エイプリルフール
今日はエイプリルフール、嘘が冗談となって許される日である。
ノラへの、ちょっとしたイタズラを思いついた。
朝の見まわりから帰ってきたノラに、いつものようにネコマンマを出してやり、それから神妙な顔で話しかける。
「ちょっと話しにくいことなんだが……」
「なんだ、サオリさんのことか?」
「いや、ミケのことだ」
「ミケがどうした?」
「まあ、先に食え」
「気になるな、早く言え」
ノラはメシを食いながら、オレの顔を何度もチラ見してくる。
――ここらでいいか。
じらしにじらしてから、いよいよエイプリルフールの本番に入る。
「実は昨日の夕方、ミケがほかのヤツとジャレついてたのを見たんだ」
「なんだと?」
「けっこう、いい仲のようだったがな」
「アイツ……」
「裏切られたのかな?」
「ミケって、かわいいだろ。だからほかのヤツに、ちょくちょく声をかけられるって」
ノラはメシを食うのも忘れている。どうやらすっかり信じこんだようだ。
そのサマがおかしくもあり、悲しくも見える。
「嘘だ、みんな嘘だ」
四月一日の今日は、どんな嘘でも冗談ですまされることを教えてやった。
その日の夕方。
我が家に来たミケが意味深なことを言う。
「サオリさん、あなたのことをいつも話しているんです。気になるみたいで」
「よかったじゃないか」
ノラがオレを見る。
信じられないことだ。
ホワイトデー以来、サオリさんとは顔も合わせていないのである。
――ノラのヤツめ!
今日はエイプリルフール。
これはノラの、今朝のオレヘの仕返しなのだろう。
「ノラ、嘘なんだろ。オマエがミケに言うように仕組んだのか」
「ワシ、なんもしてないぞ」
ノラが首を振る。
そのノラにかわって、ミケが答える。
「ほんとのことです。サオリさん、アタシたち猫が好きな人がいいって。だから……」
「だからって、オレがいいとは……。それに恋人もいるしな」
「ううん、恋人なんていません」
「でも、男がいつも一緒にいるんだぞ」
「あの人、うちの家族なんです」
それは、まさにおどろきの一言であった。
その夜。
サオリさんのことが頭いっぱいに広がって、いつまでも寝つけなかった。
――家族だったとは……。でも、ノラの仕返しだったら……。
今日はなんたってエイプリルフール。真に受けて嘘だったら、ひどく落ちこむことになる。
それにだ。
ノラにだまされるのは悔しい。




