花粉症
ノラがしきりにクシャミをする。
目も赤くなっていて、まちがいなく花粉症の症状である。
「オマエ、やっぱり花粉症だな」
「モテる男はつらいな」
ノラがへらず口をたたく。
オレは一度だけのクシャミだった。
あれから一度も出ていない。
ミケがやってきた。
「これ、サオリさんがノラさんにって」
ノラに紙袋を差し出す。
「なんだ、これ?」
袋の中のものを取り出してから、ノラがオレの顔を見上げる。
「花粉症の薬みたいだな」
「うまいのか?」
「ああ、食うか?」
「食う、食う」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
薬を受け取り家にもどると、ネコマンマをこしらえて、その中に薬をまぜた。
薬は猫用のものである。
ペットショップにあるものをくれたのだろう。
――ノラのこと、ミケから聞いたんだな。
サオリさんの優しさがうかがえた。
「おっ! またメシが食えるのか」
ノラが目を輝かせる。
「さっきの薬をまぜてある。食うと、クシャミがとまるぞ」
「モテなくなるのはつらいが」
そう言いながらも、ノラはしっかりネコマンマを食ってしまった。
ミケに問うてみた。
「ミケは神社の近くにいるそうだな?」
「はい」
「神社に行くことがあるのか?」
「サオリさんが散歩するときに、アタシもついていきます。それに、アタシが生まれたところだから」
「それで、サオリさんに拾われたんだな」
「そうなんです」
「サオリさん、優しい人なんだな」
「とっても」
サオリさんのことをもっと聞きたかったが、やめておいた。知ったところでどうなるものでもない。
サオリさんには恋人がいるのだ。
その日の夕方。
玄関先で仕事帰りのサオリさんを待った。ノラの薬のお礼をするためである。
しかし仕事が休みなのか、この日はサオリさんに会えずじまいだった。
そしてノラだが……。
いつかしらクシャミがとまっていた。どうやら花粉症の薬が効いたようだ。
翌日のこと。
オレにクシャミが出始める。
「よかったじゃないか、アンタも女にモテるぞ」
ノラがオレを見てニヤリとする。
「いや、ただの花粉症だ」
どうやらオレも、ノラにつき合って花粉症になってしまったようだ。
その夜。
窓をたたく風の音がする。
時節からして、おそらく春一番であろう。
風の音を聞きながら悩む。
――どうしようか?
バレンタインのお返しのことで、眠るまでずっと迷いまくっていた。




