ギリチョコ
早朝の凍てつく寒さの中。
コンビニのバイトから自転車をこいで帰った。
今週は深夜が当番である。
ノラが玄関先で出迎えてくれた。
「大変だな、アンタ」
「ああ、寒くてしょうがない」
これまた寒い台所で、いつものようにネコマンマをこしらえてやった。
ミケがやってくる。
ミケは手になにやら持っていた。きれいな包装紙に包まれ、それにはピンクのリボンがついている。
「これ、ノラさんに」
「なんだ、それ?」
「今日はバレンタインだから」
「バレンタインってなんだ?」
ノラがオレの顔を見る。
「女が好きな男にプレゼントを渡して、愛を告白するんだ。コンビニでもいっぱい売っている」
「そんなもん、どうやって手に入れた?」
ノラがミケに問う。
「サオリさんが作ってくれたの」
材料はチョコではなく、ノラが大好きなチーズであるという。
「へへへ……」
ノラはプレゼントを受け取ると、うれしそうに顔をにやつかせた。
――うらやましいもんだ。
オレには今晩もバイトがある。いちゃつくノラとミケを残し寝ることにした。
夕方。
「おーい、起きろー」
ノラの声で外に出てみると、玄関先にサオリさんが立っていた。
「すみません、寝ていらっしゃったんでしょ」
「いえ、どうせ起きるところだったんです。バイトに行かなきゃならないので」
「これ、受け取ってください」
サオリさんがきれいな包みを差し出す。
なんと、バレンタインのプレゼントではないか。
「いつもここで、うちのミケがお世話になっていますので」
「ありがとうございます」
天にも舞い昇る気分だった。
義理でもなんでもいい。もらわないよりはマシなのである。それも、くれたのはサオリさんなのだ。
「失礼します」
サオリさんがミケを抱いて帰る。
「よかったじゃないか」
ノラがオレを見上げて言う。
「そうでもない」
「なんでだ、愛を告白されたんだぞ」
「そんなんじゃない、ただのギリチョコだ」
「ギリチョコ?」
「愛の告白なんてものじゃなく、好きでもない相手に義理で渡すものだ」
包みを開けてみた。
コンビニなんかに並んでいる市販のチョコとは明らかにちがう。
手作りなのである。
――もしかして……。
いや、そんなことはあるはずがない。なんといってもサオリさんには恋人がいる。
――まあ、義理でもいいか。
もらわないよりはいい。
とにかくオレも、今年はバレンタインチョコをもらった。




