ひなあられ
今朝のこと。
ネコマンマを食いながら、ノラがしきりにクシャミをする。
「どうした?」
「鼻水が止まらなくなっちまって」
ノラはクシャミを連発しながらも、ネコマンマはきれいに食べあげた。
今日はひな祭り。
この日はコンビニで、サオリさんがやってくるのを心待ちにしていた。カウンターの下には、プレゼントのひなあられを忍ばせている。
先日のバレンタインのお返しである。
あとはサオリさんが来店するのを、ただひたすら願うだけである。もし来なければ、ホワイトデーを待って別なお返しをするつもりだった。
夕方。
お待ちかねのサオリさんが姿を見せた。
だが、残念なことに若い男が同伴だった。この前も一緒だったヤツである。
「いらっしゃいませ」
心の内を悟られないよう、店員としての笑顔で出迎えた。
「こんにちは」
サオリさんも笑顔を返してくれる。
――しょうがないな。
今日はお返しを見送るしかない。
サオリさんは男と連れ添って、ひな祭りの特設コーナーに向かった。
しばらくして……。
備えつけのカゴを手にしたサオリさんが、オレのところへ会計にやってきた。
「先日はありがとうございました。チョコ、おいしくいただきました」
バレンタインのお礼を小声で言う。
「ごめんなさいね。わたし、なんだか無理に押しつけたみたいで」
サオリさんがカウンターにカゴを置く。
――あっ!
中にはひなあられと花粉症用のマスク。
サオリさんもひなあられを買ったのである。
――かぶるとはな。
これではカレがいなくても渡せなかった。
と、そのとき。
派手なクシャミが聞こえた。
クシャミの主はサオリさんのカレであった。ということは、マスクはヤツのものである。
ヤツが出口で、鼻をこすりながら待っている。
オレは手早く会計をすませた。
「失礼します」
サオリさんは男の元に向かい、それから二人そろって帰っていった。
――よかったのかもな。
ホワイトデーでもないのに、恋人のいる女性にプレゼントを渡さずにすんだのだ。
その夜。
ノラとひなあられを食べた。
「オマエ、花粉症かもな」
「なんだ、花粉症とは?」
「女にモテるヤツがなる病気だ」
と言ったとたん。
クシャン!
オレにもクシャミが出たのだった。




