花見
今日からは夜勤。
午前中のうちに、畑に三種類の夏野菜の苗を植えつけた。
――おばあちゃん、毎年こんなことをしてたんだ。
生前の祖母のことが偲ばれる。
そして……。
――もう花が咲いてるだろうな。
先日の墓参りのときに見た、墓苑にあった桜を見に行くことにした。
再度、ノラを花見に誘ってみた。
「行かん」
「ナワバリは、どうしても出られんのか?」
「すまん」
ノラはオレ一人で行けと言う。
墓苑には自転車で行く。
五十本ほど立ち並ぶ桜は七分咲きで、今がまさに見ごろであった。
それぞれの桜の樹の下には、子供連れの家族や仕事仲間とわかる者たちがすでに陣取っていた。
見物場所を探して人ごみを分け進む。
と、そんなとき。
予期せずサオリさんの姿を見つけた。
なんと、ノラとミケも一緒である。
――ノラのヤツめ!
ミケと来るため、あえてオレの誘いを断ったのだ。
そして……。
あの男もサオリさんの隣にいた。
――やっぱり家族だったのかな?
先日の、ミケの言葉を思い出す。
――まさか?
サオリさんが独身だとは聞いていないのだ。
兄弟ではなく旦那だってこともある。
オレの足は勝手に、墓苑の入り口に向かって引き返していたのだった。
「サトウさーん」
背後からサオリさんの声が聞こえた。
振り向くと、サオリさんが手を振りながら小走りでやってくる。
「よかった、気づいてもらえて」
サオリさんはオレの前まで来ると微笑んで、「こんにちは」と頭を下げた。
ノラにミケ、続いて男もやってきた。
「弟です」
サオリさんが隣に立つ男を紹介する。
「こんにちは」
男が笑顔で挨拶をよこした。
「サトウです」
ミケの話はエイプリルフールとは関係なかったのである。しかも男は弟であった。
「ノラさんから、今日はサトウさんも来ると聞いていたので、お弁当、いっぱい作ってきたんです。よろしかったら一緒に食べませんか?」
「は、はい」
頭はひどく混乱しながらも、オレはしっかりとうなずいていたのだった。
夜勤に出るとき、玄関先で丸くなっているノラに声をかけた。
「ミケの話、嘘じゃなかったんだな」
「アンタとちがうからな」
「ところで、聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「オマエ、なんであそこにいたんだ? あれほど花見に行かんと言ってたじゃないか」
「ワシ、そんなこと言ったか」
ノラがとぼける。
そんなノラに……。
感謝の気持ちでいっぱいのオレだった。




