ナワバリ争い
今朝。
ノラにメシをやろうと玄関を出て驚く。ノラの顔が血で汚れていたのだ。
「おい、どうしたんだ?」
「クソー」
ノラが舌打ちをする。
よく見ると顔だけではない。
腹のあたりにも血がついていた。
「れいの黒猫にやられたのか?」
その黒猫は神社のあたりに住んでいて、ノラのナワバリにちょくちょく顔を見せていたのだ。
「アイツ、いきなり飛びかかってきやがった」
ノラの話では……。
早朝の見まわりのさなか、いつものように神社に立ち寄るとあの黒猫がいた。そこで子猫のことを話そうと近づいたら、いきなり飛びかかってきたそうだ。
「とにかくキズの手当てをしないとな」
ノラの体についた血を拭いてやり、とりあえず家にあった消毒薬をつけてやった。
出勤途中のサオリさんが、ノラの怪我の状態を診てくれた。
「いい薬がありますので」
今日の帰りにも、ペットショップにある薬を持ってきてくれると言う。
「ノラさん、薬を塗れば大丈夫だから」
ノラを元気づけてから、オレに問うてきた。
「サトウさん、今日はコンビニ、何時までいらっしゃいます?」
「六時までですが」
「わたし、できるだけ早く帰るようにします」
再度ノラに「大丈夫よ」と声をかけ、サオリさんはペットショップに向かった。
ノラが立ち上がり出かけようとする。
「どこに行くんだ?」
「見まわりだ」
「ノラ、今日はおとなしく寝てろ」
「いや、見まわりだけは欠かせん。それに、アイツを見たらただじゃおかん」
今朝は油断してたんで不覚を取った。正面切って戦えば負けるもんかと息巻く。
バイト中。
サオリさんからスマホに連絡が入った。
黒猫のことがわかった。神社の向こう側に住んでいる飼い猫らしい。
詳しいことは薬を届けたときに話すという。
夕方。
サオリさんが我が家の玄関先にいた。早く薬を届けたくて、いつもより早めに店を出たそうだ。
ノラはすでにキズの手当をしてもらっており、そばにはミケがつき添っていた。
「ノラ、まだ痛いか?」
「なんのこれしき。それでアイツのことだが、このミケが……」
続きを、ミケが引き取って話す。
「アタシ、引っかいてやったの。二度と、ノラさんにあんなことしないでって」
ミケがネコパンチを食らわせたという。
サオリさんの話によると……。
子猫はあの黒猫の子で、母猫は近くに住む野良猫らしい。ほかの子猫は、すでに保健所に連れていかれていたそうだ。
「あの子、運が良かったんですね」
サオリさんが涙をぬぐう。




