迷い猫
夕暮れどき。
バイト先から帰ってくると、この時間いつもはいないミケがノラと玄関先にいた。
そして、そばには小さな黒猫がいた。
まだ子供の猫である。
「その子猫、どうしたんだ?」
「サオリさんに頼まれたんです」
ミケが答える。
「サオリさんって?」
「この子、捨てられたみたいで」
サオリさんと散歩中、ミケが神社の境内で見つけたのだという。
しかし……。
サオリさんの父親は大の猫嫌い。それで、どうしても家に連れて帰ることができなかったそうだ。
「で、ここに?」
「いまサオリさん、この子をもらってくれる人を探してるんです。ですから、それまでここに」
ミケからもお願いされる。
ミケも元は捨て猫である。しかも子猫と同じ神社に捨てられていた。同じ境遇の子猫に気持ちを寄せるのは当然であろう。
「なあ、ワシからも頼むよ」
ノラも頭を下げてくる。
ノラやミケはともかく、サオリさんに頼まれて断るなんてとんでもない。
「オマエ、ここにいたらいい」
オレは子猫の小さな頭をなでてやった。
ミケが帰ったあと。
「こいつ、腹をすかせてるんだ。早くメシを食わせてやってくれ。ついでにワシのもな」
ノラがオレをせかせる。
さっそくノラの分と合わせてメシをこしらえ、子猫の鼻先に置いてやった。
子猫がなめるようにして食べる。
「飼い主が見つかるといいがな」
「なあに、見つからんときはワシが育ててやる。だからなんの心配もいらん」
ノラが子猫を見て言う。
「オマエ、メシを食わせてもらってる身分で、よくそんなことが言えるな」
「それとこれとは別だ」
「どうちがうんだ?」
「こいつを鍛えて、一人前の野良として食えるようにしてやる。ワシのようにたくましくな」
ノラは本気らしい。
その夜。
勤め帰りのサオリさんが我が家に寄った。
子猫に食べさせてくださいと、わざわざ子猫用の猫缶を持ってきてくれたのである。
「押しつけちゃってすみません。お店に置いておくわけにもいかなくて」
「いえ、ボクはいいんです。それで飼い主、見つかりそうですか?」
「それがなかなか見つからなくて。いろいろ知り合いにあたっているんですが」
サオリさんもこまっているようだった。
翌朝。
ノラにはいつものネコマンマ、子猫には猫缶を出してやった。
ノラが猫缶をじっと見る。
「ノラ、横取りするなよ」
「ふん! そんなもんが食えるか」
ノラは鼻を鳴らして強がった。




