恋のおぜんだて
天気予報は、もうすぐ梅雨入りだと報じていた。
今週は夜勤である。
梅雨に入れば畑の作業がとどこおる。今日はがんばって草取りをすることにした。
ノラのキズはずいぶん治り、今日も玄関先でミケとデートをしている。
トマトは枝先に花を咲かせ、早くも青い実をいくつもつけていた。
祖母が遺した菊の手入れもする。花が咲いたら、今年も見せてあげようと思う。
昼前、畑の手入れが終わった。
「ノラ、今日は昼メシをやるぞ」
「おっ!」
ノラがニンマリする。
「ミケも食うがいい。サオリさんがくれた猫缶が残ってるんだ」
「いただきます」
「ワシにもそれをくれ」
「オマエにはゼイタクなんだがな」
今日は特別に、ノラにも猫缶を食わせてやることにした。
二匹が食べている間……。
なんとはなしにオレはスマホをいじっていた。
サオリさんのアドレスは登録してある。それを開いて、ぼんやりながめていたのである。
ミケがスマホをのぞきこんでくる。
「それって、サオリさんと話ができるんでしょ?」
「ああ、ここをタッチすればな」
「じゃあ、タッチして話したらいいのに」
「それがなかなかできなくてな」
「どうして?」
ミケの問いに、
「用もないのに電話をしたら、サオリさんが迷惑するだろ」
オレは苦笑いを返すしかなかった。
午後は夜勤にそなえて寝た。
バイトに行こうとドアを開けると、ノラとミケはまだ玄関先にいた。
「さっきの、サオリさんのを見せて」
ミケがオレを見上げ、スマホのサオリさんのところを見たいと言う。
「これだ」
アドレスを出してやる。
するとだ。
ミケがいきなり画面を指で触り、サオリさんのスマホにつながってしまった。
「あっ!」
あわてて切ったがすでに手遅れで、サオリさんのスマホにはオレの送信履歴が残った。
「うまくいったね」
ミケがノラを見てニッコリする。
三十秒もしないうち、サオリさんから折り返しがある。
「すみません、まちがえてかけたみたいで」
会話はそれだけで終わった。
「ノラ、どういうことだ?」
「わからんのか。アンタがウジウジしてるんで、ワシとミケとで考えたんだよ。サオリさんと話をさせようと思ってな」
「じゃあ、さっきのは……」
「それをムダにしてから。アンタって、ほんと情けないんだな」
ノラに鼻で笑われてしまった。




