ホワイトデー
ホワイトデーのお返しは、悩みに悩んだ末、やはりなにかしらの品物を渡すことにした。
が、今度は……。
プレゼントをなににするか迷う。
売っているお菓子などでは、心がこもっていないであろう。といって高価なものだと、サオリさんへの気持ちが透け透けになってしまう。
バイトが終わってから商店街に行った。
そこでもさんざん迷ったあげく、淡い水色のハンカチを一枚だけ選んだ。
その足でペットショップに向かう。
いつまた会えるかわからない。今日のうちに思い切ってハンカチを渡すつもりだった。
ペットショップのガラス窓越しにサオリさんの姿が見える。
サオリさんは客と話していた。
――どうしよう……。
この場におよんでまた迷ってしまう。
店内にはほかの客もいる。
情けないが、渡す勇気がしぼんでしまった。
仕事帰りのサオリさんが通るのを待って、家の前の道路に立っていた。
「アンタ、そこでなにやってるんだ?」
ノラが問うてくる。
「サオリさんを待ってるんだ。ホワイトデーのお返しを渡そうと思ってな」
「やって来るとはかぎらんぞ」
「そのときはあきらめる」
「情けないな」
ノラが顔をしかめて笑う。
そう、情けない。
だがオレには、そうすることしかできないのである。
この日。
サオリさんには会えなかった。
翌日の夕方。
バイトから帰ってくると、この時間にしてはめずらしく、ノラのそばにミケがいる。
「別れがつらくて、オマエらまだデートか?」
「へへへ……」
ノラがニヤける。
と、そこへ。
「ミケ、やっぱりここにいたのね」
予期せずして、神社の方角からサオリさんがやってきた。
「なかなか帰ってこないもので、たぶんここだろうと思って」
サオリさんも勤務が不規則で、今日は仕事が休みだったという。
ハンカチを渡すチャンスである。
「これ、ノラの花粉症の薬のお礼です」
ポケットから包みを取り出し、あわててサオリさんの前に差し出した。
サオリさんとミケが帰ったあと、
「うまくいったな」
ノラがニヤリと笑う。
「なにが?」
「ミケと考えたんだよ。サオリさんがここに来るようにとな」
「それでミケは遅くまで。でも、サオリさんにはカレがいるからな」
「ほんとにカレなのか? ミケが話してたんだが、サオリさんにはカレはいないそうだぞ」
ノラが意外なことを言う。
――どういうこと?
頭がいっぺんに混乱してしまった。




