子猫との別れ
夜勤明けの朝、玄関先でサオリさんを待った。
子猫の飼い主が見つかり、朝のうちに引き取りに来ることになっていたのだ。
ノラも今朝は、ナワバリの見まわりに出かけず、別れを惜しむように子猫に寄り添っていた。
ミケを抱いたサオリさんがやってくる。
「おはようございます」
「おはようございます。サトウさん、朝早くから申しわけありません」
「これからペットショップに?」
「はい、通勤途中なんです」
サオリさんはミケをおろして、子猫を抱いた。
「よかったですね、飼い主が見つかって」
「サトウさんには面倒をおかけしました」
サオリさんの話によると……。
飼い主は店のなじみ客。捨て猫の話を聞き、引き取ってくれることになったそうだ。ただ、その人の家はかなり遠くにあるらしい。
――もう会うこともないんだろうな。
一緒にいたのはわずか一週間だったが、いざ別れとなると淋しいものである。
「ところで、通勤はいつもバスですか?」
「そうなんです。でも今日は、この子がいるので歩くしかないですね」
「自転車、乗れます?」
「はい、乗れますけど」
「じゃあ、ボクの自転車を使ってください。子猫を乗せる箱を取りつけてありますから」
今朝の早くに、荷台に段ボール箱をくくりつけていたのである。
天気がいい。
この日は寝ずに畑の手入れをした。
夏野菜のまわりの草取りをしたあと、苗が風で倒れないよう竹を添えてやる。
トマト、ナス、ピーマン、それぞれに早くも花がつき始めていた。
日暮れ前。
勤め帰りのサオリさんが、自転車を返すため我が家に立ち寄った。
「これ、お礼です」
美しい包装紙の箱とコスモスの種の入った小袋をくれる。
「お花の種、商店街を通ったときもらったんです。よかったら畑にまいてください」
もうひとつの箱のことは口にしなかったが、帰りにわざわざ商店街で買ったのだろう。
サオリさんが帰ったあと、さっそく包装紙を開いてみた。
箱の中には淡いグリーンのハンカチと、ありがとうございましたと、手書きのメッセージカードが入っていた。
そして……。
カードの片隅には赤いハートのマークが印刷されてあった。
――でもな。
期待することではない。
このメッセージカードは、そもそもハンカチとセットになっているものなのだ。
けれども、
――もしかして。
そうも思ってしまう。




