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野良猫のノラ

 朝食のあと。

 ご飯を盛った茶碗に味噌汁を注ぐ。ネコマンマのできあがりだ。

 玄関先で野良猫を待っていると、白黒の猫が家の前の通りを歩いて来る。

「どこに行ってたんだ?」

「ナワバリの見まわりだ」

「朝早くからご苦労だな」

「そうでもない、こいつは毎日のことだからな」

「腹がへっただろ、約束のネコマンマだ」

 野良猫の前に茶碗を置いてやる。

「すまんな」

 野良猫はさっそくネコマンマを食い始めた。

 ここで、気になることを問うてみる。

「オマエ、どれくらい前から、おばあちゃんにメシを食わせてもらってたんだ?」

「二年ぐらいだ」

「そんなにか。じやあ、かわいがってもらってたんだろうな」

「ああ、ずいぶんとな。それでも家には上がらんかったし、抱かれもせんかった」

「おばあちゃんがそうしたのか?」

「いや、オレがせんかった」

「なんでだ?」

「野良だからな」

 野良猫は返事を返しながらも、ネコマンマは脇目もふらずに食べていた。

「そうか……」

 猫のことはよくわからない。

 たぶんこの猫には、野良猫としてのプライドというものがあるのだろう。

 さらに問う。

「それでおばあちゃん、オマエのこと、なんて呼んでたんだ?」

「ノラだ」

「野良でノラか」

 名前のつけ方につい笑ってしまった。

「おかしいか」

「いや、単純だと思ってな」

「ノラと呼ばれて、ワシはうれしかったよ、野良としてな」

「野良猫としてのプライドだな」

「ほかのヤツのことは知らん。でも、ワシはノラが気に入っていた」

「じゃあ、オレもノラと呼ぼうか?」

「ああ」

 ノラはうなずいてから、オレに質問を向けた。

「それで、アンタの名前は?」

「サトウススム。でも、ススムなんて呼ばれるのもなんだかな」

「じゃあ、アンタでいいか?」

「ああ、それでいい」

 互いの名前の呼び方が決まったところで、ノラがネコマンマの茶碗をカラにする。

「うまかったか?」

「ああ、ひさしぶりのオマンマだった」

「毎日、作ってやるからな」

「ありがたいことだ」

「オレはこれからバイトに行く。ノラ、オマエはここでゆっくりしてたらいい」

「すまんな」

 ノラが玄関先で丸くなる。


 この町には友だちも知り合いもいない。

 たとえ相手が猫であろうと、これからが少しは楽しいものになるのではなかろうか。

 そう思った。


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