メール交換
六月も半ばを過ぎた。
三月に植えた夏野菜の苗――トマト、ナス、ピーマンは、一人では食べきれないほど実をつけている。
ノラの浮気騒動だが……。
サオリさんが取りなしてくれ、ミケの誤解だということになんとか落ち着いた。
一方、ノラについたノミはしつこかった。
朝晩二回、体じゅうに薬を吹きつけるのだが、ノラはいまだにノミ地獄から抜け出せず、この作業がメシのあとの日課となっていた。
「いくぞ!」
「まっ、待ってくれ」
「逃げたら、ミケに言いつけるからな」
「わかった、わかったから」
ノミ退治のスプレーをやる。
これはミケから出された、お許しの条件であった。
朝メシを食い終わったノラが、オレのポケットを見てせっつく。
「おい、早くスマホを出せ」
「いいかげんにしたらどうだ」
「アンタが言い出したことなんだぞ」
「そりゃそうだが……」
スマホの件は、ノラとミケを仲直りさせる方法として、オレがサオリさんに提案したことなのだ。
だが毎日朝晩、それも長話ともなると、サオリさんに迷惑をかけているにちがいない。
オレもたまったものではない。
サオリさんと話せるといっても、ミケへの取り次ぎをするだけである。
そんなこんなで……。
オレはノラに、サオリさんはミケに振りまわされる日が一週間ほど続いた。
そうしたなか。
サオリさんから新たな提案がある。
メールにすれば、スマホを使う時間が短くなるのではと……。
サオリさんもやはりこまっていたのだ。
メールアドレスの交換、それは二人を新たにつなぐものとなる。
オレは喜んで賛成した。
それ以来。
オレとサオリさん、ノラとミケのメールのやり取りが始まった。
だが、計算外なことがひとつ。
猫というものは、おもいのほか情熱的な生き物だったのである。
今朝も、ミケからのメールが届く。
「おい、なんて言ってきた?」
ノラが問うてくる。
「ノラさん、大好きだってよ」
メールの文面を読むのも気恥ずかしい。
ミケにかわって文面を書いたサオリさんも、おそらく同じ思いであろう。
「で、なんて返すんだ?」
「ミケちゃん愛してる」
「いいかげんにしろよ、オマエ。いつも愛してるじゃないか。それにミケちゃんってのも」
「ヘヘヘ……。サオリちゃん愛してるって、アンタも送ればいいじゃないか」
ノラがニヤつく。
――サオリちゃん愛してるか……。
そんなメール、サオリさんに送れるわけがない。
考えただけで身震いがしてきた。




