトウさんのようすを見に行ったのでは、と言う。
「で、ボクのことをなにか?」
オレとしても気になる。
サオリさんの父親は大のネコ嫌い。
以前、ホウキを手にノラ追いまわしたことがあり、恐い人物としかイメージがないのである。
「サトウさんのこと、好青年だと」
「ほんとですか?」
「ええ。それで父ったら、来週にでも家に呼びなさいって。ご迷惑ですか?」
サオリさんがオレの目を見つめてくる。
「いえ、喜んでうかがわせてもらいます」
即座に返事をしたあと、期待と不安が同時にこみ上がってきた。
サオリさんが帰ったあと。
ノラがオレを見て言う。
「おい、大変なことになったな」
「ノラ、オマエもだぞ」
「ワシは遠慮したいんだけど」
ノラも一緒に招待されたのである。
「サオリさんがいるから大丈夫だろう」
「なら、いいが……」
「緊張するな」
「ああ」
オレとノラは顔を見合わせてから、同時に大きく息を吐いたのだった。




